風邪のひき始めに、「悪寒を感じたら、とりあえず葛根湯」。そんな習慣が身についている方も、多いのではないでしょうか? 冷えからくる肩こりや頭痛のときにも、頼ることができる漢方薬です。

一口に「風邪」といっても、症状のタイプはいくつかあります。そのため、葛根湯が効くケースもあれば、じつは、そうではない場合も…。馴染み深い漢方薬だからこそ、注意点を確認しておきたいものです。

今回は、葛根湯の正しい使い方と、風邪のひき始めに効果的なセルフケアを紹介します。

本連載では、国際中医専門員である志村幸枝先生に、中国伝統医学の知恵から体の違和感について、そのサインを読み解いてもらいます。今回訪れているのは、家庭に常備薬を揃えておこうと相談にきた女性。ちょっと、覗いてみましょう。

【今日のお悩みカード】

相談者:53歳 女性
主な症状:風邪をひきそうになったとき、葛根湯を飲んですんなり治った経験がある。喉から始まる風邪や、お腹にくることもあるので、風邪薬の使い分け方を知りたい。

リスト作成:もぱ

葛根湯だけで、本当に大丈夫?

女性は、バッグから開封済みの葛根湯のパッケージを取り出しながら、こう切り出しました。

「志村先生、今日はこれを買い足しに来たんです。背中がゾクゾクしてきたときに飲むと、体が温まってくるので助かっています。

肩がこったときも、頭が痛いときにも、とりあえず飲んでみるとスカッととれることが多いんです。だから、うちの常備薬はいつもコレ。一箱あれば安心なので、今年は多めに常備しようと思って」

写真:illustAC

「それは、まさに葛根湯の得意なところですね。クーラーや冷たい風で、体表が冷えたときの肩こり。そして、一時的な筋肉のこわばりからくる頭痛には、葛根湯はよく合います。

でも…、風邪のひき始めって、どんなご様子ですか?」

尋ねられた女性は、考えながらこう言います。

「そうですね…。なんとなく寒気があって首回りにコリを感じたときは、すぐに飲んでいます。若い頃は、こういう違和感に気づくことすらなかったんですが…。でも、年の功ですよね(笑)。今はその感覚がわかるようになったので、とにかく早めの対処を、と思いますが…。ダメですか?」

「いいえ。そうした体の違和感に敏感に対処できることは、とてもいいことですよ。おっしゃるとおり、葛根湯は寒気が強くて、汗をかいていない初期の風邪に、力を発揮する薬です。

ただ、風邪のサインは他にもタイプがあって、葛根湯だけですべて抑えることはできません。例えば、鼻や喉にカーっとした熱感があったり、お腹の違和感から始まったりする風邪に、覚えはないでしょうか?」

「そう言われると…。昨年、寒気がないまま、いつの間にか症状が進んでしまって、ひどい咳が長引きました。最初のサインを見逃したから悪化させた、と思っていましたが…。そもそも違うタイプの風邪だったんですか?」

志村先生は、深く頷きました。

「そうなんです。サインは寒気だけでなく、喉が痛いか、発熱があるか、あとは、胃腸症状の有無などを確かめて、ここから症状に合わせた処方を考えていきます」

志村先生は、改めて葛根湯の正しい使い方と、風邪のタイプについて教えてくれました。

あなたの風邪はどのタイプ?

風邪の気配があるとき、まずは寒気と熱っぽさ、どちらが強く出ているのか? ご自分の状態を、よく観察してみましょう。

【青い風邪】寒気を感じるタイプ

写真:illustAC(一部加工)

「最初に、葛根湯が合う風邪から確認しましょう」

・ゾクゾクとした寒気が強く、汗は出ない
・発熱はほとんどなく、あっても軽い程度
・鼻水は透明でさらさらしている
・首や肩のこわばり、関節痛や筋肉の痛みがある
・手足が冷える

「葛根湯を飲むと効くのは、このタイミングです。さらに外からもアシストして発汗を促すとより効果的です」

養生

・余力があれば、湯舟に首まで浸かり、体全体を温める
・カイロなどで首や背中を温める。ドライヤーの温風を当てるのもOK
・生姜やねぎを入れた温かいスープを食べる

耳を傾けていた女性は口にします。

「よく耳にする、『風邪はひき始めの対処が大切』というのは、このことなんですね。葛根湯を服用すると、早い段階で防御ができるので、風邪がこじれることが少ないと感じています」

