鶯餅なのに黄緑色ではないワケ
先述のとおり、店の歴史を語る文書の類はなく、ごく限られたエピソードが口伝で継承されている。冒頭の鶯餅の話もそうだ。今は、御城之口餅(おしろのくちもち)という名称で販売されているその鶯餅は、青大豆らしい黄緑色ではなく薄茶色。これはなぜだろうか。
「私の仮説ですが、江戸時代の絵師が、梅の枝に緑の可愛らしい小鳥を描いて、それを鶯だと言った。でもそれは間違いで、メジロだと思います。メジロは、体の大部分が黄緑で、目の周りが白いのが特徴です。対して鶯は、雌雄や季節によってちょっと違いますが、薄茶の地味な色です。
秀吉さんの時代は、鶯は薄茶色という認識だったはず。だから、その色の菓子を見て、鶯餅と命名したのは自然なことなのですね。もっとも、私どもの御城之口餅は、青大豆のきな粉を材料としています。浅煎りだと青いきな粉になるのですが、豆の青臭さがちょっと出てしまいます。それで深煎りにして、茶色のきな粉にしています」
そう語る菊岡さんは、御城之口餅と名前を変えた理由についても解説を加えた。当時、店のそばに郡山城の大門があり、城の入り口にあるということでその名にした。わざわざそう変えたのは、徳川の世になって、秀吉につけてもらった名前は使いづらかったからではないかとも。
実に四百年余りの歴史をもつ御城之口餅は、現在の本家菊屋でも最も人気のある商品。とろけるような柔らかさと上品な甘さが、多くの人を惹きつけている。秀長ゆかりの地へ旅した折には、ぜひ立ち寄られたい。

本家菊屋 本店
住所:〒639-1134 奈良県大和郡山市柳1-11
電話: 0743-52-0035
FAX :0743-52-3026
公式サイト:https://kikuya.co.jp
営業時間:9:00~18:30(1月2、3日は~17:00)
定休日:元旦のみ
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。











