文/浅見祥子

『トイ・ストーリー5』
(配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン)
監督・脚本/アンドリュー・スタントン 共同監督・脚本/ケナ・ハリス
声/唐沢寿明(ウッディ)、所ジョージ(バズ)、日下由美(ジェシー)、広瀬アリス(リリーパッド)、佐野勇斗(スマーティー・パンツ)、竜星涼(フォーキー)ほか
7/3~全国公開
(C)2026 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

もし人間が見ていないところで、おもちゃが箱を飛び出して、しゃべったり遊んだりしていたら?――。そんな「おもちゃのチャチャチャ」的無邪気な想像から出発したようなステキな世界観を、史上初の長編フルCGアニメーションで描いた映画『トイ・ストーリー』。1995年に1作目がつくられてから30年もの時を経て、『トイ・ストーリー5』が公開される。時代を超えて愛され、子どもだけでなく、大人の心もつかむ「トイ・ストーリー」シリーズ。それは、何ゆえに?

おなじみのウッディとバズ。そして後姿がチラッと見えるのは5作目の新キャラ、リリーパッド。

1作目の『トイ・ストーリー』は、信じられないくらいに練り込まれた脚本のハイレベルな作品だった。主人公はカウボーイ人形のウッディ。アンディ少年いちばんのお気に入りで、おもちゃたちの正義感あふれるリーダー。おもちゃにとっての一大事は、子どもが新たなおもちゃをゲットするクリスマスと、不用品としてママに処分されるかもしれないお引っ越し。おもちゃたちはアンディにとってのいちばんを巡り(だってそれが彼らの生命線だから!)、上を下への大騒ぎを繰り返す――。

胴体部分がバネになっているダックスフント、プラスティック製のティラノザウルス、ブタ型貯金箱、ランプスタンドに付属した陶器製の羊飼いの少女、無個性な無数の緑色の兵隊と、おもちゃの種類はさまざま。新たに仲間入りしたバズ・ライトイヤーは「自分はスペース・レンジャーだ!」という真剣な思い込みが時に切ない、ちょっとコミカルな笑いをもたらしたりして、おもちゃの特性がそのままキャラクターの造形に。やがてバズが隣家の暴れん坊で、おもちゃの破壊が大好き! なシドに囚われる。どうするウッディ!?

おもちゃにとってはアンディの子ども部屋が世界のすべてで、描かれるのはひじょ~に狭い世界。その子ども部屋や家の周辺の道路を舞台に、スケールの小さな大冒険が繰り広げられる。そんな、日常のすぐそこで起きていたら楽しいな! と妄想させるストーリーが猛烈なスピードで展開し、それぞれのおもちゃがキャラクターを全開にした小ネタを連発し、アクションでハラハラどきどき。さらにおもちゃ同士の友情、おもちゃとアンディとの絆を織り込み、人間ドラマのような奥行きを持たせて81分はあっという間。いつまでも色あせることのないエンタメ作になっている。

カウガール人形のジェシーとその相棒の馬、ブルズアイ。リリーパッドを正面から見ると、確かにカエル。

2作目以降も、その基本は変わらない。2作目でヨーデルが得意なカウガール人形のジェシー、3作目でイチゴの香りのクマのぬいぐるみロッツォ・ハグベア、4作目でおもちゃの新たな持ち主である少女ボニーが使い捨てフォークでつくったフォーキーなどなど。毎回新しいおもちゃが登場し、おもちゃたちの新しい冒険が始まる。

その底にあるのは、胸を締めつけるほどの“切なさ”。その正体は、子どもはいつか成長しておもちゃとの蜜月が終わってしまうこと。おもちゃで遊んだことのない子どもも大人もいない。誰もがかつて、どこへ行くにも一緒だったおもちゃがあって、時間を忘れて夢中で遊び、さみしいとき悲しいときにぎゅ~っと抱きしめた記憶がある。だからこそ、「トイ・ストーリー」シリーズに登場するカラフルなおもちゃたちを一瞬で大好きになり、物語にきゅっと感情移入してしまう。

しかもおもちゃたちは、人間の前ではいつでもただのおもちゃ。彼らが大好きな子どもを思いやる気持ちや行動を、人間が知ることはない。それでもただただ子どものためを思い、献身的な行動に出る。そんなおもちゃたちのひたすらに純粋な愛情が、酸いも甘いも知ってしまった大人たちの心をも捉える。

2作目では玩具マニアの中年にウッディが買われてしまい、3作目でついにアンディが大学進学を迎えておもちゃから卒業し、おもちゃたちは内気な少女ボニーの元に身を寄せ、4作目でウッディは子どもからの自立の道を歩むことに。果たして、その先は? それが『トイ・ストーリー5』ということになる。

