弘前城天守(撮影2015年9月)。

(前編はこちら

ライターI(以下I):『豊臣兄弟!』が「夏休み」ということで、「今後の大河ドラマの女性主人公」について考察しています。前編では、女性主人公の過去作品を振り返りました。後編では、今後登場するかもしれない、してほしい女性主人公について考察したいと思います。

編集者A(以下A):大河ドラマの女性主人公は、やはり知名度が必要かと思われます。歴史上で知名度が抜群という女性でいえば、卑弥呼でしょうか。これはぜひ見たいのですが、無理でしょうか。でも挑戦してほしいです。今まで採用されていない古代ということで、北条政子、日野富子同様に「悪女の系譜」でいえば平安時代初期の藤原薬子もあげられます。でも知名度は低いですから、これはないですかね。

I:これまでの大河ドラマでは、「将軍の妻」くくりで、北条政子、日野富子、江、篤姫が主人公になっています。将軍の妻で他にも候補はいますかね?

A:将軍の妻ですか……。側室まで可ということでいえば、江戸幕府3代将軍徳川家光の側室で5代将軍綱吉の生母である桂昌院はどうでしょうか。晩年の春日局も登場しますし、町娘から将軍側室になる経緯、実家が大名になるいきさつや生類憐みの令、赤穂事件も桂昌院存命中の事件です。

I:なかなか面白そうですが地味ですよね。ジェームス三木さん級の脚本力で突破するしかないのではないでしょうか。桂昌院がいいのであれば、ベタですが、第14代将軍家茂の正室和宮はいかがでしょう。2008年『篤姫』と時代はかぶりますが、孝明天皇とのやり取りや中山道の道中のエピソード、将軍家茂との関係など、ドラマはありそうです。私は有吉佐和子さんの小説『和宮様御留』が好きでした。これで和宮に興味を持って和宮の史跡巡りをしたり、和宮が中山道で泊った宿などに宿泊したものです。

A:時代は変わりますが、個人的には、室町幕府第13代義輝、第15代義昭の生母慶寿院など興味があります。近衛家の姫として誕生して、最後は永禄の変で殺害されるわけです。将軍生母が合戦で亡くなるなど、なんと波乱万丈な人生……。でも1年持ちませんよね。持つわけがない(笑)。

戦国まわりの女性主人公とは?

I:『利家とまつ~加賀百万石物語』『功名が辻』と同じような「戦国もの」「秀吉周辺もの」ではいかがでしょうか。前田利家の娘で秀吉に養女として入り、後に宇喜多秀家に嫁した豪姫はいかがでしょうか。

A:さすがに弱いですかね。もちろん脚本次第、情熱次第ということになるのでしょうが……。名前だけでも羅列してみますが、伊達政宗の娘の五郎八(いろは)姫とか。家康六男の忠輝に嫁いだ姫です。1987年の『独眼竜政宗』では、忠輝を真田広之さん、五郎八姫を沢口靖子さんが演じました。信長、秀吉、家康の三英傑まわりでいえば、お市の方のみ脚光を浴びる信長の姉妹のうちからお犬の方、あるいは「茶々→淀殿」、千姫という声もあります。千姫に関しては姫路市などゆかりの自治体が誘致活動を展開しています。

大穴としては、満天姫はどうでしょう。満天姫の実父は、徳川家康の異父弟松平康元。家康の養女となり、福島正則の養嗣子、正之に嫁ぎます。嫁いだのが慶長4年(1599)です。正之は、秀吉が攻めた播磨三木城攻めの際、織田方について別所宗家と敵対した別所重棟(重宗)の息子ですが、嫡男を病気で亡くした福島正則の養子として福島家に入った人物です。

I:別所さんは『豊臣兄弟!』に登場したばかりですね。

A:こうした縁談が、太閤秀吉存命中に定められた「私婚禁止」の掟に触れるということで、糾弾された3つの縁組のうちのひとつです。そのほかは、家康六男松平忠輝と伊達政宗の長女五郎八(いろは)姫の縁組があります。

I:福島正則と伊達政宗と縁戚になろうとしたのですね。それは豊臣を刺激する縁談ですね。もう一組はどの家なのでしょうか。

A:蜂須賀家です。当主蜂須賀家政の嫡男至鎮に小笠原秀政の娘氏姫を家康の養女にしたうえで嫁がせたのです。蜂須賀至鎮は蜂須賀小六正勝の嫡孫で、小笠原秀政の正室は家康嫡男信康の娘登久姫なので、氏姫は家康のひ孫でもあります。福島正之に嫁いだ満天姫は福島正之との間に男児をもうけますが、正之を養子に迎えた後に正則に実子忠勝が誕生。実子がかわいいのが世の常。正之は廃嫡されます。ここで実家の徳川家に戻った満天姫ですが、後に弘前藩の津軽信枚(のぶひら)との縁談が決められます。この縁談を勧めたのが、天海僧正だといわれています。

I:なんというドラマ!

A:実は、家康養女満天姫と津軽信枚の縁談ですが、大問題があったのです。津軽信枚の正室の辰姫は石田三成の息女だったのです。

I:なんと、津軽信枚は、石田三成の娘と徳川家康の養女を娶ったということですか?

