夕刊サライは本誌では読めないプレミアムエッセイを、月~金の毎夕17:00に更新しています。木曜日は「旅行」をテーマに、パラダイス山元さんが執筆します。

文/パラダイス山元(ミュージシャン・エッセイスト)

↓公認サンタクロース21年目の今年は、成田空港からドイツ・デュッセルドルフ経由でコペンハーゲンに向かいます。(撮影:通りすがりの方)

今年も、とうとう夏が来てしまいました。

頭でわかってはいるものの、私にとっては、21年目の苦行が始まりました。

「世界サンタクロース会議」に出席するため、杉並区の自宅からデンマークの首都コペンハーゲンまで、成田空港も、飛行機の機内もずっと、厚手で完全冬季仕様のサンタクロース姿で移動しなければならないのです。

暑い時に厚い服を着て出かけると、若干涼しく感じられるというのが、サンタクロースの猛暑対様!?

↓猛暑の日本を後にします。(撮影:パラダイス山元)

そもそも、なぜ、自宅からサンタクロースの衣裳を着て出かけなくてはならないのか? 誰しも、疑問に思うことでしょう。

機内では、帽子も脱げません。(撮影:パラダイス山元)

「世界サンタクロース会議」までの道すがら、夏休みに入ったばかりの空港、機内で、子どもとたくさん接することになります。

グリーンランド国際サンタクロース協会の長老サンタさん曰く、

「子どもたちの目にサンタクロースの存在がリアルに映るよう、そしてお話したり、写真を一緒に撮ったりと、コミュニケーションのよい機会になるだろう!」

ということなのですが、それは表向きの理由です。

“人たらし”といわれた坂本龍馬のように、サンタクロースというのは、デブがあのサンタクロースの衣裳を着るだけでも、相当の人気者になります。細やかな気配りや笑顔で、子どもたちを一瞬で笑顔にすることができるか、はたまたこちらから近寄るだけでギャン泣きされるか、ホンモノのサンタクロースは常に試されているのです。

飛行機の預け手荷物が、到着空港で出てこなかったりした経験はありますか?

本当の理由はそれなんです!

サンタクロースの衣裳をスーツケースに入れて預け、万が一それが到着空港で出てこなかった場合、「世界サンタクロース会議」に、サンタクロースの衣裳ではなく、なんだかよくわからないスーツや私服で出席することになります。そうしたらどうなるか……。

出席者全員が赤い服を着ている中で、浮きまくります。原則、会議場はサンタクロースの赤い衣裳以外は禁止です。例外で認められているのは、ロシアや東欧諸国から来る「ジェド・マロース」と呼ばれるサンタクロースの青い衣裳、アメリカのワシントンDCからやってくる真っ白の衣裳のサンタクロース、そしてドイツのクネヒト・ループレヒトといわれるブラックサンタクロースくらいです。

道中、着用が義務付けられているにも関わらず、こっそり衣裳を預け荷物にしてしまったサンタクロースが、世界サンタクロース会議初日に炙り出されてしまいます。昨年はスペインの公認サンタクロースがやらかしてしまいました。
これ、本当に恥ずかしいことなんです。トッホッホー……。

成田→デュッセルドルフ のフライト。ANAのCAさんの素敵な笑顔に、長旅の疲れが吹っ飛びます!(撮影:デュッセルドルフ空港の職員さん)

ヨーロッパ各国に住んでいるサンタクロースは、自宅から空港、そして会議場のあるコペンハーゲンへは、せいぜい2、3時間程度ですが、アメリカ、カナダの西海岸からだと12時間以上、そして最も遠い日本から出席するサンタクロースは、今年は成田からドイツ・デュッセルドルフ経由で向かいましたので、自宅からフライトと乗り継ぎ時間で20時間を要します。しかも、出発地・成田空港の気温は35度。防寒対策万全のサンタクロースの衣裳は、体内の水分を吸収しまくって、徐々に重たくなっていくのでした。

デュッセルドルフのセキュリティチェックの保安員と警察官は、乗り継ぎ客の動向を厳しい目で監視、とくに私の一挙一動を、固唾を飲んで見守っていました。ゲートを無事に通り過ぎると「Willkommen, gib mir ein Weihnachtsgeschenk.」(ヴィルコメン、ギープ ミーア アイン ヴァイナハツゲシェンク/ようこそ、クリスマスプレゼントをくださいな)と笑顔で迎えてくれました。(撮影:パラダイス山元)

エコノミークラスが大好きな、というより、他に選択肢のない最もハイシーズンの搭乗ですから、お隣のお客様にご迷惑をおかけしないかとヒヤヒヤします。ヒヤヒヤしてもまったく冷えはしません。

今回は、なけなしのアップグレードポイントを、倍はたいてビジネスクラスへ。

↓フレンチの巨匠。飯塚隆太氏監修の機内食をまたしてもいただくことができました!(撮影:パラダイス山元)

機内の照明が暗くなり、みなさんお休みになったところで、目立たぬようにトイレに立ったりとか、結構気を使います。ギャレーに行くと、子ども連れのお客様と撮影タイムが始まります。もちろん、楽しいひと時ですから、こちらから拒むなんてことはありませんが、1時間近くやっていると、「そろそろシートベルト着用サイン」が点灯しないかなぁ~などと思うことも……。

↓コペンハーゲン空港に到着しました。(撮影:パラダイス山元)

コペンハーゲンのカストロップ空港で、かわいいお友だちにお出迎えしていただきました!

ところで、なぜ、こんな暑い真夏に「世界サンタクロース会議」が開催されるのか?

それは、年末にかけて大忙しのサンタクロースが、一年のうちで最もヒマで、世界中から集まりやすいから。そんな理由で61年間も続いているのですから、たいしたものです。

ニュースなどで「世界サンタクロース会議」の模様が流れましたら、パレードで日の丸を持ったサンタクロースを探してみてください。

左から、イギリス、スウェーデン、日本、デンマークの公認サンタクロース。 コペンハーゲンで最も有名な観光地のひとつ、「人魚姫の像」(リトルマーメイド)の前にて。(撮影:通りすがりの観光客)

「世界サンタクロース会議」開催前日にデンマークへ到着したら、急いでアンティークマーケットへ出かけます。

もう、欲しいものだらけ、物欲がこれほど刺激される場所はありませんから。往路、プレゼント用のお菓子でぎっしりだったスーツケースに、あれこれ詰めて帰路につくことにします。

左からサンタの置物、オシャレな陶器、最近日本でも人気になっているデンマークの国民的キャラクター・ラスムスクルンプの貯金箱。日本のフリーマーケットのセンスとは、やはり違います。あれこれ欲しくなってしまいます。(撮影:パラダイス山元)

文/パラダイス山元(ぱらだいすやまもと)
昭和37年、北海道生まれ。1年間に1024回の搭乗記録をもつ飛行機エッセイスト、カーデザイナー、グリーンランド国際サンタクロース協会公認サンタクロース日本代表、招待制高級紳士餃子レストラン蔓餃苑のオーナー、東京パノラママンボボーイズで活躍するマンボミュージシャン。近著に「なぜデキる男とモテる女は飛行機に乗るのか?」(ダイヤモンド・ビッグ社)、「読む餃子」「パラダイス山元の飛行機の乗り方」(ともに新潮文庫刊)など。

 

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