日常会話をしていて、あるいは、文章を書いていて、「あれ、この日本語って合っているのかな?」と思ったことはありませんか。ライターの私ですら、そう思うことがたびたびあります。当然ですよね、言葉は時代とともに変化していくものですから。

NHK放送文化研究所主任研究員・塩田雄大さんの著書『ゆれる日本語、それでもゆるがない日本語』(世界文化社)では、NHKならではの徹底した調査を基にして、迷いがちな言葉についてその意味や現代での使われ方などを解説しています。

今回は、『ゆれる日本語、それでもゆるがない日本語』の中から、「教えてくださり」「教えていただき」の敬語表現について取り上げます。

両方正しいが、「教えていただき」を使う人が多い

Q:「教えてくださりありがとうございます」と、「教えていただきありがとうございます」とは、どちらが正しいのでしょうか。

A:「教えてくださり~/教えていただき~」という形で尋ねた調査の結果では、どちらかと言えば「教えていただき~」のほうがよく使われており、「教えてくださり~」という言い方は自分でしないという意見が、やや多くなっています。ですが、両方とも正しい言い方です。

「教えていただき~」をおかしい表現だと考える人もいる

「教えてくださり~」のほうは、「あなたが私に教えてくださりありがとうございます」という形で、「相手」の行為に直接感謝を述べています。
それに対して「教えていただき~」は、「私があなたに教えていただき、(この状況は)ありがたいものです」という形で、「私」が受けた恩恵に対する感謝の念を間接的に相手に伝えていることになります。

ただし、「教えていただき~」のほうはおかしな表現だと考える人もいます。それはどういうことでしょうか。

「くださる」は「くれる」を敬語(尊敬語)の形にしたものなので、たとえば友達に対しては次のように言うことができます。

「教えてくださりありがとうございます。」
   ↓
〇「教えてくれてありがとう。」

一方「いただく」(謙譲語)に対応する「もらう」では、同じように言いかえることはできません。

「教えていただきありがとうございます。」
   ↓
×「教えてもらってありがとう。」

このように、もともと「教えてもらって~」とはふつうは言わないのだから「教えていただき~」も変なのだ、というのがその根拠になっています。
確かに理屈の上ではそうかもしれないのですが、文化庁が示した「敬語の指針」でも、「いただき」のほうを不適切だと感じる人はいるものの「~くださり」「~いただき」の両方とも適切な表現であると示されているのです。

*  *  *

ゆれる日本語、それでもゆるがない日本語 NHK調査でわかった日本語のいま 
著/塩田雄大
世界文化社 1,870円(税込)

塩田雄大(しおだ・たけひろ)
NHK放送文化研究所主任研究員。学習院大学文学部国文学科卒業。筑波大学大学院修士課程地域研究研究科(日本語専攻)修了後、日本放送協会(NHK)に入局。『NHK日本語発音アクセント辞典 新版』などに従事。2011年、博士(学習院大学・日本語日本文学)。著書に『現代日本語史における放送用語の形成の研究』など。2015年からNHKラジオ第1放送『ラジオ深夜便』「真夜中の言語学 気になる日本語」担当。『三省堂国語辞典』の編著者のひとりでもある。

 

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