文/鈴木拓也

「孤独」や「ひとりぼっち」という言葉には、どことなくネガティブな印象がつきまとう。
『旧約聖書』では、「人がひとりでいるのは良くない」と、ほかならぬ神が述べているし、アリストテレスは「人間は本性において社会的動物である」と、有名な言葉を残している。
陶片追放、追放刑、村八分など、地域によって言い方や意味合いは異なるが、共同体から排除し孤独に追いやる制裁も、はるか昔からあった。
現代の日本では、「孤独・孤立対策推進法」が施行され、政府が音頭をとって国民を孤独から守ろうとしている。ほかの先進諸国も、同様の政策を打ち出しているのは周知のとおり。
では、ひとりでいることは、本当に忌避すべきことなのだろうか?
孤独のポジティブな側面に光を当て、「ひとり時間」の有意義な過ごし方を提唱するのは、カナダ・カールトン大学の心理学者、ロバート・コプラン教授だ。
教授は、30年以上の研究にもとづき『The Joy of Solitude』を上梓。先般、邦訳版の『最新科学が証明する ひとり時間のすごい力』(河出書房新社 https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309232010/)が刊行されている。今回は、ごく一部であるが、本書の内容を紹介したい。
自然の中にひとりでいることの大きなメリット
親しい人と会話をするのは、楽しい体験だ。しかしそれも程度問題で、長時間に及べば心理的に疲弊してしまうこともある。不仲な人が相手なら、なおさらだろう。
そんなとき、誰しもひとりになりたくなる。そうすれば、ほっと心が落ち着き、対人関係のいざこざも冷静に考えられるようになる。
コプラン教授は、これを「~からの自由」という言葉で表現する。窓を少し開けたまま高速道路で車を走らせていると、細い隙間から風や騒音が入り込んでくる。しばらくして窓をピタッと閉じると、一瞬にして静かになる。それまで外部の音がいかに大きかったか、はじめて気づく。人づきあいも同じことが言える。ひとりになると、周囲の人たちが発していた雑音や圧力の大きさを改めて知り、ほっと解放された気持ちになれる。これが「~からの自由」だ。
この自由を十全に得るには場所も重要で、最も効果的なのは自然環境に身を置くことだという。人気のない海辺や森に行くと、ストレスホルモンのコルチゾールの分泌量が減り、逆にエンドルフィンやドーパミンが増える。要するに、リラックスできて、幸福感が高まるわけだ。
効用は、これにとどまらない。本書には、シカゴ大学の研究が取り上げられている。その研究では、大学生らに高い集中力や記憶力が求められる課題をこなしてもらう。そのあと、半数は都心を、残りの半数は樹木園をひとりで1時間歩いてもらった。それから、学生たちの集中力や記憶力をテストした。結果は、樹木園を歩いた学生たちのほうが、「著しく高いスコアを示した」という。
もちろん、自然の中にひとりでいるより、複数人でいたほうが好ましいシチュエーションはあるだろう。例えば、行楽日和に気の合う仲間と山野を散策するのは、格別の楽しさがある。それでも、単独で自然豊かな場所を歩くメリットは、無視できないものがある。
1日15分でもよい
こう書くと、都会暮らしの人からは、「毎日1時間も郊外で散歩なんかできないよ」という声が聞こえてきそうだ。また、外向的な性格だと、ひとりでいることは辛いと感じられるかもしれない。
コプラン教授は、ひとりの時間は「1日わずか15分」でも、はっきり効果は表れると述べている。また、ひとりである程度の時間を過ごすことは、一種のスキルであるという。つまり、日曜大工やスキーのように事前に訓練は必要で、次のようにアドバイスしている。
忙しい1日が始まる前に、朝少し散歩しよう。午後に静かな場所でお茶を飲もう。仕事を終えて家に戻っても騒がしく忙しく過ごさなければならないのであれば、その前に数分間、車の中で過ごしてみよう。ただし、こうした時間をあらかじめ計画し、意識して取らなければならない。
(本書191pより)
また、ひとりの時間が好きになれなくても、最初は好きなフリをすることもすすめられている。大事なのは、その時間から「有益なものがもたらされる」と確信することだ。
ただし、注意すべき点がある。ひとり時間に、ネガティブなことをくよくよと考えてしまう危険性だ。これは反芻と呼ばれ、ウェルビーイングを高めることは決してなく、むしろ深刻な悪影響をもたらしかねない。もし反芻が習慣になっていれば、別のことをして注意をそらすなどして、ネガティブな考えを頭の外に放り出す取り組みが必要となる。
「取り残される」ことに喜びを感じよう
ところで、部屋にこもってスマホを握り、SNSやニュースサイトを延々とスクロールし続けるのも、有効なひとり時間だろうか?
言うまでもないかもしれないが、コプラン教授は、その過ごし方には否定的だ。「何も得られないし、どんな状況でも自己嫌悪に陥る」と、はっきり書いている。
ただ、スマホが必要不可欠なインフラになっている現在、それとの断絶は不可能なことも認めている。デジタル・デトックスにチャレンジしたものの、かえって生活満足度が下がり、気分が悪化し、孤独感も増したという人もいる。インターネットにアクセスできない状態に置かれると、強い不安を覚える症状を意味するノモフォビアという言葉も登場した。
コプラン教授は、「画一的で一般論的なアドバイスに対しては、慎重であるべき」というスタンスをとりつつ、各人に適切なレベルの「JOMO(ジョーモ)」のスキルを獲得するよう説く。
JOMOとは、“Joy of Missing Out”の略語で「取り残される喜び」という意味。絶え間なく流れ込んでくる情報を絞り、世間の流れから置いていかれることを、あえて好ましく感じる心情である。コプラン教授は、次のように続ける。
テクノロジーから離れたひとりの「中断の時間」を、スマートフォンの絶え間ない要求から解放される喜ばしい休息ととらえ直してみよう。そのあいだに、(今は)見逃しているさまざまなことを味わい、楽しんでみよう。
(本書230pより)
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個人差は当然あるが、人は年齢とともに孤独な時間が増えていく(特に定年後の男性は)。また、日本を含む先進国の単身世帯は増加傾向にある。これからは多くの人が、ひとりで過ごすスキルを身につける必要があるのは間違いない。ひとりであることに不安を感じている人、ひとりの時間を前向きに増やしたいと考えている人なら、本書は役立つ1冊になるはずである。
【今日の健康に良い1冊】
『最新科学が証明する ひとり時間のすごい力』

定価2200円
河出書房新社
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。