女性の言葉に、大きく頷きながら、志村先生は続けます。

「風邪の原因となる、外からのよくない影響のことを、『邪気』と呼びますが、葛根湯は、汗をかかせて、この邪気を追い出すようなイメージの薬です。

これで治れば一安心。でも、スッキリしない場合は次の手を打つ必要があります。こじれると、ここからさらに対処が続いてしまい、大変です」

頷く女性に、志村先生は葛根湯を飲むときの注意点も教えてくれました。

注意点

「葛根湯を飲んで、じわっと汗が出たら、そこで服用を止めましょう。長く飲み続ける漢方薬ではないので、気をつけてくださいね。

それから、先ほどおっしゃっていたように、頭痛や肩こりに葛根湯を使う方が多くいらっしゃいます。でも、じつは原因によって対応は変わります。他の処方が適切な場合もあるので、よろしければご相談にのりますよ」

【赤い風邪】熱を感じるタイプ

写真:illustAC(一部加工)

「次に、赤い風邪といわれるタイプは、鼻から喉、肺にかけての症状が出やすく、体に熱っぽいサインが現れます」

・寒気はほとんどなく、熱を感じる
・青い風邪に比べて、発熱は高めになりやすい
・のどが赤く腫れて、ヒリヒリと痛む
・鼻水や痰が黄色く、粘り気がある
・鼻の中や口が渇いて、冷たい水が欲しくなる

「このタイプは、体の中にこもった熱を発散させる対策が中心です。葛根湯のように体表を温める薬や養生は、かえって合いません」

養生

・辛いものや刺激の強い食べ物は控える
・梨など、体の余分な熱を鎮める食物を食べる
・水分をこまめにとる(冷たすぎるものは避ける)

ちなみに、先ほどご紹介した青い風邪から、こちらの赤い風邪に変化することも多くて、漢方薬はその都度、症状に合わせて使い分けます。

よく使うのは、熱を鎮めて炎症を和らげる処方です。銀翹散(ぎんぎょうさん)、涼解楽(りょうかいらく)、金羚感冒散(きんれいかんぼうさん)など。

じつは、この三つは中身がよく似ていて、お店によって違う名前で並んでいます。ドラッグストアで悩んでしまう原因のひとつかもしれませんね」

女性は、思い当たる様子で言いました。

「そうなんです。漢方薬の名前をメモして行っても、商品がないこともあるし、見ているうちに他の薬に目移りしてきて、結局なにも買わずに帰ってきたこともあって…」

「わかります。本当は、風邪薬にはもっとたくさんの種類があるので、これをご自分で判断しようとするのは大変かと思います。だからこそ、こうして漢方専門のお店に相談していただければ、お力になれますよ」

お腹の風邪タイプ

写真:illustAC(一部加工)

最後に、志村先生はお腹に症状が出るタイプの風邪にも触れました。

・全身のだるさや、食欲不振がある
・腹痛、下痢や軟便、吐き気がある
・口の中が粘つき、さっぱりしない
・発熱があっても、高熱にならないことも多い

「お腹の風邪の場合、冷えや疲労などによって胃腸の力が落ちているところへ、邪気が入り込んでしまった状態。だから、ケアの基本となるのは、胃腸の負担を減らすことです」

養生

・体温より冷たい飲食を控え、温かいものを選ぶ
・食欲がなければ無理せず、食べるなら消化の良いものを少量にする

静かに耳を傾けていた女性は、口にします。

「下痢止めを飲んで治すのではなく、胃腸の疲れを癒して回復を待つ、ということですね。じつは夫が、お腹の調子から崩すことが多いので、参考になります」

「そんなときは、ぜひお声がけください。

胃腸が本来の元気を取り戻すまでは、食欲がわかなかったり、疲労感が残ったりすることがあるので、相談しながら進めましょう。『あれを飲めば効きますよ』と、今は簡単に言えませんが、お力になれると思います」

症状が治まったあとは?

