1992年の『信長 KING OF ZIPANGU』

I:そして、1992年の『信長 KING OF ZIPANGU』です。信長を緒形直人さん、秀吉は仲村トオルさん、浅井長政は辰巳琢郎さん、お市の方は鷲尾いさ子さん、浅井久政は寺田農さんです。本作も「小豆袋」のエピソードはありませんでした。

A:本作は、越前一乗谷の朝倉義景(演・北村総一朗)の登場頻度が多かった記憶があります。朝倉義景は「家柄からいっても目下の目下」と信長を徹底的に見下します。織田家と朝倉家はともに守護の斯波(しば)家の守護代の家系がルーツです(信長の弾正忠家は守護代の奉行)。

I:劇中の浅井長政は、輿入れ前のお市に対して「信長の妹お市とやらは、雲つくような大女(おおおんな)という噂でございまする。そのような化け物、死んでもごめんこうむります」といっていたのですが、出会った瞬間に一目ぼれで、最終的には「お市は宝」というほどの仲になりました。

A:「長政とお市」の大河ドラマヒストリーでは特筆すべき展開ですよね。

I:信長を裏切ったのは、やはり、婚姻の際に交わした「朝倉を攻めない」という誓詞を信長が反故にしたためです。「信長は約束を破ったのじゃ」と浅井久政は朝倉方につくことを主張します。一方、辰巳琢郎さん演じる浅井長政は「わが浅井家を巻き込みたくなかったからかもしれません」「朝倉殿にも非がございます」と信長を擁護します。久政は長政の弱腰は、お市のせいだと断じます。それに対して長政は「市はわが宝、国の行く末とおなじくらい重うございます」と答えるのです。歴代長政でもっともお市にメロメロになっていたのが本作の長政です。

A:とはいえ、一族の総意を無視できません。お市の方に事情を説明する長政は、「朝倉殿を見捨てれば武門の恥」とし、お市の方も「悪いのは兄にございます」と呼応します。そして、「死ぬときは手を取り合って」と決断するのです。信長に「浅井離反」を伝えたのは、小豆袋ではありませんでした。織田方に捕らえられた朝倉方の兵士が「浅井が助けにくる」と言っていたことを報告された信長は「ありえぬ」と一蹴します。続いて浅井に不穏な動きがある旨の報告に対しても「ありえぬ」と浅井の離反を信じようとしません。ここで木下藤吉郎が浅井・六角の軍勢が迫ってきていることを報告。三度目の報告で、信長はようやく逃げる決意をするのです。

I:本作は、長政とお市の絆がどの作品よりも強調されました。「死ぬときは手を取り合って」とまで言っていたお市が「小豆袋」を届けていたら、「?」となるところでした。

1996年の『秀吉』

I:大河ドラマの歴史の中で、平均視聴率が30%を超えた最後の作品が1996年の『秀吉』です。秀吉を竹中直人さん、信長を渡哲也さん、浅井長政を宅麻伸さん、浅井久政を梅野泰靖さん、お市の方を頼近美津子さんが演じました。本作で他作品にない場面といえば、婚姻前にお市がおね(演・沢口靖子)を呼び出して「夫婦(めおと)」とは何か、という質問をするやり取りがあったところです。

A:おねが夫秀吉のために死ねる、という話をした際に、お市は「妻とは夫のためにすべてを捧げるものか」「夫婦とはそのようなものなのか」と感嘆しきりでした。婚姻の際には、秀吉と柴田勝家(演・中尾彬)が護衛として小谷城まで同行する設定でした。ふたりと同席した秀吉が長政に「一目ぼれですか?」と聞いたのは、『信長 KING OF ZIPANGU』へのオマージュでしょうか。

I:おねとお市の方のふたりだけのやり取りがあるのは面白いですね。

A:ところが――。ある朝、出陣の支度を整えた久政と長政がお市の寝所にきて、「義によって朝倉義景殿にお味方することに相成った」と告げます。浅井久政が「信長殿は朝倉殿を攻めぬという条件を破ったのじゃ。因は信長殿にある」と理由を説明します。長政も「前は朝倉、背後は浅井。袋のねずみじゃ。万にひとつも兄上の命は助かるまい」と、お市に対して「城を出て岐阜に戻るか、自害をするか、いや、このまま長政の妻として茶々や子のために生きてはくれぬか」と揺れ動く心をストレートにぶつけます。それに対してお市の方は、「わたくしはあなたさまの妻にございます」「たれか、三方をもて」と、長政の妻として、運命をともにする決意を表明します。「打ち鮑」「昆布」「勝ち栗」をのせた三方が運ばれると、長政の杯に御酒を注いだのです。三献の儀ですね。

I:運命をともにする決意を表明するのは『信長 KING OF ZIPANGU』と同じですが、三献の儀まで行なったうえで、お市は、「小豆袋」を信長に送ります。

I:夫の長政と運命をともにするような言動をしながらも、一方で信長にも一報する。『豊臣兄弟!』の表現を借りれば、まさに「女狐の所業」。戦国乱世を生き抜くには、このくらいしたたかでなければならぬということでしょうか。

A:さて、信長のもとに送られた「小豆袋」ですが、袋を見た秀吉が「袋の両端がひもで……」と言った瞬間に、秀吉と信長の表情が変わります。信長が「おのれ長政! 裏切りよった!」と喝破するのです。同時に、光秀が「袋の両端がひもで結ばれているということは袋のねずみということでございますか」と声を挙げ、信長が「前は朝倉、背後に浅井」と切歯扼腕して、兵を引く決意をするのです。

I:さて、大河ドラマ6作品の「浅井離反」を概観しました。

A:なお、1965年の『太閤記』ですが、ほとんど映像が残っていないため、「浅井家離反」がどのような展開だったのかは、確認できませんでした。信長を高橋幸治さん、秀吉を緒形拳さん、浅井長政を大山克巳さん、お市を岸恵子さんが演じています。

※宮崎あおいの「崎」は正しくは「たつさき」。

●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

1 2

 

関連記事

ランキング

サライ最新号
2026年
5月号

サライ最新号

人気のキーワード

新着記事

ピックアップ

サライプレミアム倶楽部

最新記事のお知らせ、イベント、読者企画、豪華プレゼントなどへの応募情報をお届けします。

公式SNS

サライ公式SNSで最新情報を配信中!

  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
  • LINE

小学館百貨店Online Store

通販別冊
通販別冊

心に響き長く愛せるモノだけを厳選した通販メディア

市毛良枝『百歳の景色見たいと母は言い』

花人日和(かじんびより)

和田秀樹 最新刊

75歳からの生き方ノート

おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店
おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店