写真・文/野口さとこ

「化粧地蔵」と呼ばれるお地蔵さまをご存知だろうか? 京都周辺と青森に多く存在する、お顔やお身体を描かれ、彩色を施されたお地蔵さまのことだ。

私は長年、北海道と関東でしか暮らした経験がなかったので、初めて京都で化粧地蔵に出逢ったとき、仏様のジャンルを超えているとしか思えない、民衆の自由な発想に心底感銘を受けた。

毎年8月に行われる地蔵盆という行事で、地域の子ども達によって、少しずつ顔が描きかえられていくのが習わしなのだが、最近では少子化によって、いつ祠を覗いても、お顔が変わっていないお地蔵さまや、ペンキでしっかり大人によって描かれていて、描きかえる必要がなくなっているお地蔵さまもいらっしゃる。

地蔵盆明けにお顔が変わったお地蔵さまは、どこかぎこちないような、それでいてグレードアップされて初々しいエネルギーを宿しているようにも見えて新鮮である。

今回は、そんな愛すべき化粧地蔵の世界を、私がここ数年撮り続けてきた、一体のお地蔵さまが変化していく様子を通してお伝えしたい。

京都の京阪電車の出発点、叡山電車の出発点である出町柳駅の近くにいらっしゃるお地蔵さまである。

2010年 にっこり笑顔とビビッドな赤と黄色のビタミンカラーの後光から元気をいただく。

2011年 目が開いて耳が加えられる。衝撃的!

2012年 ふくよかなお身体はグレートマザーを思わせる。

2013年 また穏やかなお顔に戻る。

2014年 伏し目がちのお顔に。白毫(第三の目)が書き加えられている。

2015年 またまた笑顔に戻る。

2016年 おしゃべりが始まりそうな表情。べっぴんさん。

昨年このお地蔵さまを訪ねた時、たまたまお地蔵さまの祠を掃除している女性に遭遇し、長年お世話していて顔も彼女が描き続けているという話を伺った。素敵なお顔で毎年拝見するのが楽しみだと伝えると、ちょっとはにかんだ笑顔をされていたのが、とても印象的だった。

あなたも、祠を見つけたら、きっと覗かずにはいられなくなることだろう。

写真・文/野口さとこ
写真家。北海道小樽市生まれ、京都在住。1998年フジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、写真家活動を開始。出版・広告撮影などに携わる。2011年 写真集『地蔵が見た夢』(Zen Foto Gallery)の出版を機に、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどのアートフェアで作品が展示される。2014年より、移動写真教室“キラク写真講座”を主宰。可愛くてあたたかい、そんなお地蔵さまの魅力に取り憑かれ、お地蔵さま撮影のため全国津々浦々を旅している。http://www.satokonoguchi.com/

 

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