確かな話芸と魅力あふれる個性を披露し何度も聴きたい、会いたいと思わせる演芸界のスーパースターたち。舞台や楽屋の姿を追いかけ彼らの芸への眼差しをとらえると、「演芸」のいまが見えてくる。

人情も毒も、人の心の機微を笑いの中に織り込む

しゅんぷうてい・いちのすけ 1978年、千葉県生まれ。2001年春風亭一朝に入門。2012年、21人抜きで真打昇進。1月の「下北のすけえん 春風亭一之輔ひとり会」で『あくび指南』のひとこま。笑いが会場を包み込む。

徹底した噺の“解釈”が生み出す表現力

舞台袖から前座の叩く太鼓が鳴る。三味線と鉦の軽やかな音──大師匠・五代春風亭柳朝(しゅんぷうていりゅうちょう)にあやかった出囃子「さつまさ」に乗って、紋付きの羽織姿の噺家が舞台中央に進むと、一段高くなった高座にすっと座った。

飄々としていて掴みどころがない。客に媚びようともしない。少し不機嫌で、少し笑っている。しかしひとたび口を開き、話し出すと、ホールを埋め尽くした386人の観客は、すぐに花笑(はなえ)んだ。

新春に開催された、春風亭一之輔さんの独演会の模様である。

一年で860もの高座

江戸後期に形が固まり、大衆芸能として愛されてきた落語は、一時の低迷期を経て、いままた活況を呈している。新たな聴き手が「会いに行けるアイドル」ならぬ、「会いに行ける落語家」求め、寄席を訪れる。世の中が、落語の面白さを再発見したのである。

その現象の中心人物が「落語界の万能者」(東京かわら版編集人の佐藤友美さん)、「エースで4番」(演芸写真家の橘蓮二さん)、「これぞ粋、これぞ噺家」(作家の杉江松恋さん)という一之輔さんだ。

現在、全国で1000人ほど落語家がいるうち、一之輔さんは間違いなくもっとも忙しい。

東京に4つある寄席をはじめ、各地の大ホールでの独演会や、大小さまざまな会を合わせ年に860もの高座をつとめている。加えてレギュラーのテレビとラジオ番組、連載エッセイなど引く手数多。本人いわく、「3日も休むとむずむずしてくる」ほどで、6人の弟子の指導も余念がない。

一之輔さんが「エース」と呼ばれる所以は、類希な翻訳力にある。古典落語の解釈が深く新しいのだ。江戸を舞台にした古典は、そのままでは伝わりにくく、笑いも生まれにくい。噺と客とのあいだを繋ぐべく、一之輔さんは緩急自在に「落語の世界」を描写する。時には現代の言葉を放り込むなどアレンジも厭わない。が、目先の笑いのための安易なギャグは不要。落語の中の生きた人間が発する言葉で勝負している。

この演目を聴きたい

あくび指南

近所に新しくできた「あくび指南所」での稽古模様。師匠の見事なあくびの手本と、飲み込みの悪い男の稽古ぶりの対比がおかしい。一之輔さんの演じ分けに芸の真髄をみる。

「舟もいいが、
一日乗っていると
退屈で退屈で……
ふあぁ〜〜〜ああぁぁぁ〜
ならぬわい」

隅田川での船遊びに興じるシーン。
あくび指南の師匠から、揺れるようにといわれた男は、前に後ろにと派手にやって叱られる。
同じく師匠から、扇子を煙管に見立て台詞を言えと促される。力が入る姿も見所のひとつ。

初天神

初天神の縁日、物をねだる男の子と父親との攻防を描く古典落語。小生意気な子どもの描き方は、一之輔さんならでは。一之輔さんはこの噺で2010年、NHK新人演芸大賞を受賞。

「ほら見ろ。あっちからこっちから
垂れちゃって大変だ」
なんて言いながら、
八五郎は蜜をひと舐め。
久しぶりの蜜は存外旨く、
チューチューペロペロと啜るうちに……

扇子を団子に見立て蜜を舐め切り、真っ白になった団子(扇子)を眺める。

「令和の名人」推薦者(サライ「令和の名人」特集内の評論を担当)

佐藤友美さん(演芸専門誌『東京かわら版』編集人)
幼少期から伝統芸能に親しみ、『東京かわら版』編集部へ。寄席演芸の普及に尽力。4月に『東西寄席演芸名鑑3』を刊行予定。

杉江松恋さん(作家・文芸評論家・演芸プロデューサー)
推理小説の書評や小説執筆のかたわら、落語会や浪曲会を主宰。夢枕獏『陰陽師』を天中軒すみれさんのために脚本化。著書多数。

橘 蓮二さん(演芸写真家・演芸プロデューサー)
落語、講談、浪曲を中心に漫才、神楽など演芸全般の舞台や楽屋、ポートレートを撮り続ける。落語会のプロデュース、著書多数。

取材・文/角山祥道 撮影/キッチンミノル、山﨑真由子

※この記事は『サライ』本誌2026年4月号より転載しました。

4月号大特集はサライ「演芸」令和の名人です。

 

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