取材・文/池田充枝
キュビスム以降の抽象絵画の展開を核心で理解し、その可能性を究極まで推し進めた画家、坂田一男(1889-1956)。
坂田は第一次世界大戦後の1921年に渡仏、同時代の抽象絵画と出会い、10年以上にわたってフランスで最前衛の画家として活躍しました。1933年の帰国後は故郷の岡山で制作に励み、また前衛グループ「アヴァンギャルド岡山」を結成し後進の育成にも努めます。
しかし、坂田の仕事は生前・没後を通じて岡山以外で大きく紹介されることはほとんどありませんでした。
今回、坂田一男の仕事の全貌を展示し、世界的にも稀有な高い次元に到達していたその絵画に織り込まれた世界の可能性をひもとく展覧会が開かれています。(2020年1月26日まで)
本展は、近代美術史に精通した造形作家、岡﨑乾二郎氏を監修者に招き、<現在の画家としての>坂田一男の全貌を展示する初めての展覧会となります。
本展の見どころを、東京ステーションギャラリーの学芸員、成相肇さんにうかがいました。
「坂田一男は、日本の抽象絵画の先駆者として突出した前衛画家でありながら、ほとんど忘れられてしまった画家です。坂田が芸術家として作風を確立したのは1920年代のパリ。同地では藤田嗣治が人気を博しており、日本では岸田劉生が画業のピークに達していた頃のことです。その時代を踏まえて坂田の作品を見てみれば、彼の絵がいかに際立って前衛的であったかわかるでしょう。
今回、日本の美術史上きわめて重要な作家である坂田一男を、当代随一の近代美術史研究者でもある造形作家、岡﨑乾二郎氏が読み解きます。岡﨑氏がまず注目するのは、坂田の画面の中に巧みに折り畳まれた空間です。単一の絵であるのに、坂田の絵の中には複数の時間や空間が詰まっている。展示ではその技術を、坂田と同世代の画家や意外な作家たちとの組み合わせによって比較分析します。
また、二度にわたってアトリエの冠水を経験した坂田は、驚くことにその冠水被害を創作に昇華させてもいます。一度消えた者が再び勢いをつけて巻き返すことを意味する本展のタイトル「捲土重来(けんどちょうらい)」は、歴史に埋もれた坂田の掘り起こしとともに、ひとたび受けた破壊を復活に転化させる、驚異的な坂田の技術も指しています。
『自分の絵は50年経ったら分かる』とうそぶいたという坂田の死から60年以上が過ぎた今、謎の多い作品に分析のメスが入ります。企画の趣旨はハード・コアですが、坂田の作品の濃厚な魅力は、実物を見れば必ず伝わるはずです。発見に満ちた企画に、ご期待ください」
日本の最先端をいった前衛画家が問いかけた謎!!会場で読み解いてみませんか。
【開催要項】
坂田一男 捲土重来
会期:2019年12月7日(土)~2020年1月26日(日)
会場:東京ステーションギャラリー
住所:東京都千代田区丸の内1-9-1
電話番号:03・3212・2485
http://www.ejrcf.or.jp/galley/
開館時間:10時から18時まで、金曜日は20時まで(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(ただし1月13日、1月20日は開館)、年末年始(12月29日~1月1日)、1月14日(火)
巡回:岡山県立美術館(2020年2月18日~3月22日)
取材・文/池田充枝