文/鈴木拓也
働き方改革とそれに続くコロナ禍の影響で、リモートワークが一気に普及した。
通勤しないですむといったメリットもあるが、セルフマネジメントの大変さが伴うのが、この働き方の難しいところだ。
上司・同僚の目は届かず、しかも周囲には誘惑の種がいっぱい。なので、抱える仕事をずるずると先延ばしたことは、リモートワーカーなら誰しも経験があるはず。その先に待っているのは、後悔しかないとわかっているにもかかわらず……。
リモートワークの達人なら、この課題をどう乗り越えるのだろうか?
「サライ.jp」にも寄稿している印南敦史さんは、「書評執筆数日本一」の作家・書評家。多くの人がリモートワークに放り込まれた2020年よりはるか前から、リモートワークをしていた、その道のベテランだ。
「やるべき仕事」を先に終わらせる
印南さんは、先延ばし癖に打ち勝つ方法を、新著『先延ばしをなくす朝の習慣』(秀和システム)で明かしている。
その1つが「やるべき仕事」から取りかかるというもの。
ここで言う「やるべき仕事」とは、「やりたい仕事」の対極にある、「嫌でもやらなければならない仕事」のこと。
それを、朝一番の仕事にせよと説く。
ふつうであれば、先に楽でやりたい仕事をすませ、気持ちがすっきりしたところで「やるべき仕事」に着手したくなる。しかし、それはいけないという。
仮に、どう転がってもやらなければならない仕事が3つあったとします。そういう場合、最初のひとつを終えると「ひとつ終わらせたぞ」という達成感と安心感を覚えることになります。ふたつ目を終えたら、また「ふたつ目も終わったぞ」と達成感と安心感に包まれることでしょう。
3つ目を終えた時もまた同じで、つまりは「やるべき仕事」を終えるたびに気持ちが楽になっていくのです。(本書40~41pより)
実際の話、印南さん自身は、このように仕事を処理している。気が進まないながらも、やるべきことをこなしていくのは、「ポケットに小銭が増えていく」感覚だという表現もしている。空想の小銭で重くなる感覚は地味に嬉しいし、気持ちは軽くなる。あとは「やりたい仕事」しか残っていないのだから、1日の後半戦は断然楽になる。
乗れない仕事はいったん途中でやめる
「やるべき仕事は先に」とわかっていても、どうしても乗れない仕事というのは出てくるもの。
その場合はどうしたらいいのだろうか?
印南さんの答えはシンプルだ―「途中でやめよう」である。
たとえば仕事を進めていく過程で「気分が乗らない仕事」が目の前に陣取って邪魔をするなら、必要以上に自分を追いつめるべきではありません。そうではなく、「気分が乗らないから、いったん途中でやめよう」と思い切ることも、ときには重要なのです。(本書53pより)
やめるにもコツがあって、別のことをして頭を切り替える、もしくはできるところまではやってみて、残りは翌日にでも繰り越すことがすすめられている。
そのどちらにも、それぞれのメリットがある。前者の場合、気分がリフレッシュされ、モチベーションが高まって、元の仕事が再開しやすくなる。これが似たような仕事だと、切り替えたところでネガティブな気持ちはそのままなので、効果は薄い。まったく異なる仕事・タスクを選ぶのがポイントとなるのだ。そして後者の場合、中断した仕事は、ある程度の時間は寝かせておくことが重要。焦りから「10分だけ離れよう」という短さでは効果がない。
また、仕事が乗れなくなる理由が「眠気」のこともある。特に昼食後は睡魔に襲われやすく、在宅ワーカーにとって、そばにあるベッドが猛烈に恋しくなる。
ここは、濃いコーヒーを飲んで、しゃきっとすべきかどうか?
これについても印南さんはシンプルに答える―「仮眠をとればいい」だ。家にいるならそのままひと眠りすればいいし、職場であれば「少し眠ります」と周囲に宣言してしまう。
そうアドバイスする印南さんは、昼寝を習慣化している。その時間は30分。目覚まし時計をかけなくても、ぴったりその時間で目を覚ますという。何分が仮眠(昼寝)のベストタイムかは、人によって違うだろうが、「とにかく集中して眠る」ことを印南さんはすすめている。
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最近のビジネスパーソン向け自己啓発書は、いかに生産性を上げ、迅速に成果に結びつけるかを強調したものが多い。しかし印南さんは、「いい仕事をしたから成果が生まれる」と説き、拙速な成果への期待を戒める。むしろ「コツコツ続ける人が、最強だ」とも。語り口は平易だが、中身は奥が深い。仕事の進め方で行き詰まりを感じているビジネスパーソンなら、読んで損はないはずである。
【今日の仕事力を高める1冊】
『先延ばしをなくす朝の習慣』
文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)に掲載している。