信長(演・小栗旬)が光秀(演・要潤)を飛び蹴りでぶっ飛ばす。(C)NHK

ライターI(以下I):『豊臣兄弟!』第27回で、「本能寺の変」が描かれました。この記事は後編になります。(前編はこちら→https://serai.jp/hobby/1275103

編集者A(以下A):「本能寺の変」への軌跡では、定番となっている信長による光秀暴行案件も展開されました。過去作でもっとも執拗だったのが2023年の『どうする家康』の岡田准一さん演じる信長が、酒向芳さん演じる光秀に対して行なった7連発の殴打です。この時もすごいなと思いましたが、『豊臣兄弟!』ではさらに強烈でした。その執拗さでは『どうする家康』を上回って、大河ドラマ史上もっとも苛烈な信長による光秀への暴行となりました。

I:鯉の煮付けに毒が盛られていたことが判明して、光秀は問い詰められます。心当たりがあるにもかかわらず口を割りません。「口を割らない光秀」というのは、2020年の『麒麟がくる』で正親町(おおぎまち)天皇(演・坂東玉三郎)との密談内容を信長(演・染谷将太)に一切報告しなかった際に暴行を受けた事例がありますが、今回は信澄(演・緒形敦)を庇うつもりだったのでしょうか。

A:信長はまず右、左と光秀に張り手を見舞います。さらに蹴りを5発、パンチを3発。それだけで終わらずに、光秀を投げ飛ばし、さらにパンチで2発ぶん殴ります。そして最後にキックで光秀は庭先奥まで吹き飛ばされます。最後の一撃は、まるで漫画のような、いや絶対に漫画のシーンを意識したかのような描写になりました。

I:まさしく、大河ドラマの「光秀に対する信長の暴力史」でもっとも凄惨な場面になりました。ここまでやられたら「殺してやる」ってなりますよね。

A:この「家康接待」の場面も注目です。饗応する立場の信長サイドは、信長と接待役の光秀のみ。接待を受ける側も家康(演・松下洸平)とその側近石川数正(演・迫田孝也)のみでした。信長の暴行はパンチ・蹴りともにその数量は過去最高でしたが、接待の場の人数は過去最小ということになりました。

I:こうした中で、光秀のもとにもたらされたのが、足利義昭(演・尾上右近)の「もうわしを巻き込むな」です。

A:この返答を聞いた際の光秀の表情。これが凄いというか、息をのむ場面になりました。沈黙からの光秀の挙動が涙を誘います。光秀の心の変化が見て取れる場面ではありますが、やっぱり義昭が、そんなことをいうわけない、斎藤利三(演・内藤剛志)、嘘をついていない? と思わされる場面にもなりました。ここで光秀は、信澄が書いた「偽の義昭御内書」を手に「これは上意である。敵は本能寺にあり!」と声高に叫ぶのです。

本能寺「3点セット」と小栗信長

本能寺で戦う信長。(C)NHK

I:そして「本能寺の変」です。当欄では、「本能寺の変と大河ドラマ」と称して、本能寺の変を扱った大河ドラマ全17作を振り返る記事を展開してきました。そこで判明したのが「本能寺3点セット」。光秀の「敵は本能寺にあり!」という号令と、光秀謀反を知った信長が発した「是非に及ばず(是非もなし)」という台詞、そして信長が好んだという「人間五十年。下天のうちをくらぶれば~」という幸若舞「敦盛」です。

A:その「3点セット」に加えて、森蘭丸(森乱/演・市川團子)らの小姓に対して信長が「首を渡すな」と厳命する場面ですね。これが大河ドラマの本能寺の「定番場面」という形になります。そのほか、信長正室濃姫が本能寺でともに戦ってきた作品が5作ありますが、『豊臣兄弟!』では濃姫(帰蝶)がキャスティングされていませんので、「濃姫と本能寺」は割愛します。

I:『豊臣兄弟!』の「本能寺の変」は、「これは上意である。敵は本能寺にあり!」という「3点セット」に含まれる台詞から、本能寺でひとり就寝する信長のもとに小姓森乱が光秀謀叛を報せる場面に転じて始まります。

A:信長はまず、鉄炮を手にとります。「本能寺の変」で信長が鉄炮を撃つのは『利家とまつ~加賀百万石物語』の反町隆史さん、『功名が辻』の舘ひろしさんに続いて3人目になります。

I:戦いの最中に、浅井長政(演・中島歩)が現れました。このシリアスな場面に「相撲の決着を」と言葉を発していましたが、ここは「笑う」場面ですか? それとも真剣に相撲を取りたかったのでしょうか。もしかしたら、ここで相撲を取る設定だったというのはないですよね? ちょっと脳内が混乱した場面でした。

