取材・文/藤田麻希

近年、つとに注目を集め、毎年どこかで展覧会が開催されているといっても過言ではない浮世絵師・歌川国芳。じつは、喜多川歌麿や葛飾北斎、歌川広重などに比べると、浮世絵研究の世界では、それほど評価を得ていたわけではありません。「わびさび」を尊ぶ日本美術の文脈に、国芳の躍動感みなぎる画風は、そぐわなかったのかもしれません。

しかし、若冲ブームの火付け役でもある辻 惟雄さんの著作『奇想の系譜 又兵衛—国芳』で取り上げられたことを起点に、“西洋美術偏重”だった状況が変化し日本美術に対して先入観なしに見られる人が増えたことなど、さまざまな理由から、徐々に人気を獲得し今日の状況ができたと考えられます。

歌川国芳「猫の当字 ふぐ」後期展示

国芳の作品には、浮世絵の少し古臭いイメージを吹き飛ばす、現代人の感性に直接訴えかけてくる面白さがあります。

たとえば「荷宝蔵壁のむだ書(にたからぐらかべのむだがき)」は、子どもが壁に描いたような落書き風の役者絵。サインや版元を示す印もわざと拙く描かれます。それでいながら、ひとりひとりの役者の特徴が引き出され、“上手く”下手に描いているのです。

歌川国芳「荷宝蔵壁のむだ書」後期展示

てっきり役者絵の取り締まりを強化した、天保の改革に対する抜け道として編み出した描き方かと思っていましたが、この絵が制作された1841〜48年は、役者の名前を入れないことを条件に役者絵の出版自体は許されていたそうです。国芳は純粋に人々を驚かせようとしたのかもしれません。

また「相馬の古内裏」は、山東京伝の小説『善知安方(うとうやすかた)忠義伝』に取材した作品です。描かれるのは、平将門が相馬に築いた内裏の廃屋で、娘の滝夜刃姫が妖術で骸骨を呼び出した場面。しかし、そのような物語を知らなくとも、画面の右からぬっと現れる、写実的に描かれた巨大な骸骨は、ひと目見たら忘れられないほどの強い印象を残します。

歌川国芳「相馬の古内裏」後期展示

そんな、作品を描いた歌川国芳の展覧会が、東京の府中市美術館で開かれています(~2017年5月7日まで)。同館では7年前にも国芳の展覧会が開かれていますが、今回の展覧会は一味違います。

国芳の作品がなぜ現代人の共感を呼んでいるのかを【「綺麗なもの」と「かわいいもの」の復権】【特撮ファンタスティック】【ヘタウマの巧み】【猫がむすぶ国芳と現代人の心】といった独自の切り口で分析しているのです。

また、ほとんどの代表作が良質な摺り、最高の保存状態で見られることはもちろん、円山応挙や江戸時代後期の洋風画家・亜欧堂田善(あおうどうでんぜん)らの作品とも対照できる構成になっています。

会期はいよいよ終盤。国芳展に行ったことがある方にも行ったことがない方にも、オススメできる展覧会です。

【今日の展覧会】
『歌川国芳 21世紀の絵画力』
■会期/開催中~2017年5月7日(日)
■会場/府中市美術館
■住所/東京都府中市浅間町1-3
■電話番号/03・5777・8600(ハローダイヤル)
■開館時間/10:00 ~ 17:00(展示室への最終入場は16:30まで)
■休館日/月曜日 (ただし5月1日は開館)
■アクセス/京王線府中駅からちゅうバス(多磨町行き)「府中市美術館」下車すぐ
■展覧会公式サイト/https://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/kikakuten/kikakuitiran/kuniyoshi21.html

取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』などへの寄稿ほか、『日本美術全集』『超絶技巧!明治工芸の粋』『村上隆のスーパーフラット・コレクション』など展覧会図録や書籍の編集・執筆も担当。

 

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