
(C)NHK
ライターI(以下I):『豊臣兄弟!』第28回。「本能寺の変」直後の動向が描かれました。私にとって、今まででいちばん心揺さぶられる感動回になりました。
編集者A(以下A):確かに、印象深い場面が盛りだくさんの回になりました。本能寺の焼け跡で光秀(演・要潤)が重臣斎藤利三(演・内藤剛志)に対して、小一郎(演・仲野太賀)の捕縛を命じました。信長(演・小栗旬)の骸(むくろ)を確保できなかったわけですから、信長が本能寺から脱出している可能性もありました。光秀軍の「残党狩り」は厳しかったと伝えられていますが、さすが光秀の諜報網。小一郎が京にいることを掴んでいたのですね。
I:その小一郎、なんと女郎屋を「アジト」にしていました。浅野長吉(後の長政/演・大地伸永)がやってきて、女将の吉祥(演・鶴田真由)と「ちょっと遊んでいこうかのう」「昼間っから好きやねえ。旦那はん」「サルにはかなわぬ」を「合言葉」にしていたようでした。なんだか笑っちゃいました。
A:藤吉郎時代に「京都奉行」をやっていたときに通っていた女郎屋ですよね、きっと。あのときは女将は登場していませんでした。このとき「小一郎が京にいるわけがない」という声もありますが、備中の秀吉の陣からの使いということでいえば、1996年の『秀吉』の石田三成(演・真田広之)、2006年『功名が辻』の山内一豊(演・上川隆也)という前例があります。両者は、安土城での家康接待のタイミングでの使者でした。2014年の『軍師官兵衛』では、官兵衛(演・岡田准一)が使者になることはありませんでしたから、ぎりぎり「絶対にありえない」設定には配慮しているようです。秀吉(演・池松壮亮)が京に来ていたとなれば「鼻白み」ますが、小一郎だったらセーフでしょう。それよりもびっくりしたのは、小一郎が本能寺で息も絶え絶えの森乱(演・市川團子)と遭遇したことです。18作も描かれている大河ドラマの「本能寺の変」史上、このような本能寺での登場は初めて視聴者が目にする場面になりました。
I:なぜ森乱が明智軍の雑兵のいで立ちをしているのか、謎が残りました。その謎が回収される機会はあるのでしょうか。
A:それは知りたいですね。旗指物もして、すっかり明智の雑兵でしたから。いつどのような状況で着替えたのでしょうか。これは取材が必要ですね。

信澄は泳がされていた?

I:織田信孝(演・結木滉星)、丹羽長秀(演・池田鉄洋)とともに四国への出陣を控えていた織田信澄(演・緒形敦)が「挙兵」しました。徳川家康(演・松下洸平)の安土饗応の際に毒を仕込んだことは丹羽長秀によって暴かれていましたが、あれから十数日経過しているわけです。「泳がせていた」という設定なんでしょうね。
A:そうそう。丹羽長秀が「泳がせていた」ということですよね。そのために挙兵したはいいけれども、何もできずに次の場面では切腹、ということになったと受け止めました。腹を出すことなく、装束の上から切腹する場面を見て、信澄はせっかちだったんだろうなと感じました。なにはともあれ、信澄の切腹で通説との辻褄合わせも違和感ない感じになったと思います。天正9年(1581)の馬揃えの序列では、信長嫡男信忠(演・小関裕太)80騎、次男信雄(演・山脇辰哉)30騎に続いて、信長弟信包10騎、信長三男信孝10騎、信長甥信澄10騎(以下略)ということでした。信長から見れば三男信孝と甥信澄はほぼ同格だったのでしょう。信孝から見れば、信澄は目の上のたんこぶ。信澄は光秀の女婿ということでもありますし、どさくさ紛れに亡き者にしようという意識が働いたのでしょう。
I:そうした説ともうまくリンクする絶妙な展開になりましたね。
A:1996年に『秀吉』の放送に合わせて刊行された『秀吉戦記 天下取りの軌跡』(集英社刊)の著者は、信長とその家臣団研究で知られた谷口克広さんですが、同書によると、毛利陣営に「変」の一報があったのが6月6日。その情報も正確ではなく、「討たれたのは信長・信忠・信孝の3人、討ったほうには明智光秀だけでなく、柴田勝家・津田信澄も加わっている」と、錯綜した情報がもたらされたようです。信澄は光秀の女婿ですから、すぐに虚報とは判断出来かねる情報だったんでしょう。
小一郎の夢「万事円満」と毛利家との和睦

