取材・文/坂口鈴香

写真はイメージです。

ママがおかしい

松兼恵理さん(仮名・61)は、夫の母親(89)のことを「ママ」と呼んでいる。夫や義兄姉が昔からそう呼んでいたので、松兼さんもそう呼ぶようになった。「初めて聞いたときは、大の男が『ママ』なんて呼んでて面白かったので真似しました」と笑うが、松兼家の仲の良さが伝わってくるようだ。

東北地方に住む松兼さん夫婦が7年前にママと同居するまで、ママは夫を亡くして以来20年以上一人暮らし。松兼さん夫婦は同じ県内の別の市で、義兄家族は首都圏、義姉夫婦は近県で暮らしていた。

「ママがちょっとおかしい」。義姉が言い出したのは、ママがまだ60代だったころ。近所の人からも同じような話を聞いたらしく、松兼さんがママのもとに泊まり込んで、しばらく様子を見ることになった。

「おかしなこと」はたくさんあった。

「身だしなみに気をつける人なのに、服装が変で、言動もボケた感じでした。『お金を下ろしたはずなのにない』と言って探したりもしていました。私を疑うようなことはありませんでしたが」

車を運転してどこかに出かけてしまい、歩いて帰ってきたこともある。車をどこに置いたかわからなくて、免許のない松兼さんが知り合いの自動車販売店の人に頼んで車を探して乗って帰ってきてもらった。その後は、車のカギを隠して運転できないようにしたが、「お兄ちゃん(長男)から言われたの?」と聞いてきた。「ママは長男さんがちょっと怖いみたいでした」

何種類もの睡眠薬や向精神薬が

松兼さんが、ママが飲んでいる薬の袋を確認してみると、驚くほどたくさんの薬を処方されているのがわかった。

「その数年前から、燃え尽き症候群のような症状があって精神科に通っていたのは知っていたのですが、睡眠薬や向精神薬を何種類も飲んでいたのです。おそらく薬の管理もできていなかったのではないでしょうか。オーバードーズだった可能性もあると気づいてゾッとしました。一人暮らしで食事がおざなりになっていたのに加えて、この大量の薬でおかしくなったのではないかと思います」

ママの異変は薬のせいかもしれないと考えた松兼さんは、精神科の医師にママの様子を伝えて、検査をしてもらうことにした。

しかし、精神科では「異常なし」という結果だった。

「『もう、あの医者は信用ならん』と家族で意見が一致しました」

そこで、長男の嫁が見つけた病院にママを連れて行くことにした。長男家族が住む関東地方の病院で、認知症についての本を何冊も書いている著名な医師がいるということだった。ママは長男宅に滞在して、通院することになる。

「義兄の家からも少し遠かったのですが、その病院に通っていたら半年くらいでほぼ元通りになりました。認知症のような症状は生活習慣から来るもので、前の病院で処方されていた薬は飲まないで、散歩して花を見ながら季節を感じてください、というアドバイスだったようです」

症状が改善したママは、その年の年末には自宅に戻った。

「いったん、うちの家で同居してから、また一人暮らしに戻りました」

【2】に続きます。

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

 

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