A:信長にとって思い出深い出来事が「幻影」になったので、まあ、あの義兄弟として相撲を取った思い出が、それだけ信長の中で意味のあるものだった、と私は解釈しましたよ。信勝(演・中沢元紀)・信澄父子や、おそらくこれまで信長軍の手によって命を落としたと思われる女性や子どもたちの「幻影」も現れました。大河ドラマの「本能寺の変史上」もっとも多くの「亡霊」「幻影」が登場した作品になりました。

「信長兄弟!」も気になる

信長の前に現れた弟信勝(演・中沢元紀)の幻影。(C)NHK

I:「本能寺の変」の「信長の最期の場面」で他の人物が差し込まれるのは、『利家とまつ~加賀百万石物語』を嚆矢とします。もっともこのときは、信長が魚津で戦っている前田利家(演・唐沢寿明)を思い起こし、「であえ、又左衛門!」「さらばじゃ!」と言葉を投げかけたに過ぎません。本格的に「挿入」されるのは、2009年の『天地人』。切腹をするために本能寺奥殿に移動した信長(演・吉川晃司)の目の前に、上杉謙信(演・阿部寛)の「亡霊」が現れるのです。問答を重ねて、天下人にとって何が必要か、何が足りなかったのかを信長が悟り、切腹に至るという流れでした。この系譜が2011年の『江 姫たちの戦国』で、信長最期の場面にまだ10歳にも満たない江(ごう/演・上野樹里)の「幻影」が登場するという場面につながるんですよね。

A:そうしたことを考えると、『豊臣兄弟!』の「信長最期」の場面に浅井長政や織田信勝、信澄など複数人物が「幻影」という形で登場するのも「王道」といえば王道。でもちょっと多過ぎのような気もしました。

I:まあ、でも信長の兄弟思いの強さは伝わって来ましたよね。

A:信長の兄弟姉妹は信勝、お市だけではないので、どうせなら、朝倉・浅井との攻防の中で討ち死にした弟信治、長島一向一揆との戦いで討ち死にした信広、信興、秀成らの兄弟のことも登場させてほしかったです。『鎌倉殿の13人』では、頼朝(演・大泉洋)、範頼(演・迫田孝也)、義円(演・成河)、全成(演・新納慎也)、義経(演・菅田将暉)の五兄弟が一堂に会する場面が設定されて、源氏ファンの袖を濡らしました。信長、信広(庶兄)、信治、信興、秀成、お市、お犬の織田兄弟姉妹が一堂に会する場面を設けて欲しかったですね。

I:あ、『江 姫たちの戦国』でキャスティングされた信包(演・小林隆)も忘れないでください……。でも、そんなことをしたらもはや『豊臣兄弟!』ではなく『信長兄弟!』になってしまいますよ。

A:『信長兄弟!』。いいじゃないですか。忘れてはいけないのが、斎藤利治。斎藤道三の末子にして、信長正室濃姫の弟、つまり信長にとっては義弟。道三の死後、信長のもとに身を寄せて数々の合戦に出陣。本能寺の時には、信忠側近として妙覚寺にあり、信忠に殉じます。本来、大河ドラマにも登場してきておかしくない人物なんですけどね。

小栗ロスと一抹の不安

森乱(右/演・市川團子)に「わしの首を敵に渡すな」と告げる信長。(C)NHK

I:さて、本能寺で戦う「小栗信長」です。殺陣も決まっていますし、表情、台詞回しもグッと心に響いてきます。「わしの首、決して敵の手にわたすでないぞ」と森乱に告げる場面は、語り継がれる場面になるかと思います。

A:10年後、20年後に振り返ったときに、「市川團子さんが森乱を演じていたんだ」といわれるような役者になってほしいですよね。30年前の『秀吉』で石田佐吉を演じた小栗旬さんのように。さて、さきほど触れた「本能寺3点セット」のうち、「是非もなし」は最期の最期に信長から発せられました。その前に森乱に対して「首はわたすな」の台詞もありました。斬新な展開のなかでも大河ドラマの「古典本能寺」の伝統も踏襲されていて、そのバランスが絶妙で感慨深いですね。

I:この「小栗信長」と次週から会えなくなるというのは、私たち視聴者が「小栗ロス」という「病」に襲われるという問題が生じます。加えて、これまでどんなに「羽柴兄弟」がコミックモードに入っても、信長だけはその形を崩さずに「受け」ていただけに、これから「羽柴兄弟」はどうなっていくのだろう、という一抹の不安がよぎります。要潤さん演じる光秀も退場することになりますし……。

A:なるほど。不安になるのはわかりますが、それは、「心配ご無用!」ってことだと思いますよ。

I:それ、30年前の『秀吉』のフレーズ!

自刃する小栗信長。(C)NHK

●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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