取材・文/沢木文

「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人を、結婚すれば夫を、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。

圧力や押しが強い友人との関係に悩んでいる人は多い。「縁を切ればいいのですが、そういうこともできなくて……」と語る千香子さん(56歳)を悩ませているのは、ママ友・夏美さん(56歳)の女王様気質だった。

お互いの夫に愛人がいる連帯感

千香子さんが同じ年の夏美さんと出会ったのは、20年前、東京都心にある公立小学校だった。

「私が住んでいるエリアは、多くの子供が私立の小学校に行くんです。病院を経営する医師の夫は“受験を考えろ”と言ってきたのですが、私は地方出身だし、小学校なんてどこも同じだと思って、長男も長女も地元の小学校に進学させました。夏美さんは娘のときのママ友です」

ふたりが意気投合したのはお互いの娘が小学校1年生のときの保護者会の後。誰からともなく「お昼でも食べましょうか」ということになった。そこには5~6人のママたちがいて、みんなは安価なファミリーレストランに行こうとした。

「私は“またファミレスか”と思いましたが、波風を立てたくなかったので“いいわね”とついて行こうとした。そのときに、夏美さんが“別のお店にしましょうよ”とランチが2000円程度のお店を提案したんです。すると、その他の人は“あそこ高いじゃない。そんなに払えない”“主人が働いているのに私だけが贅沢をしたら悪い”などと言う」

ファミレスでランチをしたら1000円程度。千香子さんは「あと1000円払って、美味しいものを食べればいいのに」と思ったという。

「夏美さんは目ざとい人なので、私のその表情の変化を見たんでしょうね。ランチ会が終わった後に、“コーヒーでも飲まない?”と誘ってくれたんです」

そしてふたりは1杯1000円のコーヒーを楽しみながら、お互いの背景について話した。夏美さんの夫は、不動産関連の会社を営む経営者で、千香子さんの夫に負けず劣らず年収が高かった。二人の夫はお金におおらかで、妻の出費に注意を払わない。リッチなランチを食べようが、高価なモノを買おうが、文句なくお金を払うという共通点があった。

「もうひとつの共通点は、私の主人にも夏美さんのご主人にも、愛人がいること。若くてかわいい子をとっかえひっかえしていれば、遊びだとあきらめもつくのですが、主人は病院のスタッフを、夏美さんのご主人は会社の経理担当の女性を愛人として長年付き合っている」

負い目があるから妻の適度な浪費は目をつぶる。愛人は仕事と性のパートナーであり、夫の人生に不可欠な人材になっている。その心の空洞が二人の距離を縮めた。

【夫に「別れることはできない」と言われた……次のページに続きます】

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