取材・文/坂口鈴香

遠距離介護|交通費を節約するには?

cankさんによる写真ACからの写真

親の終の棲家をどう選ぶ? 認知症になった母
同 東京に戻ると冷静になれる――遠距離介護を成功させるコツ
で遠距離介護の事例を紹介した。

仕事や育児をしながら、遠距離介護をするのは、心身のみならず交通費の負担も大きい。冒頭の記事に登場した上野さんは、東京・静岡間をクルマで往復し、ガソリン代や高速代は、父親のカードを使用している。介護にかかる費用は親のお金で、というのは理想ではあるが、それが叶わない子世代も少なくない。

少しでも交通費や心身の負担を減らすために、遠距離介護をしている人がどんな交通手段を選択し、交通費を節約するためにどんな工夫をしているのか、話を聞いた。

■航空会社の介護割引制度

飛行機を使って帰省する人のために、介護割引制度があることはご存知だろうか。各航空会社では、「介護帰省割引」「介護割引」などという名称で割引制度を設定している。介護割引を利用できる座席数は、便ごとに限りがあり、便によっては設定のないこともあるが、予約便の変更は可能だ。またピーク期と通常期で運賃が異なる。利用するには、航空会社ごとに適用条件があり、必要書類を用意して事前登録する必要がある。

介護の有無にかかわらず、LCCが就航している区間なら、LCCを利用した方が安い場合が多い。一般の航空会社でも早期購入割引があるので、あらかじめ帰省の予定日が決まっていればかなり安く利用できる。

東京と実母が住む福岡を往復しているHさんは、航空会社の株主優待券を金券ショップで購入し、利用している。

「LCCだと変更がきかないし、運航本数が少ないので、機材の関係で1便遅れると次も遅れるというリスクがあります。それに座席も狭いし、LCCのターミナルまで遠いので、疲れてしまって……。若い人ならいいでしょうが、頻繁に長距離を移動する私にとっては、少しでも身体の負担は少ない方が助かります。また、早くから予定が決まっていれば、一般航空会社の早期購入割引が安いのですが、急に帰省しないといけないこともあります。株主優待券なら搭乗日直前でも、繁忙期でもお得な料金で予約できるので、最近はもっぱらこの方法です」

Hさんが言うように、介護をしていると突発的に帰省が必要なことも起こる。前もって予定がわかっているときと急遽帰省するとき、年末年始などの繁忙期というふうに時期や状況によって航空会社や航空券の種類を使い分けるのがいいようだ。念のため、介護割引の登録もしておくに越したことはないだろう。

■東海道・山陽新幹線のエクスプレス予約

新幹線を使う場合はどうだろうか。東京から大阪まで新幹線で帰省するAさんは、エクスプレス予約サービスを利用している。

「年会費は必要ですが、入会すれば、東海道・山陽新幹線の指定席が乗車日当日まで予約でき、格安料金で利用できます。予約の事前申し込みサービスもあって、予約の変更もできます。乗車時は、専用ICカードをタッチするだけなので利便性も抜群です」

Aさんは、このサービスを利用するまで格安な長距離夜行バスを多用していたが、最近は利用しなくなったという。

「安いことはもちろんですが、実家の近くにバス停があるので、下りればすぐに実家に着くのが大きなメリットでした。下りたときのことを考えると新幹線を使うよりも便利だったので、もっぱら長距離夜行バスだったのですが、年とともに疲れるようになってきたんです。個室のあるバスを探して、個室を予約したり、個室のないバスの場合は最前列を予約したりして、少しでも快適に過ごせるようにしていましたが、それでもやはり身体にこたえます」

長距離夜行バスだと現地に早朝に到着するので一日を有効に使える。だが、Aさんにとってはそのメリットも薄れてきたという。

「確かに、着いて一日たっぷり使えることは長距離夜行バスの魅力のひとつでした。でも今は早朝に到着しても、疲れていてその日一日中ぐったりしているんです。それなら、新幹線で昼頃到着した方がまだラクだと思うようになりました」

親と同様、介護者も年を取る。交通費と身体的負担を天秤にかけると、身体面を優先するというのは、遠距離介護生活を送るうえでは大切なことのようだ。

* * *

一口に「遠距離介護」といっても、隣県の場合もあれば飛行機を利用する距離もある。さらには海外から帰省する場合まで、その状況はさまざまだ。当然、距離に比例して、身体的・金銭的な負担も大きくなる。どちらを優先するか、子世代のそのときどきの環境や体調によっても変わってくるだろう。ケースバイケースで優先順位を考え、最適な交通手段を選ぶことが大切だ。

次回は、遠距離介護をする場合の仕事との両立方法について考えてみよう。

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

 

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