「あれ? なんて漢字だったっけ」と悩むことが多くなっていませんか? 少しだけ思い出す努⼒をしてみるものの、結局は「まあ、いいか」と諦めることもあったりして、記憶の衰えを実感することもあるのではないでしょうか? しかし、思い出すことが記憶⼒の鍛錬につながると⾔われています。
「脳トレ漢字」今回は、「蝸牛」をご紹介します。梅雨の小さな訪問者を想像しながら、漢字への造詣を深めてみてください。

「蝸牛」は何と読む?
「蝸牛」の読み方をご存じでしょうか?
正解は……
「かたつむり」です。
「蝸牛」は一般的に「かたつむり」と読みます。殻を背負ったあの小さな生き物のことです。
なお、「かぎゅう」とも読みますが、こちらは漢語由来の言葉で、やや硬質な響きがありますね。例えば、「蝸牛角上(かぎゅうかくじょう)の争い」といった故事成語で耳にしたことがある方もいらっしゃるでしょう。これは、蝸牛の角の上のような狭い世界での、取るに足りない小さな争いのことを指します。
また、専門的な場面では「蝸牛」が内耳の構造物を指すこともあります。形状がカタツムリの殻に似ていることから名付けられました。
「蝸牛」の由来
なぜ「かたつむり」を「蝸牛」という漢字で表すのでしょうか? それぞれの字の成り立ちを見ていくと、古人の観察眼の鋭さに驚かされます。
まず「蝸」という字ですが、これは形声文字です。「「咼」という字には、「うずまく」「まるい」といった意味合いが含まれており、貝殻を背負ってうずまき状の殻を持つ虫、という特徴を捉えています。まさに、かたつむりの姿そのものですね。
次に「牛」という字ですが、これは象形文字で、牛の頭部と角の形をかたどったものです。では、なぜ「かたつむり」に「牛」なのでしょうか。これは、かたつむりがゆっくりと進む様子や、頭部から伸びる二本の触角を、牛の角に見立てたためと言われています。あの小さな触角を「牛の角」と捉えるとは、なんともユニークで微笑ましい発想ではありませんか。

「かたつむり」という言葉の語源については諸説ありますが、「形螺」(かたつぶり)が変化したとする説が有力です。「かた」は「形・固い」を意味し、「つぶり」は「つぶら・丸い」ことを表すと考えられています。時代とともに「かたつぶり」が「かたつむり」へと変化していったようです。
「でんでんむし」という呼び名も、「出よ出よ虫(でよでよむし)」と、子供たちが角を出すように囃し立てた言葉が変化したもの、あるいは殻から出たり入ったりする様子から来ているなどと言われています。
夏の季語「蝸牛」
俳句の世界では夏の季語として数多く詠まれてきました。例えば、江戸時代の俳人・小林一茶には、
かたつむり そろそろ登れ 富士の山
という有名な句があります。小さなかたつむりが、日本一高い富士山をゆっくりと、しかし確実に登っていく姿を詠んだこの句は、非力な者でも努力を続ければ大きな目標を達成できる、という励ましのメッセージとして解釈されることもあります。
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いかがでしたか? 今回の「蝸牛」のご紹介は皆様の漢字知識を広げるのに少しはお役に立てたでしょうか? 雨上がりの紫陽花の葉陰で、ゆっくりと進む蝸牛の姿は、どこか哲学的な趣も感じさせてくれますね。
来週もお楽しみに。
●執筆/武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com
