取材・文・写真/鈴木拓也

1976年4月に放送が開始されたNHKの『日曜美術館』。

毎回、著名ゲストが登場し、古今東西の美術を紹介するという趣向で、多くのファンがいる長寿番組だ。

放送50周年を記念して「NHK日曜美術館50年展」が、東京、静岡に続いて大阪中之島美術館で開催されている。本展では、番組で取り上げた作品を含め140点を超える作品を展示。関連する番組内の高精細映像も上映している。開催間もない頃に訪れたので、ごく一部であるが展示作品を紹介し、その魅力をお伝えしたい。

展示会場のある大阪中之島美術館。
展示会場入口そばに設置された、過去の全番組の一覧パネル。

不世出の彫刻家の作品も

アルベルト・ジャコメッテイ(1901―1966)は、スイスで生まれ、ジュネーヴ工芸学校で彫刻を学んだ後、パリに移住。残る生涯のほとんどをそこで過ごしながら、創作に打ち込んだ――憑りつかれたかのように…。彼を長年にわたり悩ませた実存的体験は、10代の終わりにさかのぼる。画家であった父ジョヴァンニから、梨を「ある通りに、見える通りに描きなさい」と指示される。その求めに応じて描こうとすると、「避けがたく小さく」なってしまったという。

この心理的困難を抱えつつ、芸術の都でキュビスムやシュルレアリスムなどのムーブメント、そして前衛芸術家らとの交流による影響を受けながら、独自の作風を追究していく。1938年からしばらくは、わずか数cmの人物の立像を生み出し続け、転じて戦後は縦に細長い人物像を創るようになる。本展の《腕のない細い女》は、まさにその作風を代表するもので、高さは60cmに対して幅は10cmに満たない。

《腕のない細い女》
(1958年、彫刻の森美術館(公益財団法人彫刻の森芸術文化財団蔵))

ジャコメッテイの作品のモデルを務めた人は少数にとどまるが、哲学者・評論家の矢内原伊作(1918―1989)もその1人であった。彼は、パリ留学中にジャコメッテイと親しくなり、請われて「のべ230日以上」にわたりモデルとなった。そうしてできた油彩画は約20点、彫刻は2点。彫刻のうち1点《ヤナイハラI》も展示された。

夭折した画家の初期の代表作

石田徹也(1973―2005)は、高度経済成長に終止符が打たれたオイルショックの年に生まれた、団塊ジュニア世代の一人である。急速に近代化が進む地方都市で育ち、高校卒業を機に上京。武蔵野美術大学に入学し、デザインを学んだ。卒業した1996年は、バブル経済崩壊の影響が顕在化し、世相は憂色を帯び始めていたが、彼は芸術家としての道を選ぶ。この頃には既に、あまりに短い生涯の間に描き続けることになる、暗い表情の丸刈りの男とモノが合体した作風ができあがる。

本展で展示されている3枚の絵《飛べなくなった人》《社長の傘の下》《燃料補給のような食事》も、そのモチーフにもとづく最初期の代表作である。

《飛べなくなった人》(1996年、静岡県立美術館蔵)

《飛べなくなった人》では、スーツ姿の男が古びたプロペラ機の遊具と同体となり、両手を広げ飛び立とうとしている。しかし、機体は支柱で地上につなぎとめられ、1ミリも動けない。もっと自由に生きたいのにそれがかなわない、勤め人の悲哀をそこに見出す。今を生きる我々なら、“失われた30年”への予兆も、そこからくみ取るかもしれない。

震災が変えた芸術性

本展の展示作品は、5つの大きなテーマ、すなわち「語り継ぐ美」「日本美の再発見」「工芸」「災いと美」「作家の生き様と美」から構成される。戦争や災害を題材にした作品が集まる「災いと美」のエリアには、巨大な作品が飾られている。

その1作が、現代アーティスト・鴻池朋子(1960―)の《皮緞帳》である。なめした牛革を縫い合わせた幅24m、高さ6mもの支持体に、水性クレヨンと水彩で描かれているのは、多分に抽象化された生き物を含む森羅万象、そして天変地異である。

《皮緞帳》(2015年、高橋龍太郎コレクション蔵)

『日曜美術館』の2021年3月7日放送回では、「震災10年 アーティストたちの想像力」と題し、東日本大震災を受けて芸術の役割を問い直してきたアーティストらを取材。その1人が鴻池氏であった。本展の『公式図録』には、「東日本大震災の当時、それまで使ってきた画材に全て興味がなくなり、新たな素材を探してようやく出会ったのが牛革でした」と書かれているように、震災は鴻池氏のなにかを永久に変えたようだ。あなたは、この作品から何を感じ取るだろうか?

これまで多くの美術展を探訪したが、縄文時代の土器から21世紀の前衛作品までが居並ぶ光景は不思議な感覚がするとともに、知的好奇心をそそられるものがあった。美術に関心を持ち始めた方には良い入門となるだろうし、番組を観ている方には改めて実物を鑑賞する好機でもある。あるいは単に、何かしら美とのセレンディピティを求めてもいい。機会があれば、訪れる価値は大いにある。

【開催要項】
NHK日曜美術館50年展
会期:~12月20日(日)※途中で一部作品の展示替えがあり。
会場:大阪中之島美術館 5階展示室
住所:大阪府大阪市北区中之島4丁目3−1
電話:06-4301-7285(大阪市総合コールセンター)
公式サイト:https://nichibiten50.jp
開場時間:10:00~17:00(入場は16:30まで)
休館日:月曜日および11月24日(火)※ただし、11月23日(月・祝)は開館
料金:公式サイト参照
アクセス:公式サイト参照

【主要参考図書】
『NHK日曜美術館50年展 公式図録』(東京藝術大学、静岡県立美術館、大阪中之島美術館、NHK、NHKプロモーション編)
『ジャコメッテイ展 図録』(国立新美術館、豊田市美術館、TBSテレビ編)
『別冊太陽 石田徹也:聖者のような芸術家になりたい』(堀切正人監修/平凡社)
『美術手帖 2023年1月号 特集:鴻池朋子』(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)

取材・文・写真/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。

 

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