コーヒーを究める多彩なコーヒー豆を気軽に手に入れられる今、いかに自分好みの豆に出会い、的確に挽き、丹念にドリップするか。とっておきのコーヒー時間を堪能したい。

おいしいコーヒーとは花のような香りがあり、
心地よいオレンジの酸味、
滑らかな舌ざわり、
甘い余韻できれいな風味のコーヒーのこと。

おいしいコーヒーが飲みたい。これはコーヒー好きなら誰しもである。だが、この“おいしい”がくせ者だ。従来、コーヒーのおいしさは主観であるとされ、嗜好性でしか語られてこなかった。

ここに“科学の目”を持ち込んだのが、コーヒー専門家の堀口俊英さんだ。60歳を過ぎて大学院に入り、コーヒーの風味を科学的に研究した堀口さんは、「好き嫌いだけではコーヒーのおいしさの本質は理解できない」という。

生豆(なままめ)の品質を理化学的な数値で分析し、風味の官能評価との相関性を研究した堀口さんによると、よいコーヒーの条件は3つ。(1)欠点豆(未熟、発酵、虫食い)などの混入が少ない豆であること。(2)少量生産で地区、農園、品種などの生産履歴が明らかであること。(3)同緯度であればより標高が高い地区の豆で、総酸量(酸味)、脂質量(コク)、ショ糖(甘み)が多い豆であること。これらを持つ豆は、世界的にスペシャルティコ
ーヒーと認定されている。

スペシャルティコーヒーのなかから、よい豆を選ぶことが“自宅コーヒーをおいしく淹れる”ための初動となる。

「選び方で留意したいのが、生産国と品種、焙煎度、ブレンド、賞味期限です」と堀口さん。

昨今は、エチオピアやケニア、コスタリカなど個性ある風味のコーヒーを精製する国に注目度が高い。品種は、価格は張るものの、華やかさを好むならゲイシャ種、パカマラ種を。マイルドな風味がいいならティピカ種を。だが、産地や品種で選ぶのはやや難易度が高い気がする……。堀口さんは、「昨今は浅煎りが好まれる傾向ですが、生豆の特徴を的確に捉え、個性を引き出した深煎りのブレンドを試してほしい」という。

ブレンドは単体で飲んでもおいしい品種を、よりおいしくしようと専門店の店主が組み合わせてつくり上げたもの。

「口に含んでからの風味の広がりと複雑さ、飲み干したときの後口のよさなど、複数の品種を組み合わせてこその、味わいを実感できるでしょう」

最高の一杯へのアプローチ

コーヒー豆を手に入れたら、いよいよ実践。

「一杯一杯を同じ手順で、分量と時間を守って淹れることを習慣化すれば、コーヒー豆や焙煎度の違いもわかり、よいコーヒーが楽しくおいしくなります」

教えてくれる人 堀口俊英さん(堀口珈琲研究所)

日本スペシャルティコーヒー協会理事、日本コーヒー文化学会常任理事。1990年にコーヒー専門店『堀口珈琲』を開業。70歳で東京農業大学博士課程を修了(環境共生学博士)。著書に『珈琲の教科書』ほか多数。

極意1 よいコーヒー豆を選ぶ

『堀口珈琲』の「#7 BITTERSWEET&FULL-BODIED フレンチロースト 200g」(2160円)。おいしさを保つには、豆も粉も冷蔵庫か冷凍庫で保存すること。

「おいしいコーヒー豆とは、よい環境の中で丁寧に栽培され、精製・選別された生豆を適切に焙煎したもの」と堀口さん。そうした豆を入手するには生豆の選定、仕入れ、焙煎技術などを追究した専門店へ。品質に信頼がおけ、抽出についてのアドバイスも受けられる。購入時は焙煎日をチェックしたい。豆は空気に触れると酸化し、香りも味わいも徐々に劣化するため、焙煎日〜2週間以内の新鮮な豆を選びたい。可能な限り豆の状態で購入し、淹れるごとに挽く。保存は密閉できる袋に入れて冷蔵、または冷凍で。冷凍を使う際にも解凍の必要はなく、ミルで挽けばよい。

