文/印南敦史

画像はイメージです。

私はもともと歩行に問題を抱えた人間なのだが、ここ数年はとくに歩きづらさがひどくなってきたと感じている。しかも1年半ほど前には酔った帰りに転倒して頭を打ち、集中治療室に担ぎ込まれたりもしたのだ。

幸いなことに後遺症もなく順調に回復できたが、それはあくまで結果論。冗談抜きで、一歩間違えれば死んでいたかもしれなかったのである。だからなおさら、『歩幅を見れば、寿命がわかる「死ぬまで歩ける体」のつくり方』(安保雅博 著、アスコム)はきちんと読んでおかねばならないと感じたのだった。

そうでなくとも加齢とともに、歩く力は低下する。リハビリテーション科医である著者によれば、“歩く力の衰えのサイン”としてわかりやすいのが、歩幅の変化なのだそうだ。

成人の理想の歩幅(一方の足のつま先から、もう一方の足のつま先までの長さ)は、身長(cm)×0.45が目安とされています。身長が150cmの人なら、67.5cmです。
(本書「はじめに」より)

体型や年齢によって個人差はあるものの、健康を維持するための目標としては65cmほどが適正とされているという。意外と長い気がするし、自分は基準を満たしていないようにも思えるが、いずれにしてもきちんと測ってみるべきかもしれない。

転倒に話を戻すが、厚生労働省のデータによると、「転倒・骨折」は要介護状態になる原因として認知症や脳血管疾患に次いで上位に挙げられているという。

注目すべきは転倒の多くが、交通事故や高いところからの転落などの大きな事故ではなく「家の中でつまずいた」「段差でバランスを崩した」「なにもないところでよろけた」といった、日常の何気ない動作のなかで起きている点である。

しかも転倒は、ときに「死」に直結する事故でもある。酔ってよろけて集中治療室行きとなった身にとっては、リアリティを感じずにはいられない話であるが、自分にも起こりうる話として、誰もが認識しておいたほうがよさそうだ。

厚生労働省が公表した「令和6年(2024年)人口動態統計」によると、この年に「不慮の事故」で亡くなった方は4万5743人。その内訳を見ると、転倒・転落・墜落による死亡死者数は1万1935人にのぼります。これは、不慮の事故死の中でワースト1位です。
(本書71ページより)

なかでも多いのは「家の中での転倒」で、その死亡者の大多数が高齢者であることも、同統計調査からわかっているという。

たとえば「家庭における不慮の事故による死因」を見てみると、家庭での平らな場所での転倒(「スリップ、つまずき及びよろめきによる同一平面上での転倒」)のうち、65〜79歳が約24.0%、80歳以上は約67.0%を占めている。

階段での転倒・転落(「階段及びステップからの転落及びその上での転倒」)でも同じような結果で、65〜79歳が約36.4%、80歳以上が約50.5%を占めているのだ。一瞬、「まだその年齢に達していないから」と安心しかけた自分が情けない。そういう問題ではないのだ。

だいいち著者によれば、高齢者の転倒は「運が悪かった事故」ではなく、多くの場合は老化によってつくられた「転びやすい体」が招いた結果なのだそうだ。

そして、その変化は日々の「歩き方」にも表れることになる。

歩幅が狭くなり「ちょこちょこ歩き」になっている場合は、転倒のリスクが高まっているサインです。逆に、大きめの歩幅で「スタスタ歩き」ができている人は、筋力やバランス能力が維持できている可能性が高いでしょう。
(本書73ページより)

ここで、先に触れた歩幅の問題に戻っていくわけである。歩幅の違いが、そのまま将来の転倒、さらには寿命にも関わってくるということで、まったくもって人ごとではないのだ。

そこで思い出したいのは、私たち人間が二足歩行という「不安定な歩き方」をしているという事実である。そんな私たちが転ばずに歩けるのは、重心を安定させ、姿勢を保つ力――すなわち「バランス能力」だ。

その土台になっているのは「平衡機能」。体が前後左右など一方に偏らず、安定した状態を保つ機能のことである。そして、そんな平衡機能を支えているのが次の3つの感覚。

▶︎視覚…目から入ってくる情報を脳に伝え、「今、自分がどこにいて、どんな姿勢か」を把握する
▶︎前庭覚…耳の奥にある三半規管の働きで、体の傾きや動きを感知し、頭の位置を安定させる
▶︎体性感覚…関節の動き、筋肉の張り、足裏の接地感など、体の内部や皮膚から脳に送られる情報で姿勢を調整する
(本書84ページより)

なお、バランス能力を構成しているのは平衡機能だけではない。そこに、筋力・姿勢・関節の動く範囲(可動域)・反応の速さ(反射神経)・判断力や注意力などの認知機能も加わるわけだ。

ただし、これらの多くは加齢とともに少しずつ、確実に失われていくものでもある。だからこそ正しい歩き方を身につけ、体を若返らせる必要があるのだろう。


『歩幅を見れば、寿命がわかる
「死ぬまで歩ける体」のつくり方』
安保雅博 著
1650円
アスコム

文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』(PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。

 

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