「病院に行くほどでもないし、中医学なんて大げさかな……」

そう迷いながらも、「休日になるたびに起きる頭痛だけは、何とかしたい」と、切実に感じる。そんな経験は、ありませんか?

これまで大きな病気もなく、元気に働いてきた方ほど、専門家に相談するのは少し勇気がいることかもしれません。

けれど、中医学が得意とするのは、病院の検査数値には現れにくい、「ちょっとした身体の違和感」を読み解くことです。そこから、不調を減らすサポートができます。

なかでも休日の頭痛は、多くの方が悩んで相談に訪れる症状のひとつ。いくつかの点を整えることで、週末のつらさがやわらぐケースも少なくありません。

本連載では、国際中医専門員である志村幸枝先生に、中医学の知恵から、身体の違和感について、そのサインを読み解いてもらいます。

今日は、中学生の娘さんに半ば強引に連れられて、渋々やってきた相談者が訪れています。ちょっと覗いてみましょう。

【今日のお悩みカード】

相談者:40代後半男性(精密金属加工/自営業)
主な症状:休日の頭痛。平日は痛みがなく働けているのに、休日になるとこめかみがズキズキと痛み出す。

「仕事中は平気なのに…」という理不尽

「お父さん、せっかく来たんだから、ちゃんと話して。ただ痛みを我慢するだけじゃなくて、なにかいい解決策があるかもしれないから」

中学生の娘さんの勢いに押され、所在なげに椅子に腰を下ろしたのは40代の男性です。娘さんに促されるようにして、ようやく口を開きました。

「先生、理不尽な話なんですが…。

平日はどれだけ忙しくても、まったく平気なんです。それなのに、土曜日に少しゆっくりしようというときに限って、頭が痛くなる。

これ、私の休み方が下手なだけですかね?」

自嘲気味に笑いながら問いかけるお父さんに、志村先生は柔らかく、しかし力強い声で言いました。

「お父さん、それは、平日に全力で頑張っていた証拠なんですよ」

「……頑張っていた、証拠ですか?」

戸惑うお父さんに、志村先生は詳しく解説を始めました。

休日に限って出る痛みの正体

志村先生は、励ますように大きく頷きました。

「そうなんです。

平日の間は、仕事への責任感や緊張感によって、身体はキュッと引き締まった状態で動いています。ところが休日になって、フッと力が抜けたとき。それまで縮こまっていた血管がふわっと一気に広がります。

この広がり方が急すぎると、周りの神経を刺激して、ズキズキとした頭痛が起こります。

ちょうど、ずっと力を入れて握っていた手を、急にゆるめたときに、じわっと血が巡る感じがあるでしょう? あれが頭の中で起きているイメージです」

志村先生は、言葉を続けます。

「中医学で『肝(かん)』は、気や血の流れをのびやかに巡らせ、体全体のバランスを整える働きがあると考えます。

緊張すると身体は固くなり、リラックスするとフッとゆるみますよね。その『張る・ゆるむ』のバランスを整えているのが、『肝』の役割です。

平日のあなたは、ピンと張った糸のように、『肝』が懸命にバランスを保っている状態。ところが、休日にその糸がフッとゆるむことで、それまでの均衡を失ってしまいます。

つまり、それまで抑え込まれていた気の動きが制御できなくなってしまい、痛みとしてこめかみや側頭部に現れます」

しばらく間があって、お父さんはぽつりと言いました。

「なるほど…。対外的な防衛ラインを緩めたとたんに、内輪が暴走してしまうわけか」

「そうです。

平日のあなたの身体は、あくまでも、無理をして張っている状態なんです。これを無視して、『当たり前』にしてしまうと、さらに無理が積み重なってしまいます。

だからこそ、平日から意識的に緊張をゆるめて過ごすことができれば、休日との『落差』が縮まりますよね。同時に、休日もあえて、ゆるみすぎない意識を持つこと。

この『オンとオフの差を小さくする習慣』が、根本的な対策になります」

志村先生は、具体的な対策を話し始めました。

痛みとの付き合い方と、未然に防ぐメンテナンス

「ポイントは、3つです。

・痛いときは、潔く休む
・平日から、ゆるめることを意識する
・休日は、気を巡らす

シンプルでしょう? 

この3つを意識するだけで、週末の過ごし方はずいぶん変わってきますよ」

痛むときは、守りに徹する

痛みがひどいときは、まず身体を休めることを優先してください。頓服も、決して悪いことではありませんよ。冷やすと楽になる場合が多いので、様子をみながら試してくださいね。

ただ、痛みをしのぎながら、同時に『そもそも痛まない身体』を作っていけたら、理想的ですよね。

ここからお話しするのは、平日と休日のギャップを縮めるための対策です」

仕事中の「側頭部マッサージ」

「忙しいときほど、意識的に『ゆるめる時間』を取ってみてください。

例えば、休憩のとき、手のひらの付け根を耳の上に当てて、頭皮ごとゆっくり円を描くように動かします。髪をかき上げるような感覚で動かすだけで、血管の緊張がほぐれやすくなりますよ。

もしマッサージだけでは追いつかないほど緊張が強いときは、漢方薬という選択肢もあります。滞った気を、のびやかに巡らせる処方を、上手に取り入れている方もいらっしゃいます」

休みの日こそ、あえて軽く動く

「仕事終わりや休日の朝は、『気を巡らす』ことを意識してみてください。

クタクタになるような運動は必要ありません。散歩でも、ストレッチでも、ヨガでも。『巡らすこと』をイメージしながら身体を動かすことで、肝気(かんき)がスムーズに流れます」

志村先生の言葉に、娘さんがすかさず口を挟みました。

「お父さん、YouTubeに15分くらいの『お家フィットネス』の動画があるよ。あれならリビングで一緒にできるんじゃない?」

「いいですね。15分はちょうどいい目安です。筋トレより、ストレッチを選ぶことがポイントです。

それから、ハーブティーや入浴剤、好きな香りを取り入れるのもおすすめです。香りは気の巡りを助けてくれますよ」

「お母さんも連れてくればよかったね。いつもお父さんにキツいこと言ってるから…。

でも、来てみてよかったでしょ、お父さん」

娘さんの明るい声に、お父さんは照れくさそうに、それでもどこかほっとしたように、肩の力を抜きました。

あなたの頭痛は、どのタイプ?

「今日お話ししたのは、あくまでひとつのパターンです。頭痛にはさまざまなタイプがあります。

例えば、休日にパンやスイーツを食べ過ぎて胃腸に負担がかかり、頭を重くさせてしまうこともあります。

食べることで、つい気分がゆるんで、さらに食べ過ぎてしまうんですよね」

「あー、私、そのタイプかも!  週末に友達とパフェを食べて、翌日もカフェでモーニングすると、午後から頭が痛くなるの、まさにそれだ」

娘さんが目をまん丸にして言いました。

「ふふ。他にも、エネルギー切れが原因のケースもあります。身体が『ずっと疲れているよ!』と、悲鳴を上げているサインです」

「お母さんが時々言っている頭痛、それかもしれない」

二人は顔を見合わせて、うなずき合いました。

「ご自分の身体の傾向を知りたくなったら、いつでも専門家を頼ってくださいね」

「ゆるめる」という、新しいチャレンジ

娘さんは、少し誇らしげに、それでいて優しく言いました。

「お父さんが休みのたびに痛いって言ってるの、ずっと気になってたんだよね。たまには、自分のこともちゃんとケアしてよね」

その言葉に、お父さんの目元がゆるみます。

志村先生は、二人の様子を静かに見守りながら、言葉を添えました。

「若い頃は、オンとオフをパチッと切り替えることができたかもしれません。でも中医学が理想とするのは、極端に振れない『中庸』の状態です。

平日も休日も、大きなギャップがないこと。それが一番なんです。忙しいときも過度に張らず、休日もゆるみすぎず。その意識だけで、休日の痛みはずいぶん変わってきますよ。

働き盛りの世代にとって、『ゆるめる』のは意外と難しいかもしれません。でも、ご自身の身体を大切に使い続けるためにも、なにより、娘さんのためにも、ぜひ意識してみてください」

お父さんは照れくさそうに、ぽつりと言いました。

「そうだな……。中医学なんて大げさだと思っていたけど、自分の身体の使い方を見直す時期なんだな。

帰ったら、フィットネス動画から始めてみよう」

おわりに

「仕事中に緊張しすぎているなんて、言われてみるまで気がつかなかった…。娘のためにも、少しずつゆるめ方を覚えてみます」

来た時よりも、ずっと晴れやかな顔で、お父さんは娘さんと連れ立って帰っていきました。

志村先生は、二人の後ろ姿を見送りながら、心の中で思います。

「40代の男性は、自分を『いつまでも壊れない部品』のように扱いがちです。でも、娘さんにとってお父さんは、代わりはいません。

中医学の智恵をセルフケアに取り入れることは、自分の身体と心の『トリセツ』を作るようなこと。これからは丁寧にメンテナンスしながら、長く元気に過ごしてほしいですね」

※この記事は、国際中医専門員・志村幸枝先生が長年の相談経験に基づき、実例を再構築したものです。プライバシー保護のため設定は変更していますが、身体の悩みと見立ては現場の知見に根ざしています。

中医学において、身体の状態は千差万別です。紹介した養生法は一例であり、効果を保証するものではありません。ご自身の身体をより正確に知りたい方は、ぜひお近くの漢方薬店など、専門家を頼ってみてください。

身体に明らかな不調がある場合は、自己判断せず速やかに医療機関を受診してください。

●監修/志村幸枝

国際中医専門員。CoCo美漢方神戸勤務。登録販売者。漢方相談歴は28年。身体の変化を感じる年頃になり、自分を実験台に漢方と向き合う毎日。日常に絡めた喩え話で「伝わる中医学」をSNSで発信している。お酒を飲みながら美味しいものを食べている時が1番幸せ。趣味はおつまみ作り。
X:漢方しむしむ@simusim01454535
インスタグラム:@cocobikobe0310

●構成・文/もぱ(京都メディアライン)

 

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