極意2 焙煎度合いを吟味する

焙煎度は、最も浅い「ライト」から、最も深い「イタリアン」まで8段階に分けられる。堀口さんが「コーヒーの香りやおいしさを味わうのに適している」とすすめる焙煎度は、「フレンチロースト」だ。よいフレンチローストは、焦げや煙臭がなく、やわらかで甘みを伴うのだという。「ただし、品質のよくない豆で深煎りすると、酸がきつくて苦いだけのコーヒーができてしまうので、注意が必要です」(堀口さん)

極意3 分量と時間、温度の計測を徹底する

よい豆を手に入れたらいよいよ抽出だ。抽出は(1)コーヒー粉の粒度、(2)粉の量、(3)湯の温度、(4)抽出時間の4つの条件が肝要となる。とくに(1)(2)(4)は抽出量によって調整する。条件が多く感じるかもしれないが、見方を変えれば、たった4つをクリアすれば、「おいしいコーヒー」が味わえるというわけだ。「初めての方は、粉の粒度は“中挽き”を選ぶといいでしょう」と堀口さん。使う水は軟水。堀口さんいわく「硬水は酸味に影響を与えるので使ってはだめ。水道水でもOKです」

道具を揃える

ドリッパー|構造が異なるとコーヒーの味が変わる

【写真左】台形

【写真右】円錐形

ミル|鮮度の高いコーヒーに不可欠

豆を粉砕し抽出用の粉にする。手動と電動があり、刃の形状で挽き目を調整可。

ケトル|湯の量を調整しやすい細口タイプ

一気に湯が出ぬよう、注ぎ口が細いものを。なければ計量カップで代用しても。

ペーパーフィルターを用いて、手軽にプロの味に近づける方法を堀口さんに教わった。道具は5つ。コーヒ豆をコーヒー粉にするミル、コーヒー粉を抽出するドリッパー、適切な湯を注ぐケトル、タイマーと温度計だ。

まずはどうコーヒーを楽しみたいかをイメージする。さっぱりとしたコーヒーをグビグビ飲むならば、焙煎が浅めの豆、濃いコーヒーをじっくりと味わいたいならば深めの焙煎を選びたい。買い求める際、店頭で粉にしてもらいがちだが、コーヒーは空気に触れると酸化し劣化するもの。できれば淹れる直前にミルで挽きたい。

「自宅コーヒーを習慣にするならミルは用意しておきたいですね。コーヒー粉の大きさ(粒径)はゴマより細かい1mmぐらいに挽くと、コーヒーの味わいがわかりやすいのでおすすめです」

同じ条件で何度も試す

水は硬水以外を選び、しっかりと沸かし、平らにならしたコーヒー粉に近い高さから湯を静かに注いでいく。具体的な手順は以下の通り。安定しておいしく淹れられるよう、分量と湯の温度、抽出時間を守って何度も試してほしい。

基本のドリップ

深煎りをペーパードリップで淹れる場合
抽出時間の目安は3分

1.粉を平らにならし、ごく少量を注ぐ

円錐形のドリッパーにペーパーフィルターをセット。粉25gを入れて平らにならし、90〜95℃の湯を粉の中心に10mlほど注ぐ。

2.粉全体に湯を浸透させる

10ml程度の湯を断続的にちょろちょろと注ぎ、20〜30秒後に最初の一滴が落ちるまで繰り返す(ファーストドリップ)。

3.低い位置から湯を注ぐ

30ml湯を注ぎ、10秒程度待つ。今後の手順はこれを繰り返して、コーヒーの成分を徐々に浸出、濾過
させていく。

4.粉の中心からと外側に円を描くよう注ぐ

「3.」の工程以降は、中心から円を描くようにして湯を注ぐ。泡が膨らんだら、注ぐのをやめて泡が落ち着くまで待つ。

5.残りの1分ほどですべてを抽出するように

湯を注ぐ量や注ぐタイミングで個人差が出るが、残りの1分ほどですべてを抽出できるよう意識したい。

完成

ドリップは、計量(分量)と計測(時間)が肝要。25gの粉を3分で300ml抽出することを目標に。
香りを嗅ぐことを習慣に。

取材・文/角山祥道、山﨑真由子 撮影/湯浅立志

※『サライ』2026年6月号より

6月号特集は『新しい動物園と水族館の歩き方』

 

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