
ライターI(以下I):『豊臣兄弟!』第32回です。雪の七尾城で槍の稽古をする前田利家(演・大東駿介)に対して、正室のまつ(演・菅井友香)が「ずっと雪だったらいいのに」といっていました。戦国の女性たちの心の叫びを聞いた思いがして切なくなりました。
編集者A(以下A):「槍の又左」と称された前田利家ですから、雪中でも鍛錬を欠かさない姿が描かれました。雪深い能登に居城があるため、冬の間は出陣ができず、合戦ができないのです。城を守る女性たちにとってみれば、つかの間の安穏の日日。日本の長い歴史の中で、合戦に明け暮れた戦国時代が特殊だったわけですし……。
I:武将たちは戦っていますが、女性たちはハラハラドギマギしながら待つ身。敗北した武将の妻女が磔刑に処されたりする時代ですから、気が気でなかったでしょう。「戦国のリアル」を表現するポイントだったと思います。寧々(演・浜辺美波)と豪(演・福地美晴)とのやり取りの中で、豪が健気に、養父である秀吉(演・池松壮亮)と実父の利家が戦になることを案じていました。一方で市(演・宮崎あおい)と茶々(演・井上和)の間で、刺激的なやり取りが交わされました。茶々が父浅井長政(演・中島歩)の形見の「守り刀」がほしいというのです。
A:茶々は「秀吉の首をとってみせます」といっていましたね。1996年の大河ドラマ『秀吉』を思い出しました。同作では、お市(演・頼近美津子)と茶々(演・松たか子)との間で、次のようなやり取りが交わされていました。お市の方が、「猿を殺してしまえ。天下布武の道半ばで倒れた兄の夢を継ぐなどと申し、織田を滅ぼし、天下を奪い取る猿を、お前の美しき刃にて刺し貫き、羽柴の家を傾けさせよ」と愛娘に伝えるのです。
I:かなり刺激的な台詞ですね。
A:それに対して、茶々は「かしこまりました。傾国の美しきおなごとなりまする」と母に誓います。
I:史実として、茶々からみれば、秀吉は父浅井長政、兄万福丸の仇。今また、『豊臣兄弟!』で母市と、義父柴田勝家(演・山口馬木也)の敵として対峙しているわけです。
A:物語としては「秀吉の首をとりまする」という展開は面白いですよね。ただ、実際にそのような威勢よき発言ができうる立場だったのか、一度じっくり検証してみたいですね。
宮崎あおいさんの思い
I:そうした中で、市役の宮崎あおいさんからコメントが寄せられました。まずは、「豊臣兄弟」との関係についてです。
仲野(太賀)さんや池松(壮亮)さんと、お芝居について細かく話し合うことはほとんどありませんでした。話し合わなくても、自然に豊臣兄弟との関係性を演じられる感覚があったので。
第31回(8月16日放送)で小一郎(演・仲野太賀)が市に会いに北ノ庄城へやってくる場面は、もちろん楽しく話ができる状況ではありません。でも、本当に小一郎たちを憎んでいるわけでもない。立場を超えて、ひとりの人間として小一郎に抱いている友情なのか、それとも別の純粋な感情なのかわからないけれど、そうした思いが自然とこぼれ出る気持ちで演じていたように思います。その中でも、常に自分の中に信長(演・小栗旬)を置いていました。織田家を背負い、信長の思いも背負って生きている市の中には、今も兄が生き続けていると思うので、見てくださる方にその面影を少しでも感じていただけたら嬉しいです。
I:宮崎さんは、「娘」の茶々についても触れてくれました。
茶々を演じる井上和さんは21歳で、私も『篤姫』の撮影をしていたのが21歳の時でした。当時の自分と同じ年齢の井上さんを見ていると、いろいろと感じることがありましたね。茶々たち三姉妹を目の前にすると自然と母の気持ちになりましたし、彼女たちが私を母にしてくれたように思います。井上さんとお話ししての印象は、とても前向きに物事を捉え、何事も楽しみながら向き合える方だということです。そうした姿勢は本当に大切だと私も感じています。これからさまざまなことに挑戦されていくと思いますが、その成長を勝手ながら楽しみにしています。
A:2008年の大河ドラマ『篤姫』は視聴率があまり望めない「幕末」ものにもかかわらず、20%以上の視聴率を連発するヒット作になりました。あのときの宮崎さんは、大河ドラマの史上最年少主役で話題になりましたからね。当時の自分と同じ年齢の井上さんを見る目は「母」のようですね。
I:そして、宮崎さんは、次週クライマックスを迎える「柴田勝家と市」についても触れてくれました。
勝家さん(演・山口馬木也)は少女漫画のヒーローみたいでかっこよくて、本当にキュンとさせてくれる存在です。嫁いでからは、これまでのライオンのような勝家さんとはまた違った、市にだけ見せてくれるかわいらしさがあって、改めていとおしい人だなと思いました。きっとそんな勝家さんだからこそ、市も彼と人生を共にする覚悟を心の底から決めることができたのだと思います。山口馬木也さんご自身はすごく優しい方。真面目で一生懸命で、一緒にいてとても楽しかったです。現場には穏やかな時間が流れていて、ひとつひとつのシーンを一緒に積み重ねながら、みんなで作品をつくっている感覚があり、とても幸せな時間でした。
I:宮崎あおいさんのお話を聞いて、先走りすぎかもしれませんが、茶々の行く末を本作で見届けたいという思いを強くしました。もとよりそれはかなわぬ思いだというのはわかっているのですが、現段階で、「秀吉の首をとる」といった茶々がどうなるのか、スピンオフでやってほしいですよね。
A:茶々だけではなく、豊臣兄弟の姉とも(演・宮澤エマ)も含めて『豊臣兄弟のおんなたち』はやってほしいですよね。ただ、当欄の「スピンオフをやってほしい」という願いは、一度もかなったことはありません(笑)。
※宮崎あおいの「崎」は正しくは「たつさき」。
●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり











