空前の猫ブームといわれる昨今。でも、猫の生活や行動パターンについては、意外と知られていないことが多いようです。人間や犬の行動に当てはめて考えて、まったく違う解釈をしてしまっていることも少なくありません。昔から猫を飼っているから猫の性格や習性を熟知していると思っていても、じつは勘違いしていたということが結構あるようです。

そこで、動物行動学の専門医・入交眞巳先生(日本獣医師生命科学大学)にお話を伺いながら、猫との暮らしで目の当たりにする行動や習性について、専門的な研究に基づいた猫の真相に迫っていきます。

入念にお顔のケアをするわさびちゃんちの一味ちゃん。

入念にお顔のケアをするわさびちゃんちの一味ちゃん。

猫のブラシは舌にある

猫が入念に手で「顔を洗う」のを見たことがある人は多いかと思います。手を舌でぺろぺろと舐めて唾液をつけ、その唾液のついた手で顔の周りをくるくるとかくようにこすり回します。

満足げな顔をして、じっくり、丁寧に顔を洗っている様子は微笑ましいですが、実は猫が顔を洗う行動は、生態学的には「決まりきった行動」とされていて、どの猫も決まった方法と順番で顔洗いをしているのです。

複数の猫を飼っている方は、ぜひ観察してみて下さい。シンクロするようにお手てを舐め舐め、顔や耳周りをごしごし、といった具合に、どの猫も同じステップで顔を洗っているのがよくわかるのではないでしょうか。

日本では「顔を洗う」と表現しますが、これはグルーミングの一種。毛並みの手入れです。猫に舐められると、少し痛いくらいに舌がざらっとしていますが、それは舌に小さな突起がブラシのようにびっしりと生えているから。この舌のブラシで、猫は自分の体をブラッシングしたり、汚れを舐めとったりしているのです。

入念に顔を洗った後は、体全体も舐め回します。体の場合はわざわざ手に唾液をつけなくても、直接舐めることができますからね。

自分で自分のグルーミングをすることは「セルフグルーミング」、仲のいい猫同士で舐め合って唾液でお互いの毛並みをお手入れしてあげることを「アログルーミング」といいます。セルフでもアロでも、猫のグルーミングの一番の目的は、唾液で毛並みの手入れをすることです。

あわび「肉球うめー」

あわび「肉球うめー」

農場で飼われている猫の1日の行動を調査したところ、睡眠40%、休息22%、グルーミング15%、狩り14%狩り、移動3%、食事2%、その他4%という結果になったという論文があります。狩りや食事よりもたくさんの時間にグルーミングを割いていることがわかります。いかに、猫にとってグルーミングが大切かわかります。

猫がグルーミングをするシチュエーションは、食後であったり、くつろいでいる時であったりします。特に、おいしいものを食べて大満足という時は、グルーミングも丹念です。顔の周りや髭についてしまった食べ物をぬぐい取ったりするのも、いつになく丁寧にしているようです。

保護子猫にはお母さん猫の優しいグルーミングを

猫のグルーミングには、マッサージ効果もあります。例えば、生まれたばかりの子猫を母猫が一生懸命舐めていますね。我が子が愛しいから、というのもあるかもしれませんが、毛並みを整えたり汚れを取り除いたりするのと同時に、血流をよくする手だてでもあるのです。

もし、お母さん猫のいない小さな猫を保護するようなことがあったら、体全体を優しく撫でてあげて下さい。そうすることで子猫はお母さん猫にケアしてもらっているような心地よさを感じると同時に、血流がよくなって成長促進になります。

猫は寒いのが苦手な動物ですが、特に子猫は体が冷えやすく、体温低下は命取りになります。血流をよくしてあげることで、より元気になるのです。

あわび天気予報士によると、明日は曇りらしいです。

あわび天気予報士によると、明日は曇りらしいです。

ちなみに、猫の顔洗いで、「手が耳を越したら雨」とか、「耳の手前で止まれば晴れ」とか、聞いたことがありませんか? いわゆる「猫の天気予報」ですが、当たるのでしょうか?

湿度が関係あるんだとか、いろいろまことしやかにいわれていますが、猫の天気予報が取りざたされるのは、世界広しといえども、日本だけです。たくさん、たくさん、すごーくたくさんの猫たちの天気予報行動の観察記録をつけてみたら、おもしろいかもしれませんね。

入交眞巳さん

指導/入交眞巳(いりまじり・まみ)
日本獣医畜産大学(現・日本獣医生命科学大学)卒業後、米国に学び、ジョージア大学付属獣医教育病院獣医行動科レジデント課程を修了。日本ではただひとり、アメリカ獣医行動学専門医の資格を持つ。北里大学獣医学部講師を経て、現在は日本獣医生命科学大学獣医学部で講師を勤める傍ら、同動物医療センターの行動診療科で診察をしている。

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累計21万部を突破した「わさびちゃんシリーズ」の 第1弾『ありがとう! わさびちゃん』(小学館刊)。

■わさびちゃんファミリー(わさびちゃんち)
カラスに襲われて瀕死の子猫「わさびちゃん」を救助した北海道在住の若い夫妻。ふたりの献身的な介護と深い愛情で次第に元気になっていったわさびちゃんの姿は、ネット界で話題に。その後、突然その短い生涯を終えた子猫わさびちゃんの感動の実話をつづった『ありがとう!わさびちゃん』(小学館刊)と、わさびちゃん亡き後、夫妻が保護した子猫の「一味ちゃん」の物語『わさびちゃんちの一味ちゃん』(小学館刊)は、日本中の愛猫家の心を震わせ、これまでにも多くの不幸な猫の保護活動に大きく貢献している。

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