2024年12月10日、文部科学省は「PIAAC」(国際成人力調査)の調査結果を発表。PIAACとは、成人(16〜65歳)が社会生活に求められる総合的な力を測るものだ。結果を見ると、日本は読解力、数学的思考力、問題解決能力の3分野でトップレベルの成績を出していた。
武志さん(64歳)は「60歳での定年は妥当。知力、体力そして判断力もあるうちに、別の組織で仕事をしたり、その後の人生を楽しむ仲間を探したほうがいい」という。現在は60歳から始めたサッカーチームの活動をしつつ、ベンチャー企業の顧問として月10万円の収入を得ている。
【これまでの経緯は前編で】
SNSや仕事で繋がった友達と距離を置かれた
武志さんは、40代から定年後の人生を見越して、友人作りや趣味の活動を積極的に行っていた。
「僕は建築が好きなので、“建築好き、集まれ”みたいなコミュニティを作り、100人くらいのメンバーと関東近郊の名建築を散歩する勉強会などを主催していたんです。そこで知り合った年下の友人たちを定年後の活動のアテにしていました」
メンバーは男性が多く、フリーランスや小規模事業主として活躍している人が目立っていたという。
「中でも親しくしていた3人の男性がおり、いずれも40代後半です。僕が60歳で定年し、“定年したから手伝えることはないか”というような話をしたら、困惑した表情を浮かべられて、距離を置かれました。それが予想外だったというか、もっといい反応があってもいいのにと思ったのです」
彼らには、大手企業の友人がいるという優位性や、もしかしたら、大手と仕事をするチャンスがあるかもしれないという淡い期待のようなものがあったのかもしれない。
「それもありますが、今思えば、彼らは腕一本で仕事をしている。大手で会社の看板と城壁に守られながら仕事をしている僕に“何ができるのか、図々しいことを言うな”という思いがあったかもしれない。あと、会社員は会社から離れると老いる傾向がある。会社という“母”のような存在とへその緒が繋がっていて、ぷちんと切れるとどうしていいかわからなくなる」
一時期、メンタルが揺らぎかけたときに、息子から「子育てを手伝ってほしい」と連絡が入る。息子は27歳で大学の同級生と結婚し、28歳で父になっていた。
「お嫁さんは、大手製薬会社の総合職として働いている。ギリギリまで働いて出産から2か月で復帰するというスーパーウーマンなんですが、当時はコロナ禍でリモートワークだった。保育園もロックダウンになり、子供の泣き声が集中を妨げると僕が駆り出されたんです。定年退職後、びっくりするほど時間がある。“誰かの役に立ちたい”といつも模索していたので、渡りに船でした」
2歳の孫を連れて公園に行くうちに、似たような境遇の“じいじ・ばあば”同士が話すようになったという。
「息子が住んでいるエリアは余裕がある人が多い。まあ、みなさん知力と体力があり、お金にも余裕がある。そんな人と毎日会っているうちに、なんとなく仲良くなっていく。半年も交流を続けていると、お互いの人となりがわかります。僕が今、入っている60歳以上ばかりのサッカーチームに誘われたり、狩猟をしている人に手伝いを頼まれたりして、世界が広がりました」
60代の男女のヒップホップダンスサークルや、英語や中国語を学んで旅をするサークルなど、いろんなものがあった。
「区民センターの講座から派生したものが多い印象でした。定年後にそういう世界に入るのもいいですよ。当然、色々嫌な思いもしました。中国語と中国情勢を勉強する趣旨のサークルに行ったら、いきなり大学名を聞かれたり、さりげなく席に座ったら“そこは〇〇さんの席だから”と言われたり。この歳になると、ちょっとでも違和感を覚えたら、さっさと退散することが自衛のコツ。色々試して、サッカーだけを続けているのは、中学のときにサッカー部で体が覚えていたことと、やはり、定年退職者同士でつるんでいるのが楽しかったから」
サッカー仲間の40代の息子がIT関連会社を経営していて、そのメインの商品が武志さんの現役時代の仕事と重なる部分が多かった。その話を振ると「手伝ってほしい」と言われ、開発部門とのミーティングに週1回参加したり、契約書のチェックをしたりするアドバイザーとして雇用される。それで月10万円ほどの報酬を得ているという。
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