すっかり仲良しのまひろ(左/演・吉高由里子)とききょう(右/演・ファーストサマーウイカ)。
(C)NHK

ライターI(以下I):『源氏物語』の作者の紫式部(まひろ/演・吉高由里子)と『枕草子』の作者の清少納言(ききょう/演・ファーストサマーウイカ)。ふたりの「平安スーパースター」が仲良しだったという設定ですが、こんなにわくわくさせてくれるとは思いもよりませんでした。

編集者A(以下A):大河ドラマではこれまでも、このふたりは面識ないだろう、という人物を劇中で会わせるという演出を展開してきました。代表的な事例では、1976年の『風と雲と虹と』の平将門(演・加藤剛)と藤原純友(演・緒形拳)が語り合うという場面があげられるでしょう。

I:やっぱりビッグネームは劇中で会わせたくなっちゃうのでしょうね。

A:将門と純友に関しては比叡山で夢を語り合ったという伝説があったようですから、ドラマの中で実際に会っていてもそれほど違和感はありませんでした。『風と雲と虹と』の劇中では、検非違使の一員として、盗賊を撃退した将門に興味を持った盗賊の頭目である藤原純友が宴席に招き入れるという設定でした。本来会っているはずのないふたりが作品の根幹にかかわるやりとりを交わした大河ドラマ史の中の名場面です。ちょっと脱線しますが、そのやり取りを掲げます。緒形拳さん演じる藤原純友が平将門に熱く語る場面です。

公地公民の制。これが国家の政(まつりごと)の根幹だったはずでしょう。すべての土地は公(おおやけ)の地。民人は公の民。その貢(みつぎ)によって国家が成りたち、そして都があり、政府がある。しかし実際はどうです。王族や貴族、官位の高い人々が競って諸国に荘を持っている。公の土地を片っ端から自分の私有地にしている。大きな寺も神社も地方の豪族もまたしかり。公の土地は減るばかりだ。民人も公の民であれば貢がかかる。厳しい貢だ。しかしいったん権門貴族や寺社の力に寄りすがって、その荘園の家人となれば、一切の貢を免れることができる。かくて公の土地も民人も減っていくと、それでもなお自立した公民であろうとする者への貢は、いやが上にも厳しくならざるを得ない。かくて浮かれ人が生まれ、増える。

ここで初めて将門が口を開きます。「勇気あるものは盗賊となるのですか」と。そして純友は続けます。

政府の中では、北家藤原忠平を中心とする公卿どもや、やつらは自分たちのよって立つ基盤が崩壊しつつあることを知らぬわけではない。知ってはいるが何もしない。いや、しないどころか、彼らこそが真っ先かけて自分の荘を増やすことに懸命で、つまり自分で自分の基盤を掘り崩すことに夢中だ。とんだ白蟻どもさ。

I:この時代の問題点をコンパクトにわかりやすく説明する台詞ですね。

A:はい。ここで、将門は純友に、「あなたは、何をしようというのです」と問いかけます。純友の答えが衝撃的でした。「反逆。謀反ですよ。私はこの国を根こそぎひっくり返してやろうと思っています」です。物語の核となる行動を将門と純友がふたりで語りあう。この場面は大河史に残るシーンですね。さて、藤原純友の台詞に出てきた藤原忠平といえば、『光る君へ』の藤原道長の曾祖父にあたる人物。ここで純友が指摘した問題点ですが、道長の時代には、公地公民の制などさらに形骸化して、貴族権門が自らの荘園を増やすことに躍起になる行動にはさらに拍車がかかっていたようですね。

I:ききょうとまひろは漢詩の会などで才を認められて参加して仲良くなったという設定でしたが、第21回では『枕草子』執筆にまひろのアドバイスがあったという流れでした。前出の将門と純友の対面が物語の重要な伏線にかかわわるやり取りがあったという意味では、大河の王道的やり取りだったともいえます。

A:脚本の妙ですね。

I:とはいえ、平安ファンの中には紫式部が『紫式部日記』の中で触れている清少納言評のことを気にしている人も多いようです。こんなに仲がいいのにあんな批判を書き残したの? って。

A:「清少納言こそ、したり顔にいみじうはべりける人」で始まり「そのあだになりぬる人のはて、いかでかはよくはべらむ」で終わる文章ですね。口語訳では「清少納言は実に得意顔をして偉そうにしていた人です」「そういう浮薄なたちになってしまった人の行く末が、どうして良いことがありましょう」ですね。確かに悪しざまに評している感じです。

I:いったいどういうふうに受け止めるべきなのでしょうか。

A:『光る君へ』の世界観を存分に楽しもうという立場で言えば、『紫式部日記』の清少納言評は、プロレスでいうところのギミック(仕掛け)として考えたらいいのではないかと思ったりしています(笑)。つまり、中宮定子(演・高畑充希)に仕える清少納言に対して、紫式部はライバルである彰子に仕えることになる。実際には仲が良くとも、周囲にはそう悟られたらまずい。だったら書き物には、仲が悪いようなことを書いておこうじゃないか、という設定です。

I:なるほど。確かに清少納言は、内通者ではないのかと疑われていたようですしね。

A:そうした疑惑や噂を払拭するために、敢えて、活字に「清少納言はいやな女」と記載したのではないかと……。もちろんこれは『光る君へ』を単純に楽しむための独自の解釈です。

I:大河ドラマでは2004年の『新選組!』では近藤勇(演・香取慎吾)と坂本龍馬(演・江口洋介)が江戸で知り合いだったという設定があったり、昨年の『どうする家康』でも家康(演・松本潤)が武田信玄(演・阿部寛)と団子を食しながら面談するという場面が挿入されました。

A:狭い江戸にいるわけですから、龍馬と近藤勇が会っていたという設定は面白かったです。家康と信玄を会わせて見たいというのもわかります。ましてや京都という狭い地域で、俊才の誉が高いふたりの女性を仲良し設定にしたくなる気持ちもわかります。

I:脚本や演出、演者に背景の美術。それがかみ合えば、ここまで面白くなるんだということですね。

※『紫式部日記』の引用は『新編日本古典文学全集』(小学館)より。

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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