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文/印南敦史

東日本大震災から早くも10年が経つ。

記憶は薄らいでいくものであり、そもそも人間は順応することが得意な生き物でもある。ましてや10年という歳月は、記憶を風化させるには充分な時間なのかもしれない。

しかし、現実はそれほど甘いものではない。

先ごろ大きな地震があったとき、「10年が経過したからといって気を抜くなよ」といわれているような気がしたという方は、決して少なくないのではないか?

そう、まだ終わっていないのだ。現実問題として復興が終了したわけではないし、そもそも震災の恐怖を体験した人たちの心のなかには、被災地にいなかった我々には想像もつかないような傷がいまも残っているはずだ。

「東日本大震災」と聞くと、私の頭には二つの記憶が浮かぶ。一つは自分自身の震災体験。もう一つは震災から1カ月後に訪ねた岩手県陸前高田市の光景とにおいだ。震災後の10年はとても長い年月だったが、震災直後の記憶はついこの間の出来事のように、強烈に胸に刻まれている。(本書「はじめに」より引用)

『お空から、ちゃんと見ててね。 作文集・東日本大震災遺児たちの10年』(あしなが育英会 編集、朝日新聞出版)は、こう始まる。書いているのは、「あしなが育英会」陸前高田レインボーハウス担当者。17歳のときに父親をなくし、あしなが奨学生として宮城県の大学へ進学した。東日本大震災当日は、ラーメン屋のアルバイトで食器の片づけをしていたという。

2011年5月からはボランティアとして震災・津波遺児を対象としたサポートプログラムに参加したのち、卒業後はあしなが育英会の職員となったそうだ。

ご存知の方も多いだろうが、あしなが育英会は、病気や災害、自死(自殺)などで親を亡くした子どもたちや、障がいなどで親が十分に働けない家庭の子どもたちを、奨学金、教育支援、心のケアで支える民間非営利団体である。

同団体が、「日本全国のあらゆる死因で親を亡くした遺児たちを、死別後できるだけ早くからサポートしたい」との思いから、遺児をサポートするために「レインボーハウス」という施設を運営していることは有名だ。

私も以前、阪神淡路大震災で親を亡くした子どもたちのために建てられた兵庫県の「神戸レインボーハウス」を見学して感銘を受けたことがある。いろいろ考えさせられることが多く、その記憶はいまだ鮮明だ。

そのため、東日本大震災後の東北にもレインボーハウスがつくられたと知ったときには、意義の大きさをすぐに予測できた。たとえば本書も、その“意義”のひとつと解釈すべきだろう。

本書には、2011年から東北にレインボーハウスができる14年までの約3年の期間に、あしながレインボーハウス(東京都日野市)で行われた「全国小中学生遺児のつどい」において、東日本大震災で遺児となった子どもたちが書いた作文が収録されている。(本書「はじめに 子どもたちの声を通じて」より引用)

すべてを紹介することはできないが、子どもたちの気持ちを少しでもくんでいただけたらとの思いから、いくつかを部分的に引用しようと思う(なお、本書内に記載されている名前は省かせていただく)。

最初はずっと父の死を受け入れることができませんでした。(中略)4月に父と無言の再会をした時、こんなふうにくさった人は父じゃないって思ったけど、親せきから「お父さんだよ」と言われ、涙が止まりませんでした。遺体の横にあったゴミ袋に父の服とケータイが入っているのを見て、やっと父なんだと思えました。(本書16ページより引用)

おかあさんがいたら、いろんなことができたね。
ケーキをつくったりできたよね。
ほいくえんからかえると、おかあさんがつくってたべさせてくれたね。
3月10日までは、いい日だったね。(本書18ページより引用)

2カ月後にお母さんの遺体が見つかりました。そのとき私は、うれしいのか、うれしくないのか分かりませんでした。(本書20ページより引用)

私は、3月11日の地震のときは学校にいました。(中略)
気がついたら私は泣いていました。そのとき地震がおさまったかと思ったら、またゆれだしました。先生の指示があったので、私は校庭にひなんしました。校庭に行くとき、かいだんにかざってあった花びんが割れていたので、かわいそうと思いました。(本書35ページより引用)

曽祖母以外の残り4人は未だ不明です。亡くなったという現実を知っていながらも、まだどこかで生きているのではないかという思いがまだあります。
たまに遺影に「今、どこにいるの?」と話しかけます。また皆と3月11日より前に戻って話したいというのが、今一番の願いです。(本書36〜37ページより引用)

* * *

どれだけの時間が過ぎようとも、私たちはあの日のことを忘れるべきではないし、また、忘れることなどできないだろう。“憶えている”ということ、それは未来のためにも、とても価値のあることだと感じる。

だからこそ、あの日への思いを強く心に刻んでおくためにも、本書で紹介されている子どもたちのメッセージを確認していただきたいと心から思う。

『お空から、ちゃんと見ててね。 作文集・東日本大震災遺児たちの10年』
あしなが育英会 編集
朝日新聞出版

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文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)などがある。新刊は『書評の仕事』 (ワニブックスPLUS新書)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。

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