I:すでに、前週に小一郎に随行してきた藤堂高虎(演・佳久創)などが、西国街道に金を落として、準備を命じていたと話していたことで、SNSなどでは「伏線」として楽しみにしていた視聴者も多かったようです。秀吉も「小一郎のおかげ」と絶賛しましたね。「本能寺の変」後の謎といえば、毛利方の清水宗治と対峙していた秀吉が鮮やかに講和をまとめて引き返すという「中国大返し」が見どころです。『豊臣兄弟!』でも秀吉が毛利方の安国寺恵瓊(演・立川談春)と対峙して講和をまとめようと試みます。
A:もともと毛利も一時期は信長と良好な関係を築いていただけに、その離反は信長にとって痛手でした。将軍足利義昭(演・尾上右近)を自領の鞆の浦(広島県福山市)に擁して、毛利輝元(演・濱正悟)は「副将軍」を自認していたといいます。この「義昭―毛利輝元」陣営によって、信長の天下統一戦線は明らかに遅れることになりました。劇中では、「万事円満」という小一郎の受け売りだという言葉で恵瓊を説得しようとする秀吉でした。
I:恵瓊が、そんなことは夢物語だといっていましたね。戦国時代にあって、すべてが円満におさまるというのはなかなかないのでしょうが、秀吉と恵瓊のやり取りは緊迫したものになりました。毛利との講和の手際良さ、あまりにも素早い大返し。実は秀吉は光秀謀叛を事前に知っていたのではないか? という見方があったのも事実です。2020年の大河ドラマ『麒麟がくる』では光秀与力として、光秀(演・長谷川博己)の親戚(光秀息女たまと藤孝嫡男忠興が婚姻)として、事前に光秀の翻意を知った藤孝(演・眞島秀和)がその情報を秀吉にこっそり教えた体になっていましたが、『豊臣兄弟!』では、小一郎が細川藤孝(演・亀田佳明)を呼び出して自分たちに味方するように説得していました。
A:細川藤孝と光秀の関係は、ともに足利義昭の側近くに仕えていた「同僚」にして、藤孝嫡男忠興の正室に光秀の息女たまが嫁いでいる「親戚」でもあります。光秀からすれば、当然細川家は自分たちの味方をしてくれると信じていたでしょう。光秀は、将軍義昭を京都に戻して、自らの女婿細川忠興を管領に据えるという「政権構想」を抱いていたともいわれています。にもかかわらず、細川藤孝は出家してしまうわけです。
I:『豊臣兄弟!』では、その出家の裏に「小一郎の説得」があったという設定なんですよね。それにしても『豊臣兄弟!』で初めて脚光を浴びることになったのが織田信澄。正室が光秀の娘ということですが、光秀の娘は、荒木村重(演・トータス松本)嫡男の村次に嫁いだ娘、細川忠興に嫁いだ娘(後の細川ガラシャ)もいます。このメンバーをみると光秀も閨閥つくりに余念がなかったという感じです。
光秀の動き

I:「本能寺の変」が発生した際に、北陸に在陣していた柴田勝家(演・山口馬木也)のもとにも一報がもたらされました。
A:柴田勝家、前田利家(演・大東駿介)は北陸の魚津(富山県魚津市)で、上杉景勝の軍と対峙していました。2002年の『利家とまつ~加賀百万石物語』では、本能寺で信長(演・反町隆史)が果てる直前に「又左衛門、さらばじゃ」と利家(演・唐沢寿明)に別れの挨拶を発する場面が挿入されましたが、『豊臣兄弟!』でも魚津城攻めの陣に「本能寺の変」の一報がもたらされる場面がしっかり挿入されました。勝家の混乱ぶりも凄くよかったです。
I:今週はスタートからいい場面が連続して描かれますね。第28回は面白いというか興味深い場面がものすごく多いのですが、徳川家康もいい塩梅というかいい味を出していました。
A:「信長討たれる!」の一報を聞いた家康は、堺の津田宗及(演・マギー)のもとに滞在していたわけですが、慎重に「伊賀にいくと見せかけて」「船を用意しろ」と煙に巻こうとします。戦国時代ですから、化かし合いですよね。商人も最終的に勝った方にいい顔ができるように、事を進めていく。これが戦国のリアル。家康は「わしをタヌキ呼ばわりするな」といっていましたが、今後始まる「サルとタヌキの化かし合い」が楽しみでしょうがないですね。
I:私は、「船を用意しろ」「船で山を越えるのですか」のやり取りがツボでした。そんな家臣で、家康大丈夫か? と感じました(笑)。今後、「秀吉シンパ」と「家康シンパ」の間でのせめぎ合いが発生するかもしれませんが、どんな描写になるのか楽しみです。

羽柴女性陣のスピンオフドラマが見たい!
A:長浜城へも「変」の一報が届けられました。
I:私はこの場面の「羽柴女性陣」のやり取りが好きです。今週も、秀吉を案じて、信長が討たれたことを秀吉に知らせたくないという寧々(演・浜辺美波)に対して、「ファミリー」が、秀吉は寧々のために生きるに決まっている、と慰めました。この場面、ちょっと感動でした。寧々と慶(ちか/演・吉岡里帆)、なか(演・坂井真紀)、とも(演・宮澤エマ)、あさひ(演・倉沢杏菜)のやり取りはもっともっと尺をとってほしいですし、彼女たちをメインにしたスピンオフドラマを制作してほしいと思うほど好き。
A:それは面白そうですね。ただ、当欄では毎年数回、「スピンオフドラマが見たい!」と叫んでいますが、実現したことがありません。当たり前といえば当たり前ですが、羽柴女性陣のスピンオフは見たいですよね。
I:あと興味深かったことがもうひとつ。今週は、織田信澄と清水宗治のふたりの切腹シーンがあり、双方、きちんと介錯人まで描かれました。
A:切腹と介錯が被るのは珍しいですよね。
キャラ変なのか秀吉兄弟
I:尼崎で秀吉と小一郎が合流しました。なんだか涙腺が崩壊する場面になりました。慶が与一郎(演・大西利空)に託したのは、信長から拝領した草履でした。ちょっとここにこのエピソードを入れてくるのはずるいです。もう涙が止まらないじゃないですか。
A:秀吉・小一郎兄弟のキャラ変ですかね?
I:もうこのままの状態で突っ走ってほしいです。家康に負けるな!
A:家康は、まだ早いですよ。まだ、光秀も健在ですし。次週いったいどういう戦いになるのでしょうか。

●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり











