
実にありがたいことに、人生をやり直せる時代になりました。人生百年時代となった今では、定年退職は、第二の人生のスタートのように言われています。そうは言っても「どこまでも続く人生」と思っていた、若き時とは違います。はっきりと意識しはじめるのは“人生の終焉”。つまづいてしまえば、失う物も多いものです。
溢れる情報に惑わされず、巧妙で狡猾な罠を見破り、第二の人生を生きなければなりません。しかし、自分だけの知識や経験だけでは心許ないところもある。ならば、賢者の知恵を頼みとするのも一つの方法ではないでしょうか?
そうした賢者が残した一つの言葉をご紹介します。今回の座右の銘にしたい言葉は、「常在戦場(じょうざいせんじょう)」 です。
目次
「常在戦場」の意味
「常在戦場」の由来
「常在戦場」を座右の銘としてスピーチするなら
最後に
「常在戦場」の意味
「常在戦場」について、『⼩学館デジタル⼤辞泉』では、「いつでも戦場にいる心構えで事をなせという心得を示す語」とあります。文字通り「常に戦場にいるつもりで油断しない」という意味を持つ四字熟語です。
実際の歴史では、戦国時代の武将たちの教えや、軍学の世界では「平時こそ備えてこそ、本当の危機に動じない」と語られてきました。つまり、この言葉は「どんなときも気を抜かず、今日という一日を悔いなく生きよ」というメッセージなのです。
「常在戦場」の由来
「常在戦場」は、戦国時代から江戸時代にかけての武家社会で重視された心構えです。特に注目すべきは、この言葉が長岡藩(現在の新潟県長岡市)の藩訓となっていたことでしょう。
もともとは三河国牛久保(現在の愛知県)の城主だった牧野家の家訓でした。牧野家は江戸時代に長岡藩の藩主となり、この「常在戦場」の精神を藩全体の訓として広めました。長岡藩では、この言葉のもと、戦場の生活を想定した質素倹約を励行し、心身の鍛錬と教養の向上を図っていたのです。
第26、27代連合艦隊司令長官・山本五十六も、他人に揮毫(きごう)を頼まれた時に「常在戦場」と書いていたことでも知られています。
人生において豊かな経験を積み重ねてきた世代は今、テクノロジーの急速な進化、社会構造の変化、そして予期せぬ健康問題など、多くの「戦場」に直面しています。「常在戦場」の精神は、こうした変化や困難に対して常に準備を怠らず、心構えを持って立ち向かう姿勢を教えてくれます。

「常在戦場」を座右の銘としてスピーチするなら
「常在戦場」は力強い言葉なので威圧的にならず、前向きな自己成長や日常への意識に結び付けて語ることが大切です。以下に「常在戦場」を取り入れたスピーチの例をあげます。
一日一日を丁寧に生きる大切さを伝えるスピーチ例
私の座右の銘は「常在戦場」です。この言葉は、もともと戦国時代の武将たちが、日々の油断を戒めるために用いた言葉で、「平穏な時も、常に戦場にいるつもりで油断しない」という教えが込められています。
私がこの言葉を意識しはじめたのは、仕事一筋だった頃よりも、定年を迎え、人生の新たな章が始まったと感じたときでした。若い時は目の前の仕事や家庭のことで精一杯になりがちでしたが、改めて振り返ると、どの瞬間も本番であり、二度と同じ時間は戻ってこないことに気づかされます。
シニア世代になった今こそ、「明日やればいい」「そのうちに」と後回しにするのではなく、今日このときを大切に、今できることを全力でしようという思いが強くなっています。特に健康や家族、友人との時間のありがたさ、趣味や新しい挑戦、本当に大切にしたいものは、日々の中にこそあることを知りました。「常在戦場」という言葉は、どんなときも前向きに挑み続ける気持ちを教えてくれます。
どんなに小さなことでも、「今日が自分のための戦場」だと思って過ごせば、自然と充実感や達成感が生まれるのです。これからも、「常在戦場」の心で、一日一日を丁寧に、そして前向きに積み重ねていきたいと考えております。
最後に
「常在戦場」は、いつ何が起きても驚かないための心の備えです。日々の生活を新たな気持ちでとらえ、これまでの経験や知恵を生かして次の一歩を踏み出すための、力強い支えになってくれる言葉でもあります。もし今、「このままでいいのだろうか」「何か新しいことを始めたい」と感じている方がいれば、この四字熟語を座右の銘にしてみてください。きっと、人生の後半戦を充実させ、新たな自分に出会うための出発点になるはずです。
●執筆/武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com
