大正12(1923)年、関東大震災で帝都が壊滅したことを機に、日本人の住宅環境は急激に変化し、昭和初期の1930年代、建築、レストラン、ファッションなど大都市を中心に昭和モダンといわれる和洋折衷の市民文化が興りました。

昭和2(1927)年、近代陶芸の巨匠、板谷波山を父にもつ板谷梅樹は、父の美術学校時代の同期であった小川三知のもとでステンドグラスを学び始め、師の三知とともに、個人宅のためにアール・デコ風のステンドグラスを手がけています。

昭和モダニズム隆盛の昭和8(1933)年、旧日本劇場1階玄関ホールのために、陶片などを用いて高さ3mの巨大なモザイク壁画(現存せず)を制作。モザイク作家、板谷梅樹の名を世に知らしめました。

板谷梅樹《鳥》 昭和34(1959)年 個人蔵

泉屋博古館東京で開催の「特別展 昭和モダーン モザイクのいろどり 板谷梅樹の世界」は板谷梅樹の作品を一堂に会した初の展覧会です。(8月31日~9月29日)

本展の見どころを、泉屋博古館東京の主任学芸員、森下愛子さんにうかがいました。

「昭和モダンのアートシーンを飾ったモザイク作家・板谷梅樹(いたや・うめき 1907-1963)。戦前から戦後にかけて、日展で活躍した工芸作家です。

板谷梅樹《花》 昭和30年代 個人蔵

梅樹は、父・波山が失敗して砕いたかけら(陶片)をきっかけに、モザイク作品を手がけるようになります。昭和初期には、ステンドグラスの傘に、父・波山がてがけた辰砂釉の台座を組み合わせたランプシェードをはじめ、飾箱やアクセサリーなど、梅樹は生涯を通じて、日常をいろどる身近な作品を生み出しました。

板谷梅樹《飾箱》 昭和10年代 個人蔵

昭和10年前後に本格的に制作活動に入るものの、戦争で中断、その後ようやく昭和29(1954)年に梅樹作品最大のモザイク壁画《三井用水取入所風景》を発表します。本作は陶片ではなく、様々な色のタイルを使って制作したものです。苦心して制作された3mを超える大作は、富士山麓から流れる川の穏やかな風景が観る人を温かく迎えてくれます。本展の見どころのひとつです。

板谷梅樹《三井用水取入所風景》
昭和29(1954)年
板谷波山記念館蔵

梅樹が目指した美しいモザイクの世界をどうぞお楽しみください」

本展では、モザイク作家・板谷梅樹誕生につながる陶芸家の父、板谷波山の代表作など板谷ファミリー作品も紹介されます。ぜひ会場に足をお運びください。

板谷波山《葆光彩磁珍果文花瓶》 重要文化財 大正6(1917)年
泉屋博古館東京蔵 泉屋博古館東京でのみ展示

【開催要項】
特別展 昭和モダーン モザイクのいろどり 板谷梅樹の世界
会期:2024年8月31日(土)~9月29日(日)
会場:泉屋博古館東京
住所:東京都港区六本木1-5-1
電話:050・5541・8600(ハローダイヤル)
公式サイト:https://sen-oku.or.jp/tokyo/
開館時間:11時~18時、金曜日は~19時(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(ただし9月16日、23日は開館)、9月17日(火)、9月24日(火)
料金:公式サイト参照
アクセス:公式サイト参照

取材・文/池田充枝

 

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