
「金鋺」に削った氷を入れ、古代のかき氷を再現。シロップは「甘葛煎」を化学分析して商品化した『甘葛風シロップ』(※)。
※1500円。ネット通販「SOUSUKE」https://sousuke-kakiha.com/
「削り氷にあまづら入れて
あたらしき金鋺に入れたる」──『枕草子』
日本最古の「かき氷」を探しに奈良を訪ねた。「削り氷にあまづら入れて」というのは、清少納言の『枕草子』に出てくる一節。夏に氷を削り「あまづら」をかけたようすの描写だ。平安時代(794〜1185年)には、都の貴族たちが氷を楽しんでいたようだ。
氷にかけている「あまづら」とは何か。奈良女子大学で古代の甘味の研究を続ける、前川佳代さんを訪ねた。
「奈良時代から記録に残っている、日本固有の甘味料のことで『甘葛煎』と呼ばれています。古代、砂糖は非常に貴重だったので、樹液を煮詰めてつくった甘味料が使われていたのです」(前川さん)

甘味の元はツタの樹液だ。
「種類はナツヅタで、どこでも見られる一般的なツタです。冬期に樹液の糖度が上がったときに切り出して人力でブンブン振り回し、その遠心力で樹液を採取します。なかなか過酷な力業です」
3㎏のツタから、僅か10〜20㏄しかつくれないという。そんな貴重な「甘葛煎」を味見させてもらったが、想像より甘い。しかしその甘みが喉を通るときにはスッと消える、なんとも不思議な味わい。これが古代の甘味なのである。
天然氷を宮中に献上していた
さて、清少納言が記した甘葛煎がかけられた氷は、どのようにしてつくられていたのだろう。氷のルーツをたどって、奈良県天理市福住町にある氷室神社を訪ねた。

奈良県天理市福住町1841 参拝自由 交通アクセス:JR天理駅、近鉄天理駅より奈良交通バス針インター行き、国道福住下車徒歩約11分(本数が少ないので要確認。奈良交通 電話:0742・20・3100)
氷室神社は「氷の神」を祀る神社で、社伝によると5世紀中頃に創建されたという。神社の周辺には池で凍らせた天然氷を保存する「氷室」の跡がある。『日本書紀』仁徳天皇62年の条(4世紀後半頃)には、冬につくった氷を冷涼な氷室で保存し、夏になると宮中に献上していたという記録が残っている。


写真/天理市立福住・山田公民館

写真/天理市立福住・山田公民館
また、奈良時代の皇族・長屋王の邸宅跡からは「氷」に関する木簡(下写真)のほかに「甘葛」と書かれたものも出土している。

古の貴族たちは甘い氷を食べていた。「かき氷」の起源は、古代まで遡ることができるのである。
解説 前川佳代さん(奈良女子大学協力研究員)

取材・文・撮影/宇野正樹 撮影/小林禎弘 撮影協力/前川佳代、kakigoriほうせき箱、ことのまあかり
※『サライ』2026年8月号より