ブルズアイとジェシーは、デジタルマップおもちゃ「アトラス」、トイレ・トレーニング用のハイテクおもちゃ(って何?)「スマーティー・パンツ」とデジカメのおもちゃ「スナッピー」と出合う。どれも、微妙に時代を感じさせる味わい。

「トイ・ストーリー」シリーズには、毎回おもちゃにとっての敵が登場する。それはおもちゃを破壊してあれとこれをくっつけ、無茶苦茶な造形物をつくりだすシド少年とか、年代物のおもちゃでひと儲けを企む玩具マニアの中年とか、哀しい過去を持つクマのぬいぐるみとか、アンティーク店で暮らし、子どもから愛されたことのない哀しい少女姿の人形だった。そして『トイ・ストーリー5』のそれは、デジタル機器。子どもたちを部屋に閉じ込め、おもちゃと遊ぶ時間を奪い、孤立させている。おもちゃの時代は終わりなの!? まさにシリーズ最大の危機である。

監督は、アンドリュー・スタントン。1作目の原案&脚本を手掛け、3作目をのぞくすべての脚本を担当した彼が、初めて監督も担う。「トイ・ストーリー」シリーズの生みの親、その世界を知り尽くした人の描くもの、それが5作目というわけ。

今回大活躍するのは、カウガール人形のジェシー。前作でウッディから保安官バッジを引き継ぎ、ひとりでおもちゃと遊ぶのが大好きな少女ボニーのいちばんのお気に入りとして、内気なボニーにお友達をつくろうと奮闘する。でもイマドキの友達づくりに、デジタル機器は不可欠。見かねた両親がボニーにカエル型タブレット、リリーパッドをプレゼント。リリーパッドは、彼女なりのやり方でボニーに友達をつくろうとしたり、勉強を教えたり。やがてボニーの時間を支配し始める…。

子どもたちがそれぞれに薄暗い子ども部屋に閉じこもり、デジタル機器の小さな画面に向かっているさまは、今現在、世界中で見られるであろう光景。それは野山を駆け巡ったり、想像力を働かせておもちゃで遊んできた世代を、このままでいいのか!? と、いてもたってもいられないような気持ちにさせる。しかもデジタル機器は勉強の相棒になったり、友達づくりの場にもなるわけだから、単純な“敵”とも言えない。子どもの世界も、事態はますます複雑化している。

それはそれとして、ジェシーに迷いはない。だって彼女には、ボニーとたくさん遊んだ記憶があるから。自分を愛してくれたボニーには幸せになってほしいの! そんな純粋な思いが彼女の行動を後押しする。劇中、「おもちゃの使命は子どもを幸せにすること、子どもと遊ぶこと」とバズが言う。なんでだろう? そう聞いただけで、なんだかじんわりと心が温かくなるから不思議。

大量生産のおもちゃであるバズが、無数の仲間と“バズ軍団”を結成!? 森や海などの自然描写に、CG技術の進化を実感するリアルさ。

【映画深堀りネタ帳】

サブスク時代、『トイ・ストーリー5』をより深く味わうための映画ネタを紹介。

『トイ・ストーリー2』(1999年製作)

「スター・ウォーズ」のパロディみたいなオープニングに始まり、シリーズものの2作目にして、恐るべき完成度を誇る。最新作で大活躍するジェシーも初登場。かつての持ち主への思いを歌に託すシーンは、シンプルな歌詞に心を捕まれて号泣必至。

『バービー』(2023年製作)

マーゴット・ロビー製作・主演。『トイ・ストーリー3』にはバービーとその彼氏のハンサムガイ、ケンが登場。『バービー』でライアン・ゴズリングが演じたあの役! バ〇っぽいライアンもサイコーだったが、アニメーションの世界でもケンは完全に“浮世離れキャラ”。「前に会った?」とか言ってバービーと一目で恋に落ち、画面の隅でいつでも二人してイチャついていたりして笑いを誘う。

文/浅見祥子(映画ライター)
雑誌「BE-PAL」(小学館)、「田舎暮らしの本」(宝島社)、web「大人のおしゃれ手帖」(宝島社)、「シネマトゥデイ」などで映画レビュー、俳優&監督インタビューを執筆。また「芸能マネージャーが自分の半生をつぶやいてみたら」などの書籍ほか、赤楚衛二「A」、菅田将暉「着服史」、小関裕太「Y」、藤原大祐「FeaT.」、菅井友香「たびすがい」(すべてワニブックス)などでインタビューを担当。

 

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