志村先生は風邪が治ったあとにも、できることがあると言います。

「ここまでご紹介した風邪薬はいずれも、そのとき出ている症状を鎮めるための薬です。じつは漢方薬には、体質そのものを整えていく体質改善のタイプもあります」

「風邪をひきやすい体質を、変えるんですか?」

「はい。症状が治まったあとは、風邪をひきにくい体づくりに漢方薬の処方を切り替えます。体質に合わせながら、足りない部分を補う処方を取り入れていくと、季節の変わり目でも体調を崩しにくい体に整っていく方が多いです。『今年はまだ一度も寝込んでいない』。そう実感できる年も、出てくると思いますよ」

寒くなると風邪をひくことが多い女性にとって、予定の変更が生じたり、生活のリズムを崩されることに、毎回ストレスを感じていたので、これは嬉しい提案です。

あなたにとっての「常備薬」を持つ

「今回は葛根湯を買いに来たつもりだったんですけど…」

相談の最後に、女性は困ったように口にします。

「今日は、どうすればいいんでしょう? その都度、風邪の症状を見極めながら、それに合う漢方薬を選ぶのは、自信がないな…」

写真:illustAC

志村先生は、微笑みました。

「そうですね。まずは、使い慣れた葛根湯に加えて、赤い風邪のときに使える処方も、ひとつ常備しておくと安心です。どちらのタイプかわからないときは、お近くの漢方薬局や薬剤師さんに相談してみるといいですよ。購入された方のご相談には、親身に応じてくれるはずです」

「その都度、漢方薬の使い分けや、飲むタイミングを教えてもらえると、心強いですね」

「判断に迷ったときこそ、直接相談できれば安心です。その上で、手元にいくつかの選択肢があれば、様子を見ながらすぐに動くこともできます。

症状が治ったあと、もしよろしければ、漢方相談に改めてお越しください。葛根湯の補充でもいいです。お時間があるときに相談ができると、体質も考慮しながら、予防に役立つものをご紹介もできますから。そうして関係を続けていけば、なにか健康に異変があったときに、役立ちますよ。

それに、初めての相談と、二度目、三度目の相談って、じつは全然違うんです」

「そうなんですか?」

「例えば、美容室と同じで、初めて行くお店ではその日着ていた服装だけでイメージが決まってしまうこともありますよね。でも、通ううちに好みのスタイルをわかってもらえて、だんだんお任せできるようになる。イメージを言葉で伝える必要がなくなってきますよね。漢方も、それと同じなんです」

「体質を把握してもらって、相談できる場所があれば、それはありがたいですね」

納得した女性に向かって、志村先生は伝えました。

「そう言ってくださり、ありがとうございます。風邪薬に限らず、あなたにとって、さらに役立つ常備薬もご紹介できると思いますよ」

おわりに

風邪のひき始めには、自分の体に起きている症状が、熱っぽさなのか、寒気なのか、見極めることが大切です。葛根湯は心強い薬ですが、万能ではありません。馴染み深いからこそ、使いどころを知り、体調に合わせて使い分けることが必要です。

使い分けが正しくできるようになった頃には、もしかして、なかなか風邪をひかない体に整っているかもしれません。

※この記事は、国際中医専門員・志村幸枝先生が長年の相談経験に基づき、実例を再構築したものです。プライバシー保護のため設定は変更していますが、身体の悩みと見立ては現場の知見に根ざしています。

中医学において、身体の状態は千差万別です。紹介した養生法は一例であり、効果を保証するものではありません。ご自身の身体をより正確に知りたい方は、ぜひお近くの漢方薬店など、専門家を頼ってみてください。

身体に明らかな不調がある場合は、自己判断せず速やかに医療機関を受診してください。

●監修/志村幸枝

国際中医専門員。CoCo美漢方神戸勤務。登録販売者。漢方相談歴は28年。身体の変化を感じる年頃になり、自分を実験台に漢方と向き合う毎日。日常に絡めた喩え話で「伝わる中医学」をSNSで発信している。お酒を飲みながら美味しいものを食べている時が一番幸せ。趣味はおつまみ作り。
X:漢方しむしむ@simusim01454535
インスタグラム:CoCo美漢方神戸@cocobikobe0310
※ご相談のご予約はインスタグラムからお願いいたします。

●構成・文/もぱ(京都メディアライン)

 

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