織田信長のホワイト化現象はあるのか?
A:ところで、「戦国描写のホワイト化現象」を考えるうえで、今後指標となっていくのが織田信長の描写ではないでしょうか。例えば、ほぼ半世紀前の1973年『国盗り物語』では高橋英樹さんが信長を演じましたが、武田家を滅亡させた直後の諏訪・法華寺の場面で、近藤正臣さん演じる明智光秀に対して、欄干に頭を打ち付ける場面が描かれました。
I:私は総集編しか見たことがありませんが、比叡山延暦寺焼き討ちに対して意見具申する光秀の頭を地面に叩きつける場面もありました。
A:諏訪の法華寺欄干に光秀を打ち付けるという場面は、大河ドラマ50作目という記念作2011年の『江 姫たちの戦国』でも描かれました。この時は、豊川悦司さん演じる信長が、市村正親さん演じる光秀を激しく欄干に打ち付け、光秀の「お許しくださいませ、お許しくださいませ」という悲痛な声が響きました。大物俳優の市村正親さんが欄干に打ち付けられる姿に震撼させられたのを覚えています。信長が光秀や秀吉を足蹴にしたりする場面は多くの大河ドラマ作品で描かれていて、『豊臣兄弟!』でも描かれています。
I:半世紀前の『国盗り物語』の時代でもひどい暴力だったと思うのですが、「現代のハラスメント意識向上」の観点でいえば、「信長の暴力」が視聴者にどのように受容されているのか、ちょっと気になっています。
A:なるほど。2023年の『どうする家康』では、家康(演・松本潤)正室の瀬名(演・有村架純)による合戦のない「慈愛の国」をつくりたいという「戦国ユートピア構想」が物議を醸しました。当欄では、「そこまで思いっきり振り切られると逆におもしろい」と言及しましたが、そうしたエピソードも「戦国描写のホワイト化現象」といってもいいのかもしれませんね。
I:そういう文脈でいうと今後、「ホワイト信長」が登場しないとも限りません。家臣に決して手を出さない優しい信長……。でも、「ホワイト信長」って、それは信長とはいえない別人のキャラクターですよね。
A:黎明期から大河ドラマの演出などにかかわった大原誠さんの著書に『NHK大河ドラマの歳月』(日本放送出版協会刊、1985年)があります。その中で気になるのが、幾度も「大河ドラマの使命は終わった」と大河ドラマの終焉議論があったことが記述されていることです。今後、「ホワイト信長」が出てくるとも思えませんが、もしそうしたことが検討されることになったら、その時こそ「大河ドラマの使命は終わった」ということになるのかもしれませんね。
※宮崎あおいの「崎」は正しくは「たつさき」
●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり











