「桶狭間」と大河ドラマの主人公

I:これまでの大河ドラマでは、「桶狭間の戦い」の際に主人公が目立つことがありました。『利家とまつ』では、桶狭間の「一番槍」的な役割を前田利家(演・唐沢寿明)が担い、合戦後に、大将首を差し出して、信長(演・反町隆史)に目通りする場面が印象に残っています。
A:前田利家が桶狭間に参戦して、首を獲ったのは史実です。当時、出仕停止中の身で、帰参を望んで、手柄を狙ったのですが、信長の「狙うは義元の首だけ」という方針のもとではほかの大将首はどうでもいいという感じでした。
I:『豊臣兄弟!』の小一郎らが持って行った「首」の扱いに似ていますね。
A:山内一豊の正室千代(演・仲間由紀恵)が主人公だった『功名が辻』では、第1回が桶狭間の戦いでしたが、義元(演・江守徹)が討たれた後に、山内一豊(演・上川隆也)が信長(演・舘ひろし)の前に出でて、「最初は父の仇である信長を殺そうと思っていた」とやり取りする場面が描かれました。『麒麟がくる』でも、桶狭間の戦いに勝利した信長(演・染谷将太)を明智光秀(演・長谷川博己)が凱旋途上で待ち受けるというシーンがありました。
A:「桶狭間」の際に、信長とのやり取りを通じて主人公がフューチャーされるのは「お約束」ということですね。そういう理解でいうと、『豊臣兄弟!』で、小一郎が信長の面前に伺候してやり取りを交わすというのは自然な流れというか、大河の王道ということになりますね。
I:はい。そして、前述のように、「狙うは義元の首だけ」という方針のもとでは、ほかの首はどうでもいい、というのも王道ですね。
A:ちなみにその場にいた茶坊主の林阿弥(演・加治屋章介)は、いまもある長福寺(愛知県名古屋市緑区桶狭間)ゆかりの人物のようです。今回の放送で、桶狭間古戦場にまた行ってみたくなりましたので、詳細は改めてにしたいと思います。
気になる新たな家康像

I:さて、今週も金溜塗の「金陀美具足」をまとった松平元康(演・松下洸平)が登場しました。
A:「金陀美具足」は、2023年の『どうする家康』で松本潤さんが着用していたことを前週に言及しましたが、大河ドラマの初出は、『おんな城主 直虎』(2017年)の家康(演・阿部サダヲ)になります。2017年、2023年、2026年の登場ですから、すっかり定着したのではないでしょうか。
I:大河ドラマの「金陀美具足」の系譜が阿部サダヲさん、松本潤さん、松下洸平さんとなるのですね。家康が、藤吉郎と小一郎、そしてあさひ(演・倉沢杏菜)とどういう絡み方をしてくるのか気になりますね。新たな「家康像」が提示されるのかどうか、なんか楽しみだなと思いながら、松平元康を眺めていました。さて、藤吉郎と小一郎兄弟の仲のよいやり取りを見たからなのか、信長が弟信勝(演・中沢元紀)を殺害したことがフラッシュバックで映し出されました。
A:この時代、親、兄弟と反目し合うのは珍しくありません。『完本 信長全史』(小学館)の受け売りですが、武田信玄は父の信虎を駿河に追放し、桶狭間の合戦の後には、今川義元の娘を娶っていた嫡男義信の反対を押し切って駿河を攻めて、最終的に義信を自害に追い込みます。今川義元も家督を継承する際には、庶兄の玄広恵探(げんこうえたん)を擁する家臣らとの合戦を経ていました。また、後年、奥州の伊達家でも伊達政宗が弟の小次郎を殺害するという事件がありました。
I:身分が異なるとはいえ、兄弟仲の良い、藤吉郎、小一郎の姿をみて信長も感じることがあったのでしょう。
A:その信長が藤吉郎に対して、「秀吉」の名を与え、小一郎を側近にしようとします。
I:私は、この場面を見て、今まで一度も考えたことすらなかったのですが、「秀吉」という名はいったいどんな由来なのだろうって思っちゃいました。
A:なるほど。確かにいままで考えたことなかったですね。
I:信長の父信秀の「秀」が由来なんですかね? いや、そんなことないか。でも丹羽長秀とか林秀貞とか織田家中は「秀」のつく人が多いですよね。
A:そんなこといったら、秀吉の「吉」の字は、信長の幼名「吉法師」の「吉」ってことになりませんか?
I:ああ、なるほど。『豊臣兄弟!』の話題は尽きませんね。いろんなところで、あーでもない、こーでもないって、議論の花が咲いたら楽しいですね。

●編集者A:書籍編集者。かつて編集した『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり











