文/鈴木拓也

人間の脳は、40代後半から50代にかけてが「最盛期」。しかし、50代も終盤になると、加齢に伴う認知機能の低下が始まる。65歳あたりから、軽度認知障害や認知症に罹る人が増え、80代になるとそれらの有病率は数割台に達する。
他方、80代でも50代の認知機能を維持している人たちがいる。彼らは、集中力や記憶力などに全く衰えを感じさせず、「スーパーエイジャー」と呼ばれる。
スーパーエイジャーは、遺伝的に恵まれた一握りの人たちの話なのだろうか?
「そもそも脳は老いるものではなく、むしろ実年齢よりも若く『若返る脳』を自らつくることができる」と言うのは、加藤プラチナクリニックの脳内科医、加藤俊徳院長だ。
様々な年代の1万人以上のMRI脳画像を見てきた加藤院長は、加齢とともに衰える他の臓器と違い、脳だけはやり方次第で「いくつになっても成長を続ける」と説く。
そして、その方法を解説したのが、著書の『80代でも若返る脳』(新星出版社 https://www.shin-sei.co.jp/np/isbn/978-4-405-09470-3/)だ。
8つの脳番地が連携して働く
脳は、無数の神経細胞の集合体であることはよく知られている。ただ、乱雑に存在しているわけでなく、同じような機能を持つ細胞同士は寄り集まっており、加藤院長はこれを、「脳番地」と呼んでいる。
例えば、思考や判断に関係する細胞の集まりは思考系脳番地、感性や社会性に関係する細胞の集まりは感情系脳番地というふうに、大別すると8つの脳番地がある。

これら脳番地は、1つの刺激に対して単独で働くものではなく、複数で連携するのが基本。例えば、絵画の鑑賞は視覚系の担当だが、絵を見て感動を覚えるのは感情系の担当だし、なぜ感動するかを分析するのは思考系や理解系の担当というふうに。このように、脳内ネットワークを広く働かせることで脳は鍛えられる。実際、スーパーエイジャーは、複数の脳番地がチームプレーで働く活動を日常的に行っていると、加藤院長は記している。
予定を逆算して脳番地を活性化
本書では、各脳番地を活性化させ、スーパーエイジャーを目指すトレーニング法が数多く紹介されている。
その1つが逆算予定表だ。これは、今日のスケジュールを、その日の終わりからさかのぼって埋めていくというもの。
まず、就寝時間を決めます。22時に設定したら、そこから逆算して入浴、夕食の片づけ、夕食、夕食準備(料理)、掃除など、予定を決めていきましょう。
今まで普通にこなしてきた日常生活のひとつひとつを、「予定表」という枠組みのなかに入れることで、課題となり一種の強制力が生まれます。これを脳は「張り合い」に感じ、脳番地が協力し合ってクリアしようとするのです。
(本書80pより)
1日が終わったら、予定がこなせたかを10点満点で採点する。点数が低ければ、詰め込み過ぎなので少し緩め、高得点であれば、もう少し予定を増やせるかを検討してみよう。
逆算予定表の作成は、思考系、視覚系、理解系、記憶系の脳番地を活性化させる。もちろん、予定に組み入れた行動も、それに応じた脳番地を活性化させるので、漫然と無為に過ごさないことが肝心だ。
睡眠時間が短ければまず30分増やす
加藤院長は、日々の活動だけでなく、睡眠時間をしっかり確保する重要性も指摘する。
アルツハイマー型認知症は、脳内にアミロイドベータという老廃物が、過剰に蓄積することで発生すると考えられている。脳にはアミロイドベータを排出する機能が備わっているが、睡眠不足だとこの排出作業はスムーズに進まない。
今年65歳の加藤院長は、平均9時間の睡眠をとっているという。これは、日本人の平均睡眠時間(約7時間半)よりもずっと長いが、そのおかげで、「朝起きてから夜寝るまで頭がよく働き、仕事をしている間もずっとベストパフォーマンスを続けて」いるそうだ。9時間は無理でも、少なくとも8時間は眠ることを、加藤院長はすすめている。
それまで短時間睡眠だった人が、いきなり8時間を目指すのは意外と難しい。そこでまずは、30分増やすことを当面の目標にする。ここでも、逆算予定表の出番となる。例えば、「22時就寝」と記入したら、それより2時間以上前に「夕食終了」と書き加える。睡眠時に消化が終わっていれば、それだけ眠りも深くなるからだ。そして夕食後は、睡眠に向けた準備時間と心得る。
お腹が落ち着く食後30分から1時間後くらいにゆっくり入浴し、その後は好きな音楽を聞きながら今日1日を振り返って日記を書くなど、リラックスして過ごしましょう。少しずつ「脳が眠り」に傾くよう演出してください。
(本書123pより)
また、眠りにつく前に「1日完了日記」をつけることも、すすめられている。イヤなことがあった場合、布団に入ってもそのことが気にかかって眠れないことがある。この日記は、それを防ぐためのもので、紙面にはイヤだった感情ではなく、淡々と事実だけを記録する。それで、気持ちに一区切りつき、入眠しやすくなる。
運動は強力な脳番地トレーニング
さらに加藤院長が、おおいにすすめるのが運動習慣。体を動かすことは、スーパーエイジャーの条件とも言い切っている。
運動時は運動系が働くが、他の脳番地との連携が強く、全脳番地を動かすことになりやすいというのが、その理由。
たとえば散歩ひとつとっても、空を眺めて天気を確認する際は視覚系が働き、曇天なら散歩をすべきかどうかを考えて思考系が働き…というふうに、多様な脳番地が活性化する。散歩自体もアミロイドベータなど老廃物の排出を促すので、一石何鳥もの効果がある。
より効果的なのが、同時に2つ以上の動作を行う運動だ。本書には一例として、その場で足踏みをしながら両手じゃんけんをするトレーニングが載っている。じゃんけんは、最初は左手が勝ち、次は右手が勝つように出す。同時に足を動かしているので、これが意外と難しいが、運動系、思考系、理解系など複数の脳番地が鍛えられる。これ以外にも「5秒ルールしりとり散歩」「7の引き算散歩」などがあり、ローテーションを組んでやってみれば飽きずに続けられそうだ。
本書の脳番地トレーニングは、どれもみな易しくて習慣化しやすい。スーパーエイジャーを目指すなら、一つ一つ取り組んでみるとよいだろう。
※「脳番地」は株式会社脳の学校の登録商標である。
【今日の健康に良い1冊】
『80代でも若返る脳』

定価1650円
新星出版社
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram (https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。











