2000人を超える中高年のキャリア開発に携わってきた、ミドルシニア活性化コンサルタントの難波猛氏の著書『「働かないおじさん問題」のトリセツ』(アスコム)より、これからの時代に中高年がいきいきと働くためのポイントをご紹介します。

文 /難波 猛

多くの企業では人事考課が本人に通達される機会が年に1~2回あります。会社からの評価が高い場合、自分の行動やパフォーマンスが期待に応えていることが確認できます。一方、評価が低かった場合、自分のパフォーマンスが十分でないことに気づかされます。

「おじさん」に限った話ではありませんが、仕事のパフォーマンスが落ちているときは何か理由があります。会社としては、本人との面談や研修を通じて、その「理由」を発見できる可能性があります。パフォーマンスが落ちている「理由」が分かれば、改善策を考えることもできます。

「年齢とともにパフォーマンスは落ちる」わけではない

今は「働かないおじさん」だったとしても、昔はバリバリと働いていた時期があったはずです。
入社した直後にいきなり「働かない新入社員」となり、その後もずっと「働かない若手社員」「働かない中堅社員」といった立場をずっと続けてきたような人が、 20~30年も会社に居座り続けるのはさすがに難しいでしょう。コンサルティング現場でも、そこまで長く問題が放置されているケースはごく僅かです。

では、「昔はバリバリと働いていた人たち」が、いつの間にか「働かないおじさん」になってしまう理由はどこにあるのでしょうか。

最初に思いつくのは、加齢に伴う体力の衰えや技術の進化かもしれません。それも当然あるでしょうが、実は精神面や心理面の影響も大きいのです。

同じ仕事を続けている人ほど「働かないおじさん」化しやすい

一般に、仕事に対して情熱を燃やしているときや、少し背伸びをした「新しいスキ ル」を習得しながら「新しいチャレンジ」をやっているときに、人間は大きな幸福感や集中を得ることができると言われています。

これは「フロー体験」と呼ばれる現象です(『フロー体験 喜びの現象学』M.チクセントミ ハイ(世界思想社))。 逆に、「新しいスキル習得」や「新しいチャレンジ」などの刺激がない状態が続き、 同じルーチンワークを繰り返すだけになってしまうと、その作業には習熟しても、新鮮な知的刺激が減り「飽き」「退屈」を感じるようになります。

そうした「飽き」の状態が定着してしまうと、そこから脱却することに面倒や怖さを感じるようになり、その人にとって(表面上は)居心地のよい状態が出来上がってしまうのです。この状態は「コンフォートゾーン」と呼ばれます。
省エネルギーと小リスクで対処できる状況をコンフォートゾーンと感じてしまった人は、わざわざ失敗するリスクを冒してチャレンジすることを望まなくなります。これが多くの「働かないおじさん」に見られる現象です。

人事や上司としては、本人が仕事に充実や集中を感じられるよう、少し背伸びした挑戦機会(「ストレッチゾーン」と言います)を本人と一緒に考えて提供することが有効で す。

経験豊富で頑張っているのに「働かないおじさん」と言われてしまう理由

「働かないおじさん」を「ローパフォーマー」と表現することがあります。
「ローパフォーマー」は、「期待された成果が発揮できない人材」を指します。しかし、実は「働かないおじさん」の能力や成果自体が若手社員と比べて低いわけではありません。業務能力や成果だけを単純比較すれば、ベテラン社員のほうが、入社数年の若手社員よりも高いことが多いです。

にもかかわらず、(業務能力も成果も低い状態の)新入社員はポテンシャル人材として期待され、(ある程度の能力と成果はあるはずの)ミドルシニア社員がローパフォーマーとして扱いに困ってしまうのは、両者に対する(会社や周囲の)「期待・役割」が違うからです。

日本では多くの企業が年功序列的な賃金制度や経験による能力向上を前提とした職能資格制度を採用しており、処遇(賃金や職位)は勤続年数とほぼ比例して上がっていくケースが多いでしょう。

しかも、一度上がった賃金が大幅に下げられることは、よほどのことがない限りありません。「就業規則には降給・降格の制度はあるが、実際に適用されることは、懲戒事由でもない限り滅多にない」という人事の本音を聴くことも多いです。

その結果、中高年層は若手に比べると、かなり高い賃金や職位をもらうことになります。そうなると当然、成果に対する期待値も高くなり、その期待に応えられなくなることで「働かないおじさん」のレッテルを貼られてしまうのです。

国税庁の「民間給与実態統計調査(令和元年分)」によると、 25~29歳の男性平均給与は403万円、 55~59歳の男性平均給与は686万円。つまり1.7倍の差があります。単純に言えば、ミドルシニアには20代社員の1.7倍の成果が期待されます。
ギャップが生じ始めた際に、早い段階で「本人がギャップに気付ける機会」、「本人と上司がギャップを埋めるために話し合う面談」、「ギャップを調整する仕組み(制度)」 を用意することが人事として必要になります。

「同じ業務を続けていると飽きてやる気が下がる」
「高くなる期待を上回る成果を発揮し続けないと、ローパフォーマー化する」
こうした問題を解決するために、シンプルですがパワフルなツールを紹介しましょう。
それが、「WILL・MUST・CAN」のフレームワークです。

詳しくは、次回で紹介します。

* * *

難波 猛(なんば・たけし)
人事コンサルタント。マンバワーグループ株式会社シニアコンサルタント。1974年生まれ。早稲田大学卒業、出版社、求人広告代理店を経て、2007年より現職。人事コンサルタント、研修講師として日系・外資系企業を問わず2000人以上のキャリア開発を支援。人員施作プロジェクトにおけるコンサルティング・管理者トレーニング・キャリア研修などを100社以上担当。官公庁事業におけるプロジェクト責任者も歴任。

             『「働かないおじさん問題」のトリセツ』難波 猛 著

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