キリシタン大名として知られる高山右近像。(2011年撮影)

ライターI(以下I):『豊臣兄弟!』も第38回。これまでは、天下一統に向けてスケールの大きな流れになっていたのですが、前週の秀長(演・仲野太賀)の大和郡山城入りを受けて、今週は、秀長の「大和郡山領国経営」が描かれました。

編集者A(以下A):それはそれで、これまでの大河ドラマでは一度も触れられていない話題なので、斬新かつ新鮮な展開でした。とはいえ「あれ? スケールダウン?」と感じた視聴者もいるかと思います。そこで本稿では、『豊臣兄弟!』本編から離れて、この時期の日本を襲っていた「植民地化の危機」について言及したいと思います。

I:逆張りするということですね。

A:1992年の『信長 KING OF ZIPANGU』では、ナレーションをルイス・フロイス(声・ランシュー・クリストフ)が担当し、「アテブレーベ・オブリガード」という文句で物語が締めくくられたのをご記憶の方も多いのではないでしょうか。

I:劇中では、「また近いうちに。ありがとうございました」と訳されていましたね。

A:ルイス・フロイスは、ポルトガル出身のイエズス会司祭です。『フロイス 日本史』という著作でも知られています。そのルイス・フロイスが日本にやってきたのは永禄6年(1563)。場所は肥前国横瀬浦(長崎県西海市)です。月刊誌『サライ』で連載していた「半島をゆく」は、歴史作家安部龍太郎さんと戦国史が専門の三重大学藤田達生教授が、現代とは異なり、海運が物流の幹線で、現代では衰退している半島突端が物流の拠点として政治経済の中枢を担っていたという観点から日本史を見つめ直すという企画でしたが、長崎県の西彼杵(にしそのぎ)半島を取材した際に横瀬浦を訪ね、我が国最初のキリシタン大名大村純忠の足跡を辿りました。

I:横瀬浦公園には等身大のルイス・フロイス像があるのですよね。

A:はい。当地の領主だった大村純忠は熱心なキリシタンになりますが、あろうことか大村純忠は、イエズス会に長崎を寄進するのです。これが天正8年(1580)のことです。

I:寄進とは由々しき事態ですね。

黒田官兵衛もキリシタン

A:『豊臣兄弟!』の登場人物でいえば高山右近(演・市川知宏)が著名なキリシタン大名になります。信長(演・小栗旬)の時代には、安土城下には神学校セミナリヨが建てられました。これは、イエズス会司祭でイタリア出身のオルガンティーノの手によるものです。城下にセミナリヨの建設を許可している通り、信長はキリスト教に寛容でした。興味深いのは、「本能寺の変」で安土城が焼失した後に、セミナリヨは高山右近の領地高槻に移転していることです。秀吉配下では、蒲生氏郷や黒田官兵衛(演・倉悠貴)、小西行長らもキリシタンですが、いずれも高山右近の影響もあったといわれます。

I:当初は秀吉もキリスト教には寛容だったようですね。

A:前述の「半島をゆく」では大分県の国東半島をめぐりました。国東半島には富貴寺の阿弥陀堂(国宝)、両子寺、摩崖仏など見どころの多い史跡や建造物、歴史遺構が点在していますが、戦国時代にこの地を治めていたのは戦国大名の大友宗麟です。宗麟は「ドン・フランシスコ」という洗礼名を持つキリシタン大名でした。大友宗麟は、「西の高野山」と称された大伽藍「千燈寺」を焼き討ちしているのです。諸説ありますが、キリシタン大名による仏教寺院の弾圧ともいわれています。高山右近の領地だった高槻にも弾圧された仏教寺院があったとも伝えられています。

I:キリシタン大名の破壊力はすさまじいですね。

A:戦国時代には、宗教勢力との戦いが厄介な問題でした。徳川家康を苦しめた一向一揆との戦いは、2023年の『どうする家康』でも描かれましたが、家康家臣の中からも離反者が出るなど家康にとって茨の道でした。大河ドラマではストレートに描かれることがあまりありませんが、織田信長と石山本願寺との「十年戦争」も、宗教勢力との戦いは泥沼化しました。

I:『豊臣兄弟!』では今のところ、高山右近、黒田官兵衛とキリスト教との関係などは触れられていません。歴史の流れでは、天正15年(1587)に九州平定を成した後に、秀吉は「伴天連追放令」を発布します。秀吉は九州で何を見たのでしょうか。

A:前述したように大村純忠はイエズス会に長崎の地を寄進しています。どうもイエズス会は、長崎の地を要塞化しており、長崎を起点に日本の植民地化をも企図していたともいわれています。

秀吉は「植民地化」を防いだ英雄なのか?

I:前述の「半島をゆく」の取材後に、三重大学の藤田達生教授は、「秀吉は、島津氏を降した後に筑前筥崎宮(福岡市)に滞在して仕置(戦後処置)をおこなったが、その折に有名なバテレン追放令を発令した。教会領となっていた長崎の要塞化を知った秀吉が、キリスト教の浸透を危惧し、重用していたキリシタン大名高山右近に棄教を迫ったが拒絶されたのを受けて、ただちに断行したのである」「近年の研究によると、庇護を受けていた大村氏や有馬氏らキリシタン大名の軍事力に期待できないことを知ったイエズス会が、長崎の要塞化を通じて軍事的自立をめざしたことが指摘されている。情報通の秀吉が、このような不穏な動きを知らなかったはずはないだろう」とレポートしてくれています。(https://serai.jp/tour/359542)当時の日本は緊迫した情勢下にあったのですね。

A:『戦国日本と大航海時代 秀吉・家康・政宗の外交戦略』(平川新著/中公新書)には、「ザビエルが来日してから、わずか四十年にして、日本のキリシタン人口は約二十万人あるいは三十万人に達したといわれている。この勢いに気をよくしたイエズス会は、キリシタン大名を動員して日本をキリスト教国に改造することを構想していた。なかには、日本のキリシタン大名を動員して明国を征服するという意見もあった。これらのことは宣教師らの記録に明白に述べられている」という記述があります。同書は、当時の状況が簡潔かつ平易に書かれているので、小学校高学年の『豊臣兄弟!』ファンでも読み込むことができるかと思われます。コミカルに描かれる『豊臣兄弟!』ですが、その裏では、日本の危機があったことも知ってほしいと思います。

I:「明国征服」という語句もありますね。

A:そのあたりは「世界史の中の秀吉」の範疇になります。それについては稿を改めたいと思います。

●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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