文/印南敦史
「断捨離」もブームを越え、すっかり浸透した感がある。とはいえ、「断捨離をしてスッキリしたい」という気持ちはあるものの、つい足踏みしてしまうという方も多いはずだ。
「忙しくて時間がない」「やり方がわからない」「途中で投げ出してしまいそう」「どこから手をつけていいのかわからない」などなど、その理由もさまざまだろう。
しかし、そんな“一歩が踏み出せない”方々に対し、『1日5分からの断捨離~モノが減ると、時間が増える』(やましたひでこ 著、大和書房)の著者は次のように訴えている。
断捨離は「できる・できない」ではありません。
断捨離は「する・しない」が肝心なのです。
(本書「はじめにのはじめに」より引用)
「断捨離をするぞ」と決心した場合、それを大事と捉え、つい大量のモノや大きな空間に手をつけようとしてしまいがちだ。しかし、そんな必要はなく、目の前の1つ、たった5分でもいいというのである。
5分でできることなど、あまりなさそうだと感じるかもしれない。が、たとえば手洗いをしたとき、洗面台まわりをペーパーでサッと拭くことくらいなら難しいことではない。
その際、無造作に置かれている歯ブラシやコンタクトレンズのケースが邪魔だと感じたら、それらのモノをペーパーで拭きながら定位置に戻し、洗面台まわりを拭けば、そこで約5分。
そんな“ちょっとした5分”が、冬場の暖機運転のように、断捨離を徐々に加速させるというのだ。
たしかにそう考えれば、必ずしも大げさに捉える必要はなく、まず目の前にある“すべきこと”“できること”から初めていけばいいのだということがわかる。
そして、いざ断捨離にチャレンジしてみようというときには、著者のやり方を具体的に紹介した本書が参考になるかもしれない。
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ところで家全体もさることながら、なにかと散らかってしまいがちな書斎をなんとかしたいという方もいらっしゃることだろう。
そこで断捨離の最初のステップとして、第10章「1日5分から 書斎の断捨離」のなかから、2つの要点をピックアップしてみたい。
ペン立てに入れる3本を選ぶ
いまやパソコンやタブレットでものを書く時代だが、とはいえ手書きには捨てがたい魅力がある。そればかりか、モノとしてのペンそのものに対する憧れや愛着もあることだろう。
いずれにしても、書き心地のいいペンをなめらかに走らせれば、素晴らしいことばが降りてくるかのような気分にもなるものだ。高価なものではなかったとしても、捨てるとなると罪悪感を覚えてしまうのはそのせいかもしれない。
だが、そうなるとつい捨てることを保留し、放置してしまうことにもなってしまいがちだ。
ペン立てに、ペンがびくともしないほどぎっしり詰め込まれている光景をよく見かけます、それではなめらかな思考も得られそうにありませんよね。
ペン立てには、使うモノを最小限に。(本書200ページより引用)
著者の場合、保管しているのは黒い筆タッチサインペン1本、黒いボールペン1本、蛍光ペンのピンク1本の計3本のみだそう。ペン立ても、書斎机のオブジェになるようなお気に入りのマグカップを使っているという。
なるほどそれなら、変化が欲しくなったとしても別のマグカップに交換すればいいだけだ。
ちなみにペンと自分にも相性があるので、仕事や勉強がおもしろくなる1本を選ぶことがポイントだと著者。もちろん、同じペンを何本も立てておく必要はない。
そして作業が終わったら、「机の上に置かれているのはペン立てとパソコンのみ」という状態にしておけばいいわけである。
本棚一段分を断捨離する
本は「知識欲」の象徴であると同時に、「幸せ」の象徴でもあると著者は記しているが、これは多くの方にとっても共感できる考え方ではないだろうか?
だが「幸せ」に関する以下の主張は、なかなか気づきにくいものでもある。忘れてはいけない大切なポイントとして、意識しておくべきかもしれない。
買う行為が幸せで、持っている行為が幸せで、もちろん読めば幸せで。だから「幸せを感じない本なら捨てようね」ということです。(本書204ページより引用)
著者の場合、仕事の資料として、あるいは純粋な知識欲で、本を買うペースは週に2〜3冊だという。仕事柄、献本が送られてくることもあるため、必然的に本は増えていくのだそうだ。
献本はともかく、このくらいのペースで本が増えていくという方は、決して少なくないだろう。
だが忘れるべきではない重要なポイントは、必ずしも手にした本すべてが自分にとって必要であるとは限らないということ。しかもそれは、実際に購入して読んでみないとわからないことでもある。
著者にとってもそれは同じで、読み始めて早々にページを閉じてしまう本は現実的にあるようだ。とはいえ、ときには見切りをつけることも必要なのである。
本は合う・合わないがあり、気分とタイミングもあります。最後まで読み切らなくてもOK。そのことに罪悪感を覚える必要はありません。
手にした本で煌めく一行と出逢えたら、それだけで幸運なこと。なにも事細かく覚えるために読むわけではないのですからね。(本書204〜205ページより引用)
だとすれば、やはりどこかのタイミングで必要のない本を手放していかないと、断捨離とは縁がなくなってしまって当然。だからこそ、「幸せを感じる」かどうかは重要なポイントとなるのだ。
そして処分するにあたって重要なのは、「誰か読んでくれる人に託す」気持ちで手放すこと。
直接誰かにあげたり、古書店の引き取りサービスを利用したり、傷や汚れがある場合は資源回収に回すという手段もあるだろう。しかし手段はどうあれ、本に対する感謝の気持ちを忘れるべきではないということである。
読まれずにホコリをかぶってグダグダと本棚に入っていたら、本も幸せではないでしょう?(本書205ページより引用)
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たとえばこのように、本書で紹介されている「断捨離の手法」はとてもシンプルなもの。しかし、そのシンプルなことを実践するかしないかで大きな違いが出ることも事実ではないだろうか。
つまりはそこが、断捨離を成功させるか否かの分かれ道なのかもしれない。
文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。