文・石川真禧照(自動車生活探険家)

ホンダからちょっと気になる車が発売された。
スーパーワンと名付けられたその車はEV(電気自動車)だが、80年代に車好きだった輩には、当時を思い出させてくれるちょっと興味深い車だ。



スーパーワンのベースになっているのは、「N-ONE e:」という軽自動車のEV。25年9月に発売された。この車をホンダのちょっとヤンチャで遊び心のある技術者たちが変身させたのだ。
基本的な車体は軽自動車のままで、前後の車軸を外側に拡大し、太いタイヤを装着した。当然、タイヤが車体からはみ出るので、前後のフェンダーを外側に膨らませた。車軸を4センチ外側に広げたことで、車幅は10センチ広くなった。
軽自動車規格の全幅は超えたので小型車になった。車幅が軽自動車でなくなったので、全長もバンパーを大きくし、軽自動車枠よりも18センチ長くなった。こうして軽自動車のEVは、車体はそのままに、外装の前後左右を拡大したユニークな車が完成した。



それを見た80年代のホンダ車を知る技術者や営業部門の人たちは、1台の車を思い浮かべたのだ。
「シティターボIIブルドッグ」。83年に登場したスポーツモデルだ。


ベースになった「シティ」は、81年にホンダが発売したスモールカー。3ドアハッチバックの車体は、当時のスモールハッチバックが全高1.4メートル以下だったのに対し、1.4メートルを超えていたことでトールボーイと呼ばれ、居住空間の広さとコンパクトさと70万円台という車両価格で若者たちの人気車になった。ユニークなCMとイタリアのカーデザイナー、ピニン・ファリーナがかかわったと言われるデザインも話題になった。
ホンダは、この「シティ」をベースにターボを装着した「シティターボ」(109万5000円)を翌年に発売。さらに83年に「ターボII」(123万8000円)を発売した。
この「ターボⅡ」は「シティ」をベースにしていたが、馬力とトルクを向上させたことで走行安定性を高めるために車軸とタイヤ幅を拡大した。当然、車体もフェンダーを膨らませ、ブリスターフェンダーにした。(当時、メーカーは改造車のイメージのあったブリスターフェンダーとは最後まで言わなかった)。
そして、この「ターボII」についた愛称が「ブルドッグ」だった。
短くて横に太った身体、愛嬌のある顔がブルドッグを連想させたのだ。
ホンダが今回、スーパーワンを企画した時、当時を知っている社内の車好きは、スーパーワンにブルドッグを名乗る仕様を考えた。しかしホンダはカタログに「ブルドッグ」の名を使わなかった。
ホンダの子会社で、主にアクセサリー類を開発しているホンダアクセスがブルドッグ仕様を作り上げた。



メカニカルな部分は本家と同じだが、本家にはないフォグランプと「BULLDOG」のデカールと大型テールゲートスポイラーがなどを装備した仕様を用意した。
せっかくスーパーワンを取り上げるのなら、「ブルドッグ」仕様のほうが、気分が盛り上がる。


ということで、ブルドッグに試乗した。
軽自動車の「N-ONE e:」と比較すると、車両重量は60kg重く1090kgだが、最高出力は軽自動車の自主規制値64馬力から大幅に向上し、95馬力と表示されている。
ただし、最大トルクは162Nmで軽と同じなので、加速の速さに大差はない。
速さが異なるのはブーストモードが備わっていること。
83年当時の実車を試乗したことのある人には、「スクランブルブースト」というターボを瞬間だけ高める装置が備わっていたことを思い出させる。このあたりのこだわりもホンダらしいマニアックなところ。





ホイールベースの短い、高出力のFF車特有のじゃじゃ馬的操縦性は、最新の制御でおとなしくはなっているが、カーブでの緊張感は「ブルドッグ」を操っているという感覚を思い出させる。
新しいスーパーワンはセカンドハウスに置いておき、気候や気分の良い時に操縦を楽しみたい。ガレージに充電設備があれば、遠くなってしまった給油所に行くこともないし、カタログ表記で274km、実走行で200kmから220kmの一充電走行可能距離も日常生活での使用なら何の不便もない。
今回も電池容量が50%減の状態で、自宅の3kwの充電設備を使うと6時間で満充電になった。






保有年数の制限があるが、各種補助金を使えば価格も半額近い支払いで済む。
実用的な小さなEVをベースにして走りを楽しむクルマに仕立てる。最近のホンダには見られなかった遊び心だ。こういう形でEVライフを楽しむ生活も面白いかもしれない。
ホンダ/スーパーワン(純正アクセサリー装着車)
| 全長×全幅×全高 | 3580×1575×1615mm |
| ホイールベース | 2520mm |
| 車両重量 | 1090kg |
| モーター | 交流同期 |
| 最高出力 | 95ps/rpm |
| 最大トルク | 162Nm/rpm |
| 駆動形式 | 前輪駆動 |
| 充電可能走行距離 | 274km /(WLTC) |
| 使用燃料/容量 | リチウムイオン電池/29.6kWh(総電力量) |
| ミッション形式 | 電気式無段 |
| サスペンション形式 | 前:ストラット式 後:ストラット式 |
| ブレーキ形式 | 前:ディスク 後:リーディング トレーリング |
| 乗員定員 | 4名 |
| 車両価格(税込) | 422万5100円 |
| 問い合わせ先 | 本田技研工業 0120-112010(車両)、ホンダアクセス 0120-663521(アクセサリー) |

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。
撮影/萩原文博





