妻に「無料ツアコンはしたくない」と怒られる

哲人さんは、友人に「今度の旅行計画に参加させてよ」とは言えないという。そこまで親しくないからだ。

「多分、固定した人間関係があるだろうし、マニアックな人の楽しみを邪魔することはできない。彼の女友達だっていきなり知らない人が来たら、嫌がると思うんです。そこで、学生時代から親しくしている友人や、同期を旅行に誘いましたが、子供の学費や親の介護などでそれどころじゃない」

妻を旅に誘うと、2つ返事で「いいよ」と言ってくれた。これまでの感謝の気持ちもあり、全額を哲人さんの貯金から出すことにした。その予算は2人で100万円、行き先は妻に任せたという。

「妻は“いっそのこと2週間くらい行こう”と、ヨーロッパを回る計画を入念に立てていました。ポルトガルからスペインに行き、フランスのワイナリーを巡り、ベルギーからオランダに抜けて帰国するルートです。妻は英語ができるので、ガイドやドライバーの手配など、楽しそうにしていました」

妻は「この街で4泊するから、行きたい店をピックアップして」などと、事前に予定を共有してくれたという。

「行きたい店も特になく、妻に任せることにしました。妻は“じゃあ、歴史や文化の予習をしておいてよ”と、その土地の見どころを教えてくれたのですが、何も知らないところで資料を読んでも頭に入らない。一応、ガイドブックや検索で前情報を仕入れたのですが、当日、その場に立つと圧倒されて忘れちゃう。ただ、妻が“すごい! 楽しい!”と喜んでいる姿が嬉しかった」

妻は好奇心と知的探究心が旺盛で、感情表現が豊かだという。

「旅の記憶は、妻の楽しそうな笑顔だけ。自宅に着いて、“楽しかった”と伝えると、妻が鬼の形相になっている。これはまずいと逃げようとすると首根っこを掴まれました」

妻は、「あなたが楽しいのは、私が楽しませてあげたから。あなたは受け身すぎる。結局、私は無料ツアコンで、引率しただけで終わってしまった。そんな旅はしたくない」と怒った。

「言われてみればごもっともだと。妻に友人のFacebookを見せて、“女友達を交えた楽しそうな旅行をするのが夢だ”と言うと、“その受け身な性格を改めて、旅慣れないとダメだ。まずは、私を楽しませる旅の計画を立てろ!”と言われたのです」

そう言われても、哲人さんにはピンとこない。東京で生まれ育ち、大学も勤務先も東京で、東京からほとんど出たこともなく、興味を覚えたこともない。

「旅行は人並みにしましたが、行き先はすべて家族や友人任せ。国内外の深掘りしたい旅先を、いろいろ考えたのですが出てこない。地図を見ていたら”返還の時に出張した香港はもう一度行ってみたい”と思ったのです。かつてジャッキー・チェン映画が好きだったこともあって、香港を極めようと。妻は香港に行ったことがないので、案内をすることを目標にしました。あと、渡航費も滞在費が割安ということもあります。これなら頻繁に行けるだろうと。そこから旅に慣れていくことを決めました」

【初回の旅は、ホテルからほとんど出ないで終わってしまう……その2に続きます】

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)、『沼にはまる人々』(ポプラ社)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などにも寄稿している。

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