文・写真/石橋貴子(スコットランド在住ライター/海外書き人クラブ)

NC500の到達点、イギリス本島の最北端ジョン・オ・グローツ

“スコットランドが、米国のルート66に出した答え”。そう呼ばれるルートがある。
それは、スコットランド・ハイランド北部の海岸近くを約500マイル駆け抜ける “ノースコースト500”(North Coast 500)。頭文字を取り“NC500”という愛称で親しまれ、2015年3月に公開されて以来、スコットランドのみならず、イギリス、いや欧州においても急速に人気が高まっているルートだ。

長さでは、3つのタイムゾーンをまたぐルート66(全長2,448マイル)に及ばないが、人々の冒険心を煽り、惹きつける魅力においては決して引けを取らない。日本では、まだまだ知られていない“NC500”を5つの魅力とともに早速ご紹介しよう。

NC500グッズを販売するショップの看板。

スコットランド“NC500”を訪れるべき5つの魅力

魅力1.飽きることのない風景

NC500は、約30億年前と世界的にも古い地層を持つスコットランド・ハイランド北部にある。複雑な地層を持つこのエリアは、山、湖、川、湿原、沼、海岸といった多様な景色を織りなし、訪れる人々を飽きさせることはない。山は、赤紫や白、黄色の植物、野生動物と共に美しい景色を見せてくれ、大西洋や北海に流れ込む川は、秋となれば鮭と鱒の豊かな漁場になる。泥炭が集積する湿原や沼は、珍しい野生生物が多く見られる。思わず車を停めて、カメラを向けたくなる風景がたくさんある。

折り重なる山々と遠くにのぞむ湖が美しいBealach na Ba

湖と16世紀に建てられた城の遺跡を同時に望む Ardvreck Castle

秋には鮭の豊かな漁場となるRogie Falls

赤紫に彩るヘザーの花と広い大地Strath Conon

散策やヨットを楽しむ人々で賑わうDunnet Bay

NC500の旅の起点となる街Invernessの河川風景

魅力2.フレッシュなローカルフード

イギリス飯は不味いなんて噂もあるが(スコットランドはイギリス連邦国の一部)、この偏見はNC500を訪れることで簡単にくつがえされるだろう。NC500は、ホタテや牡蠣、ムール貝、手長海老など新鮮で良質なシーフードを提供してくれる北海や大西洋が近く、また秋になると鮭や鱒の豊かな漁場になる川や、鹿肉の狩猟場とある山がある。スコットランド名物に、羊の内臓(心臓、肝臓、肺)をオート麦やスパイスと共に胃袋に詰めて調理される「ハギス」があるが、NC500エリアでは新鮮な内臓を材料とすることが多く、臭みはほとんどない。内臓料理が苦手な人にも是非試してほしい一品だ。

スコットランド産のスモークサーモン等、豪華魚介の盛り合わせ。

スコットランド産のムール貝に、英国お得意のチップスを添えて。

スコットランド名物ハギスを、おつまみとして食べやすいサイズで提供。

魅力3.最高のお酒

「あなたがウィスキー好きでないのなら、それはあなたにとって最高の味を見つけていないからだ」そう言われるほど、スコットランドのウィスキーは奥が深い。

NC500エリアには、まるでハイランドの複雑な地層のように豊かなキャラクターの蒸溜所が揃っている。味の傾向は、ナッツ、はちみつ、ハイランドに咲くヘザー、スパイス、スモーク、シェリーなど、一言で説明するのが難しい。
代表的なブランドでいうと華やかで繊細な味わい、世界的に有名なグレンモーレンジー、ボトルの山猫マークで人気のクライヌリッシュ、熟成年数ではなく作られたヴィンテージを名前にしているバルブレア等々、ウィスキーラバーにとって忘れられない個性豊かなウィスキー蒸溜所がいくつもある。

スコッチウィスキーとおつまみのオリーブをパブで。

もしあなたが日本で今、流行の兆しをみせるクラフト・ジンに興味があるなら、イギリス本島最北のジン蒸溜所・ダンネットベイ蒸溜所に行ってみよう。華やかなクラフト・ジンの香りと、クラフトマンシップ(職人魂)たっぷりの味わいを堪能できるだろう。

クラフト・ジンの蒸溜所ツアーで、華やかな香りと味わいをテイスティング。

オレンジピールとローズマリーを添えたジン・トニックを蒸溜所で。

もちろん本場パブで、口当たりなめらかなスコットランドの地ビールを楽しむのもよし。

エールビール、ウィスキー、クラフト・ジンと地の酒が多数並ぶパブ。

ただし酒王国スコットランドにおいても、飲酒運転には厳しい罰が待っていることをお忘れなく。蒸溜所近くの宿を確保するか、同行者と譲り合って交代ドライバーになるか、蒸溜所で持ち帰り用のお酒をお願いするか、酒を嗜む大人として正しい選択を心がけよう。

魅力4.野生動物に出逢える驚き

豊かな自然は、人間のみならず、動物にとっても魅力的だ。NC500はハイランド牛、ハイランド羊、イルカ、アザラシ、鹿、ツノメドリ、ウミスズメ、ウミガラスなどの生息地として知られ、動物を見ることを目的に訪れる人もいるほど。ただし羊がのんびり道を歩いていることもあり、ドライビング中は気をつけないとひきそうになるので、スピードに気をつけて運転しよう。

白い羊もいるが、黒い羊にも時々出くわす。

2つの角が目印の茶色いハイランド牛。

魅力5.魅惑的なスコットランドの歴史

スコットランドの歴史を語る上で、忘れてはならないのが「カローデンの戦い」。1746年にイギリス政府軍とジャコバイト軍(75%がスコットランド・ハイランド人で占める)の雌雄を決する戦いだ。カローデン戦場跡はスコットランドのナショナルトラストによって管理され、訪れることができる。

なお戦いはイギリス政府軍の圧倒的勝利で、わずか40分で終結した。また戦闘終了後に行われた政府軍による虐殺と、反乱再発防止のために行った「イングランド化政策(キルト・タータンの着用禁止)」が屈辱的な仕打ちと映り、後世長くスコットランド人の対イングランド感情に影を落としたと言われている。

広い戦場跡でジャコバイト軍の戦いを偲ぶ。

亡きジャコバイトの戦士を追悼する花束が今も飾られる。

もし城に興味があるなら、スコットランド貴族・サザーランド伯爵家の居城として建てられたダンロビン城をおすすめしたい。豪華絢爛な客室(なんと189室!)と美しい庭園は見応えがある。

貴族の暮らしを垣間見る豪華な城と英国式庭園。

豪華な食事と調度品で客を迎えたダイニングルーム。

なおノースコースト500について、詳しい情報がスコットランド観光HPにある。地図や、おすすめの宿、レンタカー情報、天気情報、エリア毎の情報等、ノースコースト500を楽しむための情報が満載だ。ぜひ役立てて、未知のルートを開拓してほしい。

文・写真/石橋貴子
スコットランド在住。コピーライター・編集者としての25年以上の職歴と、ジャーナリスム専攻ならではの視点を活かし、日々アンテナを張り巡らせて、スコットランドの隠れた魅力をお伝えしている。海外書き人クラブ所属。(http://www.kaigaikakibito.com/

 

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