ライトアップされるジャガンナート寺院。

ライトアップされるジャガンナート寺院。

まだまだ日本人観光客は少ないインド南部オリッサ州の海辺のリゾート地「プリ」を訪ねた、旅ライターの白石あづささん。第5回目となる今回は、オリッサ最大の寺院と、その周辺の古い繁華街をめぐります。<前の記事を読む>

 滞在先のホテル「メイファ・ヘリテージ」でのビックランチでうとうと眠くなってプールサイドでうつらうつらしていたのですが、夕方、だいぶ涼しくなってきたところを見計らって、ホテルから北西にリキシャで10分くらいのところにあるプリ最大の寺院であるジャガンナート寺院に出かけることにしました。

ホテルの前で暇そうにしているリキシャのおじさんを捕まえると、「プリはジャガンナートだけじゃなくて、ほかにもいろいろあるよ」と町中の小さなお寺をまわってくれることになりました。

こんなところに日本のお寺?

こんなところに日本のお寺?

「どこから来たの? 中国?」

「日本だよ」

「そうなのか、じゃあ、日本寺があるから連れていってあげる」

「本当? こんな日本人もいないような町に?」

どうせ、華僑の人のための中華風のお寺のことを勘違いしているのだろうと思ったら、日本語が書かれた小さな寺があり、サリーを着たインド人女性が参拝しています。いったい誰が建てたのかは分かりませんでしたが、日本からの寄付で建てられたようです。

オリッサに来て不思議に思うのは、個人宅であっても、ヒンドゥー教の神様の隣に、ブッダの像やオリッサ独自の神様の像などを一緒に飾っていることです。そういえば、宿泊しているホテルも、入口にはヒンドゥーの神様がいるのに、プールサイドには巨大なブッダの頭がモチーフに使われています。

インドの北部では、ブッダとヒンドゥーの神様を並べて家庭に置いていなかったような気がします。このあたりは、いろいろな宗教を受け入れる穏やかな土地なのかもしれません。日本寺にお参りする人たちも、仏教徒というわけでもないのでしょう。「俺はヒンドゥー教徒なんだけどね」と言っていたリキシャのおじさんも、私に付き合ってくれ、一緒に日本寺で手を合わせます。なんだか宗教観が日本に似ていますね。

ハチも大好き? インドの甘いパイ

参道の細い道をぬって、寺院の前の広場に出ると、参拝の人々でごった返しています。遠くからの巡礼者のために、たくさんのお土産物屋が軒を連ねています。積み上がったパイからはいい匂いがするからか、ハチがたくさん寄ってきます。

ジャガンナート寺院のまわりは甘いパイの香り。

ジャガンナート寺院のまわりは甘いパイの香り。

おなかがいっぱいのはずなのに、甘い匂いにつられてハチとともに私も吸い寄せられていくと、店のおじさんが、「ひとつ、味見してごらんよ。パイ生地にピスタチオとバターを入れてハチミツをかけて焼くんだよ」と教えてくれました。なるほど、だからハチが寄ってくるんですね。サクサクして虫歯が痛くなるほど甘いのですが止まりません。

結局、試食だけで終わらず、一袋分、買ってパリパリ食べながら、ジャガンナート寺院を眺めます。残念ながら、高さ6メートルの塀がじゃまして、背伸びしてみても寺の先端しか見えません。寺院のなかにはヒンドゥー教徒ではないので入ることができないのです。寺院のまわりに、工事中のがれきの山があったので、そこに登ってみると、高さ65メートルもの塔のまわりに白い塔がそびえているのが見えます。塔の美しい彫刻が目の高さに見え、多くの人でにぎわっているようです。

参拝者でにぎわうジャガンナート寺院。

参拝者でにぎわうジャガンナート寺院。

もともとジャガンナート寺院は、仏教の寺院でブッダの歯が祀られていたのだとか。しかし、歯は海外に持ち去られ、今ではヒンドゥー教徒の寺院にとって代わってしまったそう。昔はこのあたり一帯、仏教徒のお寺がたくさん建っていたのでしょう。

生と死 街に溶け込む火葬場

日が沈んで、寺院がライトアップされる時間になっても、にぎわいは衰えません。むしろ、どんどん人が集まってきます。

寺院のまわりの古い町並みが残る路地をぶらぶらしながら、海岸へと向かいます。途中には、アルミを加工した絵柄のきれいな蝋燭立てや肌触りのいい織物、インド女性の伝統服、パンジャビー・ドレスやサリー屋さんが軒を連ねています。伝統工芸がさかんなオリッサでは、魅力的なお土産がいっぱいで、見ていて飽きません。

古い街の路地は楽しい。

古い街の路地は楽しい。

小さな織物屋さんに入り、たくさんの布のなかから、厚めの布を見つけて「素敵なテーブルクロス!」と手にとると、「ああ、それ、男の人の腰巻だよ。ほら、俺も履いている!」と笑われました。「それじゃあ、この大判の布はショールなの?」と聞くと、「違うよ、オリッサのバスタオルだよ!」とまたしても笑われます。ずいぶんごつい肌触りのタオルです。インド人の肌は丈夫なのでしょうか。

ちなみに帰国後、友人たちに配ったら、首に巻いたり、カーテンにしたり、敷物にしたりと使ってくれているようなのですが、本来のタオルとして体を拭く人はいません。

カラフルな服がたくさん!

カラフルな服がたくさん!

おみやげに買ったタオルをバックに入れ、そのまま海に向かって歩いていくと、海岸道路の一角に建物がそこだけ建っていないグランドがあり、暗闇のなかにいくつものたき火が見えました。布でくるまれた何かを4、5人で運びこんで何かを燃やしています。不思議に思って通りがかりの人に聞いてみました。

「あそこでは何をしているのですか?」

「あれは火葬場ですよ。昼も夜も運び込まれた遺体を焼いているのです」

 火葬場のすぐ裏手は賑やかな繁華街で、さっきまで私が布を買っていた店がありました。そして道路の反対側にはビーチがあり、賑やかなナイトマーケットが広がっています。日本ならば、火葬場は民家から離れた山のなか。繁華街のど真ん中には、まずありません。

火葬場で焼かれた後は、正装した人たちが、一列になり、賑やかなナイトマーケットの間を抜けて海へと向かいます。昔、訪れたインドのバラナシの火葬場では、目の前のガンジス河に灰を流していましたが、ここでは海に撒くのでしょう。静かな一行と観光客の笑い声が混ざりあう風景はとても不思議な風景です。

インドでは死者との距離が近いのだろうかと、生と死が隣り合わせにあるインドの宗教観に思いをめぐらしながら、夜の海岸を歩いてホテルまで戻りました。

次回は、最終回。いよいよ荒れるベンガル湾で海水浴にチャレンジします。

取材・文/白石あづさ
旅ライター。地域紙の記者を経て、約3年間の世界旅行へ。帰国後フリーに。著書に旅先で遭遇した変なおじさんたちを取り上げた『世界のへんなおじさん』(小学館)。市場好きが高じて築地に引っ越し、うまい魚と酒三昧の日々を送っている。

取材協力:
エア インディア http://www.airindia.in/(英語サイト)
ロータストランストラベル http://www.lotustranstravels.com/(英語サイト)

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