母の介護を契機に洋風から和風献立に。その時の医師の助言を守った、海藻料理を欠かさぬブランチが生涯現役の秘訣だ。

【阿見紀代子さんの定番・朝めし自慢】

前列中央から時計回りに、ご飯、ひじきの煮物(厚揚げ・茹で大豆・ちりめんじゃこ・シラタキ・人参・かいわれ大根)、野菜サラダ(レタス・赤ピーマン・紫玉葱・カニ蒲鉾)、アジの干物、ポンカン、煎茶、味噌汁(なめこ・豆腐・かいわれ大根)。野菜サラダはオリーブオイルと塩、胡椒で食す。味噌汁は豆味噌とこうじ味噌の合わせ味噌が定番。ポンカンは奄美大島(鹿児島県)の友人が送ってくれたもので、香り豊かで甘くみずみずしい。
ブランチの前に楽しむ1杯の「クラマトトマトカクテル」(下記参照)。味に奥行きがあり、トマトジュースというよりスープを思わせる刺激的な味わいだ。
トマトとハマグリが融合したヘルシードリンク「クラマトトマトカクテル」945mL×6本セット8000円。輸入食品取扱店やアマゾンなどの通販サイトで購入可。
午前7時起床。愛犬との散歩後、コーヒーで一服。ブランチは10時半~11時頃だ。「若い頃は肉食派だったけれど、今は和食党に」と阿見紀代子さん。真後ろに見えるのが愛器のヴィブラフォーン。

ヴィブラフォーン奏者の阿見紀代子(あみ・きよこ)さんは、最初からこの道を選んだわけではない。クラシックのピアニストを目指して音楽大学で学んでいたある日、友人に誘われて初めて東京の老舗ジャズ喫茶『ピット・イン』の扉を開ける。

「ライブの休憩時間にかかった1枚のレコードが、私の人生をジャズの世界へと導いてくれました」

それがミルト・ジャクソンが奏でるヴィブラフォーンだった。ちなみに、ヴィブラフォーンとは鉄琴のこと。ミルト・ジャクソンはこの楽器の有名なプレイヤーだ。その音色に魅せられて、大学を中退して独学で学び始める。マリンバ(木琴)が基本となるので、マリンバ奏者にも師事。ジャズの本場、米・ニューヨークも旅した。

研鑽の日々を重ねてプロとなり、フルート、ピアノ、ヴィブラフォーンの女性3人組で活動。1991年にはニューヨークでCD録音。その頃、ライオネル・ハンプトン楽団のメンバーとして活躍のエルマー・ギルと出会い、弟子入り。スイス建国700年記念祭には師と競演し、’93年には師との日本全国ツアーも成功させた。今や女性ヴィブラフォーンの第一人者として、そのパワフルで繊細な演奏は多くのファンの心を魅了している。
 
’95年には東京・銀座に『アミズ・バー』を開店。ジャズ・ミュージシャンに発表する場を提供したい、との強い思いからである。

1995年11月8日、憧れのミルト・ジャクソンが銀座の店を訪ねてくれた時の一葉。彼のヴィブラフォーンの音色に魅せられ、ジャズ・ミュージシャンの道に飛び込んだのだった。
銀座でジャズ・ライブの店を開いていた頃から親交の深かった小林亜星さんと。小林さんは「アミちゃん(阿見さん)は僕のヴィブラフォーンのお師匠さん」といっていた。

ブランチが健康源

プレイヤーであり、またライブ・ハウスオーナーでもある阿見さんだが、朝は早い。愛犬に起こされて7時起床。1食目は朝昼兼用のブランチが習慣だ。

「16年前に逝った母の介護でよく作ったのが、もずくやひじきなどの海藻を使った料理。3食のうち1食には必ず海藻を入れなさい、というのが医師からの助言でした。私の場合、ブランチが最も充実しているので、この10年ほどはブランチで海藻を摂っています」

畢竟、肉中心の洋風から献立は和風に変わった。海藻は酢の物にしたり納豆に混ぜたりすると摂りやすい。また、夜が遅くなりそうな日や気の張る仕事がある日は、これらに加えてハムエッグなどの卵料理が登場。いずれにしても、このブランチがミュージシャンの健康の源であるのは間違いない。

2年ほど前に始めたマレットゴルフ。週2回は仲間と楽しみ、8000歩は歩く。マレットとは木槌の意味で、木槌でボールを打ち、ゴルフのルールで競技する。ヴィブラフォーンのバチもマレットと呼ぶことから、親しみやすかった。
CD『ドリーム・モア・ドリームス』(左)。ギターのブライアン・ノバ、ベースのバディ・カトレットらとの競演。『Ami&Elmer Powerful NightⅡ』は師であるエルマー・ギルを招いてのCD。問い合わせ:090・1205・7768
著書『JAZZと一緒に踊る時 Vol.II』(『I』は在庫切れ)。『アミズ・バー』のオープン15周年に際し、大好きなスタンダード・ナンバー11曲の思い出をまとめたもので、CD付き。問い合わせ:上記CDと同。

ジャズ・ミュージシャンの夢の場所として、店を守り続けたい

店では毎日、ジャズ・ライブを開催。この日は国内外で活躍のジャズ・フルート奏者、井上信平さんとの楽しいワークショップが行なわれ、阿見さんとの白熱したジャム・セッションを展開。ピアノは寺島優樹さん、ベースは吉川大介さん、ドラムは飛び入りの常連客。

映画が好きな阿見さんに、ライブ・ハウスを開くという夢を与えてくれたのは、『ベニイ・グッドマン物語』のワンシーンである。

「ヴィブラフォーン奏者のライオネル・ハンプトン扮する、港町の小さなレストランでの一人三役。シェフからバーテンダー、そしてヴィブラフォーン奏者。その粋な姿に憧れて、私もいつの日か、店をもってみたいと思ったのです」

その夢を叶え、『アミズ・バー』ではライオネル・ハンプトンさながらにシェフ、バーテンダー、プレイヤーの一人三役の活躍だ。

映画といえばもうひとつ、『アミズ・バー』に重ねた作品がある。ケビン・コスナー主演の『フィールド・オブ・ドリームス』だ。

「農夫の彼が、とうもろこし畑をつぶして野球場を作るお話。すると伝説の大リーガーたちが来て、夢中でプレイをするというファンタジー。ジャズ・ミュージシャンと共通するところがあり、私のお店もそんな夢の場所として守り続けたいと思っています」

5年前に大泉学園に移転したが、『アミズ・バー』はこの3月27日、28周年を迎える。

店ではシェフ、バーテンダー、プレイヤーの一人三役。
料理が好きで、手作りの「アモーレキッシュ」(600円)は12種の具入り。オリジナルカクテル「ブレイブ・ハート」(1100円)はメル・ギブソン主演の映画から命名。人気のカクテルで、ベースはスコッチウイスキーだ。

アミズ・バー
東京都練馬区東大泉1-37-3 509タワー3階
電話:03・6904・5586
定休日:月曜・火曜
営業時間:平日18時30分開店、土曜17時開店、日・祝16時開店。全20席。

※この記事は『サライ』本誌2023年4月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。 ( 取材・文/出井邦子 撮影/馬場 隆 )

 

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