A:そうなんです。辰姫はそのために側室に「降格」された上に、津軽家の飛び地上野国の大館(現在の群馬県太田市)に住いを移されたのです。そして、満天姫が嫁入り道具として津軽家に持参したのが「関ヶ原合戦図屏風」。もっとも古い「関ヶ原合戦図屏風」で、満天姫が家康にねだって許しを得たといわれる名品です。現在は大阪歴史博物館所蔵となっています。そればかりではありません。津軽家には石田三成の次男石田重成が、名を杉山源吾と変えて仕えていたのです。

I:私、その話は知っています。辰姫が生んだ津軽信義が藩主を継いで、満天姫の生んだ信英が後に黒石藩となる領地を得るわけですね。なんだか凄いドラマですよね。

A:杉山源吾の息子、つまり三成の孫にあたる杉山吉成がシャクシャインの乱の際に出陣して戦功をたてているのです。三成の孫が江戸城で褒賞を得たのです。そのときの将軍は第4代家綱。杉山家は、弘前藩重臣として維新を迎え、現在も三成の血脈を伝えています。弘前市内の菩提寺には、「豊臣」姓が刻まれた墓石が残っています。江戸時代に「豊臣」を墓石に刻んでいたというエピソードが興味深いです。

大河ドラマをめぐる水面下の争い

A:さて、大河ドラマの女性主人公をめぐる考察を展開してきましたが、水面下で繰り広げられる争いもあるようです。今年の3月12日、衆院総務委員会でのやり取りです。質問者は国民民主党の許斐(このみ)亮太郎議員です。許斐議員の選挙区は福岡県。元NHKカメラマンから衆院議員に転身した2期目の代議士です。代議士の質問に答えているのはNHKの山名啓雄副会長と井上樹彦会長になります。議事録からそのやり取りをどうぞ。

許斐議員「話題をがらっと変えまして、大河ドラマについてお伺いいたします。地元からよくこんな質問をいただきます。最近の大河ドラマにはローテーションがあるのではないかとの質問です。以前の大河ドラマは、戦国時代をテーマにしたものが多く、2年連続して戦国物ということもありました。しかし、最近は、満遍なく、近代、鎌倉、平安、戦国、江戸、幕末など、様々な時代の主人公になっています。そこで、戦国時代は3年に1回になってしまったのではないかとの地元の声がありましたので、質問いたします。大河ドラマはどのような採用基準があるのでしょうか。ローテーションの有無も含めて、お答えください。よろしくお願いします」

山名副会長「お答えいたします。大河ドラマの題材の選定に当たりましては、その都度、視聴者のニーズですとか時代の動き、こちらを酌み取りまして、1年にわたって幅広い視聴者の皆様の興味を引きつけられるテーマですとか、主人公は誰かといった点を考慮して決めております。御質問のように、時代でのローテーションという考え方は取っておりませんけれども、時代設定が偏り過ぎることのないよう、長期的な視点も踏まえて企画は決定してございます」

許斐議員「答えにくかったでしょうが、丁寧なお答え、ありがとうございます。やはり大河は重要なコンテンツだと思います。私は、新たな視聴者層を取り込む呼び水の役割になるとも期待しています。平安時代の紫式部の人生を描いた『光る君へ』では、ふだんNHKを見ない女性層も取り込んだとお伺いしています。その観点から、御提案と要望です。私の地元の福岡県は、今、戦国最強武将、無敗の武将と言われている立花宗茂ゆかりの地です。実は今、小中高生の間で一番人気のある武将とも言われています。いわゆる戦国時代を舞台にしたゲームの中で強いキャラクターなので、これをゲットするとゲームが進みやすいという理由です。NHKさんも、新たなこれからの視聴者層をゲットするという観点から、立花宗茂を大河ドラマにしませんか。会長も福岡出身ですので、是非御検討いただけませんでしょうか。会長にお伺いいたします」

井上会長「お答え申し上げます。御質問いただいた立花宗茂を始め、様々な歴史上の人物について、大河ドラマで取り上げてほしいという御要望を多くの自治体などからいただいております。先ほどもお答えしましたけれども、大河ドラマの題材の選定に当たりましては、その都度、視聴者のニーズや時代の動きというものを酌み取りまして、1年間にわたって幅広い視聴者の皆様の興味を引きつけられるテーマか、主人公は誰かといった点を配慮して判断しておりまして、皆様から頂戴した御要望なども含めて、総合的に判断してまいっておる次第であります。御指摘のように、新たな視聴者層にも御覧いただける番組となりますよう、毎年新しい試みに取り組むなどして挑戦しております。引き続き、より満足度の高い、見応えのある番組制作に努めてまいります」

許斐議員「これまた答えにくい質問で誠に恐縮でした。ありがとうございます。立花宗茂とこれまた妻の誾千代(ぎんちよ)と、ダブル主演も考えられますので、是非前向きに御検討ください」

A:衆院総務委員会で堂々と我田引水的なやり取りが繰り広げられているのが興味深いです。立花宗茂と誾千代に関しては、地元での誘致活動も行なわれていて、戦国ファンの中からも「大河ドラマの主演に」と推す声があるキャラクターなだけに、勇み足的な質問だったかと思います。

I:これで、立花宗茂・誾千代夫妻に決まったら出来レースといわれてしまいますもんね(笑)。ところで、さっきAさんは「水面下で」といっていましたが、国会の委員会で堂々とやり取りしていますから、水面下じゃないですよね。

A:ああ、確かにそうですね。でも水面下ではもっと熾烈な誘致合戦が繰り広げられているかもしれないですね。さて、読者の方々はどんな女性主人公を望んでいるでしょうか?

●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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