いよいよ日本酒の新酒が出回る時季である。
秋に収穫された新米が様々な工程を経て仕込まれ、この季節にふくよかな麹(こうじ)の香りを漂わせ、多彩な味わいの酒へと変化を遂げる。
食いしん坊にとっての楽しみは新酒だけではない。酒を搾った醪(もろみ)の残り、すなわち新しくできた酒粕(さけかす)も同時に出回るのだ。
ここ数年で、酒粕の人気は格段に高まっている。「酒は百薬の長」とは中国古代の史書に書かれた言葉であるが、酒粕の健康効果が注目されている。日本酒は発酵という過程を経ることで、700種類以上にもなる多種多様な成分を醸(かも)し出す。その中には原料の米の段階にはなかった機能性を持つ成分も含まれる。
大手酒造メーカーの研究機関、月桂冠総合研究所によると、酒粕には血圧上昇を抑制するペプチド(アミノ酸の化合物)が含まれるという。
酒粕を使った料理といえば、定番は粕汁(かすじる)だ。昆布出汁で大根、人参、長葱といった冬野菜を煮込み、鮭(さけ)や鱈(たら)のぶつ切りを加えて、味噌を溶く。さらに、好みの量の酒粕を加えるだけで、芯から温まる「粕汁」のできあがりだ。
また、そのまま酒粕を魚焼きグリルなどで炙(あぶ)れば、絶品の酒肴になる。そのほか、切り身の魚を漬け込んで粕漬けにしたり、ラーメンに少量を加えたり、グラタンのソースに加えたり、パンやホットケーキに混ぜて焼いたり、あらゆる料理に旨みを添えてくれる。
蔵元によって、酒粕の味も変わる。好みの酒粕を探すのも、冬の楽しみのひとつだ。
写真・文/大沼聡子
※本記事は「まいにちサライ『食いしん坊の味手帖』」2014年1月13日掲載分を転載したものです。