文/鈴木拓也
脳内の「ゴミ(老廃物)」がアルツハイマー型認知症の原因
いまや日本の認知症患者数は、約700万人。社会の高齢化に伴い、この数は増えていくと予想されている。
ひと口に認知症といっても何種類かあり、最も代表的なのがアルツハイマー型認知症である。
これに対応した薬も出ているが、効果は進行を抑えるにとどまり、根本的に治せるものはまだないのが実情。
ただ、病因は解明が進んでおり、年齢とともに脳内にたまっていくアミロイドβといった「ゴミ(老廃物)」が、脳の神経細胞の機能を損なって発病すると考えられている。
このゴミは一方的にたまるものではなく、随時排出する仕組み(グリンパティックシステム)が備わっているが、年をとるとその能力も落ちていく。こうして、「ゴミ」はどんどん蓄積されていく。
しかし、このグリンパティックシステムの機能を、良好に維持する秘訣があるという。
そう説くのは、ブレインケアクリニックの今野裕之名誉院長だ。今野名誉院長は、著書『ボケたくなければ「寝る前3時間は食べない」から始めよう』(世界文化社 https://www.sekaibunka.com/book/exec/cs/24402.html)のなかで、そうした秘訣の数々を解説している。
睡眠の質を改善して脳内の「ゴミ」を排出
その秘訣の1つが、書名の一部にもなっている「寝る前3時間は食べない」というもの。
例えば毎晩午後11時に寝ているのなら、午後8時以降は食べない。非常にシンプルなものだが、医学的に確固とした意味がある。
それは、睡眠の質の改善。
夜遅くまで仕事をするなど忙しくて、夕食を抜いたとき、朝は割とスッキリ目覚めた経験は、誰しもあるだろう。
これは感覚的なものではなくて、実際に質の高い睡眠をとれたことによる。眠ったときに胃が空に近い状態だと、深く眠れるよう人体はできている。
そして、グリンパティックシステムは、しっかり眠っているときに活発に活動することがわかっている。
つまり、夕食をとってから3時間ほど待って就寝することが、認知症の予防になるわけだ。
長時間の絶食の多大な効用
同時にこの生活習慣が、「間欠的ファスティング」にもなる点を、今野名誉院長は指摘している。
間欠的ファスティングとは、1日のうちで何も食べない時間を12~16時間もつこと。寝る前の3時間、7~8時間の睡眠、起床後しばらく時間を空けての朝食で、比較的無理なく行える。
長時間の絶食をすると人体は、細胞中の老廃物などを分解するオートファジーという機能を働かせ、サーチュイン(長寿遺伝子)を活性化させるが、これは認知症の予防にも有効だという。
さらには、がんの増殖を抑える、ストレス耐性の強化など、食べない時間がもたらすメリットは、はかり知れない。認知症対策を含む、最強のアンチエイジングメソッドと言えるかもしれない。
糖分・お酒を控えてストレス軽減で空腹を抑える
ところで、「寝る前3時間は食べない」と言われても、実行が難しいと感じる人は少なくないだろう。
これまでの習慣から、就寝前に「ちょっと食べたい」という気持ちに抗うのは、けっしてラクではない。
夜遅くに空腹感を覚えてしまう理由として、今野名誉院長は、糖分の摂りすぎ、飲酒、ストレスを挙げる。
糖分の多い食べ物を一度にたくさん摂ると、急激に血糖値が上がるが、このとき糖を細胞に取り込ませるべくインスリンが分泌される。しかし、これが続くとインスリンの働きが悪くなるインスリン抵抗性が生じる。こうなると、細胞は糖を取り込んでエネルギーを作れなくなり、食べているのに空腹感につきまとわれることになる。
また、アルコール飲料には、食欲を亢進させる作用がある。
ストレスは、コルチゾールというホルモンを分泌させるが、これも食欲を増す働きがある。
これらの要因によって、寝る前についつい何かをつまんでしまうことになる。
対策としては、晩酌や炭水化物は控えめにし、食事は、まずおかずからよく噛んで食べ始め、お米や麺類など主食は最後にする。ストレッチやヨガなどの軽い運動によってストレスの軽減をはかるといった工夫が、本書で指南されている。
もう一つすすめられているのが、2~3時間ごとに食事をする1日5食の生活。3食のときと比べ、1食あたりの分量を少なめにしつつ、「ちょこちょこ」食べることで血糖値の乱高下を防止でき、十分なエネルギーを摂取でき、空腹も抑えられるそうだ。ただし、くれぐれも食事の総量は増やさないように。
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ここでは割愛したが、本書には、脳の「ゴミ出し」に効く食材・レシピ、お酒やサプリとの付き合い方、有酸素運動のコツなど、認知症予防の様々な対策が記されている。中高年になって、今までのライフスタイルが気になっている方は、読んで実践してみてはいかがだろうか。
【今日の健康に良い1冊】
『ボケたくなければ「寝る前3時間は食べない」から始めよう』
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。