病院で異常なしと言われても、なんとなく不調が続く。そういった状態を「未病」と呼びます。50代ともなると、そんな「未病」のサインを感じることが増えてきます。でも、どこへ相談すればいいのか、わからないままにしている方は、さらに多いのではないでしょうか?

そんな悩みの受け皿となるのが、東洋医学や漢方、そして中国の伝統医学である「中医学」です。

ただ、中医学の健康相談とは本来、具合が悪くなってから駆け込むような場所ではありません。日頃から「行きつけ」のように通えば、季節の変わり目の倦怠感も、慢性的な「本調子じゃない」感覚も、気軽に相談ができます。

本連載では、国際中医専門員である志村幸枝先生が、中国の伝統医学の知恵から、体の違和感についてサインを読み解いていきます。

今日は、はじめての相談を前に、少し緊張気味の男性が来たようです。

ちょっと覗いてみましょう。

【今日のお悩みカード】

相談者|53歳男性/営業職
症状|季節の変わり目ごとの倦怠感、なんとなく続く「本調子じゃない」感覚

「中医学」と「漢方」は、何が違うの?

相談者は椅子に座るなり腕を組み、部屋をざっと見回しました。

「…志村先生、正直に言うと、健康相談ってよくわからないんですよね。妻に勧められて来てみたんですが…」

少し探るような目で、続けます。

「『中医学』と『漢方』って、何が違うんでしょう? 『東洋医学』とも違うんですか?」

志村先生は、ゆっくりと頷き、柔らかい口調で答えます。

「簡単に言うと、本家中国で発展した理論が『中医学』、日本人向けにアレンジされて育ったものが『日本漢方』です」

「なるほど。同じルーツだけど、別の進化をした感じなんですね」

「そうです。ラーメンで言うと、中国の麺文化が日本に来て、『ラーメン』として独自進化したみたいなものですね」

「それはわかりやすい(笑)」

「そして『東洋医学』はそれらをすべて含んだ、伝統医学全体の呼び名で、『鍼灸』や『薬膳』なども含みますね」

「ほう、なるほど。因みに、『中医学』って中国ではどんな存在なんですか? 民間療法みたいなものですか?」

「いえ、中国では正式な医学として国に認められています」

「えっ、国家レベルなんですか?」

「そうです。中国では『西洋医学』と並ぶ形で『中医学(中医)』が制度化されています。中医専門の大学もありますし、中医師という国家資格もあります」

「じゃあ病院にも?」

「あります。中国には中医学専門病院もありますし、『西洋医学』の病院の中に中医科が入っていることも多いです」

「思った以上に本格的ですね」

「ええ。もともとは長い歴史の中で積み重ねられてきた伝統医学ですが、1949年以降、中国政府が『国の医学として残そう』と整備したことで、現在の『中医学』として体系化されました。私が専門としているのが、この『中医学』です」

「ではこちらは『中医学』の理論をベースに、漢方薬を処方してくれる場所、と思えばいいですか?」

「そうですね。その他、心の使い方、食事のあり方、などの養生もお伝えしています。健康の悩みをうかがいながら一番必要な手立てを組み立てていく—、そんな健康相談の仕事を、28年続けています。

関わりが深くなるにつれ、人生相談になることも珍しくありません」

「…それは、頼もしいです」

思っていたより本格的だったのか、相談者はしばらく黙って、腕を組み直しました。

漢方相談の「トリセツ」

「でも先生、相談に行くとき、症状をどう説明すればいいのかわからなくて、どうも足が止まります」

相談者は、少し不安そうに打ち明けます。

「難しく考えなくて大丈夫です。相談は、美容室や歯科検診と同じで、自分のコンディションを整えるための『定期メンテナンス』だと思ってください。その不調が、どこに原因があるのかを一緒に探るのが、私たちの仕事ですから」

「そう聞けば、だいぶ気が楽になるな…」

「そうですよ。せっかくですので、上手に付き合うためのコツをいくつかお話しますね」

時間の確保

「まず大切なのは、事前に予約をしてほしいですね。悩みをしっかり伺うには、ある程度時間をかけて、向き合うことが大切ですから。

歯科検診は、予約してから向かいますよね。それと同じです。駆け込み相談だとじっくりお話が出来なくなってしまいます」

相談の場所

「次に、『薬を買いに行く』という感覚を、少し脇に置いてみてください。

『中医学』では、体の巡りを『気・血・水』で考えますが、ここへ来て自分の体について話すことは、『気』の巡りが良くなるので、養生のひとつにもなるんですよ。

世間話のように、あなたの暮らしを語って、養生のアドバイスを聞いてスッキリ帰る。それが健康相談の本来の姿です。ネットで選んだ薬を注文して、受け取って帰る、というのは、ちょっと違いますね」

継続

「そして、できれば3回通ってみてほしいです。一度で全部解決、とは、なかなかいきません。2回、3回と対話を重ねることで、身体のチューニングが少しずつ合ってくるような、そんなイメージですね」

「なるほど…回数を重ねれば、自分で自分の体のこともわかってくる、と」

「そうです。あなたの体のクセや、季節ごとの変化も、だんだん見えてきますから、そこを動かして改善しよう、という感覚です」

「値段」より「安心感」という価値

「もうひとつ気になるのが、値段です。漢方って、自由診療で何万円もするような、高価なイメージがあるけど…」

費用の目安は?

「それはよく聞かれます。もちろん、対面でのご相談ですから、ご予算に合わせたご提案が基本です。たしかに、希少な生薬をふんだんに使えば高価になることもあります。ただ、目安としては、症状に合わせた2週間分の処方から始めて、様子を見ながら調整していきます。1か月でいうと、15,000〜20,000円くらいになることが多いですね。

ただ、これも体質や症状によって変わりますし、まずは気軽に相談してもらえれば」

「…なるほど。まあ、かかりつけ医に払う費用と思えば、そんなものかもしれません」

「自分に合う一剤」を見つける難しさ

志村先生は微笑み、こう続けました。

「例えば、風邪をひいた時をイメージしてみてください。

病院に行く時間がとれない、眠くなる薬は避けたい、副作用も気になる… そんな時、ドラッグストアで漢方薬を選ぶのは、賢い判断です。

でも、実際に行ってみて、なかなか簡単には選ぶことができなかった、という声をよく耳にします。

ひと口に『風邪』と言っても、漢方の考え方は繊細なんです。背筋がゾクゾクする『寒気』の風邪なのか、喉が腫れて熱っぽい『炎症』の風邪なのか—どちらかによって、合う薬がまったく異なります。

自分で風邪の症状について正確に判断して、ずらりと並んだ棚から最適な一剤を選び出す。これは、意外と難しいことです。

もし選択を誤れば、お金も時間も、つらい身体で足を運んだ努力も、すべて無駄になってしまいますから。せっかく飲んでも、風邪が楽にはならない、なんて辛いですよね」

「それは無駄が多い」

「それなら、日頃から相談しているお店があれば安心、と。そんなふうに頼りにして欲しいわけです」

「健康のサードプレイス」という考え方

志村先生は続けます。

「普段から体について話せる『行きつけ』のお店があったら、どうでしょうか? 具合が悪い時だけでなく、ちょっとした変化を相談できる場所です。

プロの視線で体質と症状を見極めて、ピンポイントな対処を教えてくれる。価格も、実はドラッグストアのものと大きく変わりません。そしてさらに、飲んでみた後の経過や、次に風邪をひかないための養生法まで、継続して相談できます。むしろお得感すらあります(笑)。

これは単なる『モノの値段』に加え、『安心感』という付加価値がついてくるわけです」

「…なるほど。薬を買うというより、安心を買う感覚ですね。それは頼りにしてみたいな」

ひととおり話を聞いた相談者はようやく、気になっている体の倦怠感を話し始めました。最後に、次の予約を入れて帰ったのは、本人も予想していなかったことかもしれません。

おわりに

漢方相談店という場所は、不思議なものです。元気なときには存在すら気がつかないのに、いざ調子を崩すと、吸い寄せられるように、その看板が目に留まるようになるもの。もし、そんな時がきたら、ぜひ体の悩みを話してみてください。病院でもなく、ドラッグストアでもない、近所に「漢方薬の薬箱」がある。そんな感覚に近いかもしれません。

それでは次回も、より具体的な悩みについて志村先生に相談していきます。

「こんな小さなことで相談してもいいのかな?」そんな迷いが消えて、『中医学』がもっと身近になるように。皆さんの毎日を健やかに整えるヒントをお届けしていきます。

次回もお楽しみに。

※この記事は、国際中医専門員・志村幸枝先生が長年の相談経験に基づき、実例を再構築したものです。プライバシー保護のため設定は変更していますが、身体の悩みと見立ては現場の知見に根ざしています。

中医学において、身体の状態は千差万別です。紹介した養生法は一例であり、効果を保証するものではありません。ご自身の身体をより正確に知りたい方は、ぜひお近くの漢方薬店など、専門家を頼ってみてください。

身体に明らかな不調がある場合は、自己判断せず速やかに医療機関を受診してください。

●監修/志村幸枝

国際中医専門員。CoCo美漢方神戸勤務。登録販売者。漢方相談歴は28年。身体の変化を感じる年頃になり、自分を実験台に漢方と向き合う毎日。日常に絡めた喩え話で「伝わる中医学」をSNSで発信している。お酒を飲みながら美味しいものを食べている時が一番幸せ。趣味はおつまみ作り。
X:漢方しむしむ@simusim01454535
インスタグラム:CoCo美漢方神戸@cocobikobe0310
※ご相談のご予約はインスタグラムからお願いいたします。

●構成・文/もぱ(京都メディアライン)

 

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