取材・文/坂口鈴香

【1】では、「看取り介護についての同意書」「急変時や終末期における医療等に関する意思確認書」とはどんなものか解説した。今回はその運用の実態を見てみたい。
【1】はこちら
施設や医療機関で最も大事な業務
看護師Yさんが勤務する有料老人ホームでは、「看取り介護についての同意書」も「急変時や終末期における医療等に関する意思確認書」も、入居時に必ず入居者本人や家族の意思を確認し、書類を交わしているという。
「この確認は施設や医療機関の業務で最も大事といっても過言ではなく、一見お元気そうでもこの確認をしておくことは欠かせません。もしそのときにご家族から『私一人では決められない』と言われたら、ご家族の意思が固まるまでは、容体悪化時は医療機関に救急搬送することになると説明しています」
さらに、容体が進んだ際には「入居されたときにはこうおっしゃっていましたが、お変わりはないですか」と、再度意思を確認している。当初に示した「意思」は覆ることが多いからだ。
「胃ろうもカロリー栄養も延命措置だということを理解せずに、『自然に任せてください』というご家族が多いからです。『自然』の認識がご家族でもそれぞれ違う。呼吸器をつけても、それが『自然』だと思っている人も少なくない。だから、容体が変わったらその時々で意思を確認するのは大事ですね」
急変時対応情報なし
末松隆久さん(仮名・55)に確認してみると、入居時に「看取り介護指針」(末松さんの妻が入居していた施設では「重度化した場合における対応に係る看取りに関する指針」となっていた)についての説明は受けていたが、「看取り介護についての同意書」や「急変時や終末期における医療等に関する意思確認書」はなかったという。妻 由紀さんの急変時に、連絡を受けた提携医療機関が施設と電話でやり取りした記録にも、「急変時対応情報なし」と記載されていた。
末松さんがこのグループホームへの入居を決めたのは、「看取り」までしてくれるというのが決め手の一つだった。「看取り介護指針」について説明を受けた際、看取り期には「できる限りのケアをしてほしい」とも伝えていたというので、末松さんとしては当然救急車での搬送や経鼻経管栄養なども含まれていると考えていたのではないだろうか。
由紀さんの場合、認知症が進行しコミュニケーションはほぼできなくなっていたが、まだ自力歩行も可能だったため、施設側が「看取り期」とは考えていなかったのかもしれない。しかし、「急変時の医療等に関する意思確認書」も交わしていなかったというのには疑問が残る。それがあれば、今回のようなことは起きなかったのではないか。
それでも今回のような場合、看護師Yさんは「救急車を呼ぶのは当然」と言い切った。
「ただし、死後かなり経ってからだと、救急車を呼んでも医療機関に搬送してくれないので、そのときは救急車は呼びません。とはいえ、私の勤務するホームでは、2時間おきに見回りをしているのでそこまで発見が遅れることはありませんが」
由紀さんが発見されたときは、まだ体温があったというので、これには当てはまらないだろう。ただ呼吸が確認できなかったというだけで、すぐに救急車を呼ばなかったというのは、やはり腑に落ちない。
【3】につづく
取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。











