上月城の惨劇。(C)NHK

ライターI(以下I):『豊臣兄弟!』第22回です。前週の第21回では、後半に「血を一滴も流さない戦」を「実践」していた小一郎(演・仲野太賀)の意に反して、上月城を攻めていた秀吉(演・池松壮亮)が城内にいた女性や子供を含む民を磔にした場面が描かれました。

編集者A(以下A):「ホワイト小一郎」との強烈な対比としての「ブラック秀吉」なのかと戦慄を覚えました。ところが……。

I:実は「敵方はみな自害していた」「秀吉は命を助けようとしていた」ということでした。「亡骸を手厚く葬ってやれ」という秀吉です。ところが、その亡骸の山を見て、竹中半兵衛(演・菅田将暉)が、せっかくなら秀吉軍が惨殺したことにして、兵の首は斬り落とし、女は納屋に押し込んで火をかけ、子供は串刺しにして国境にさらして、織田に逆らうとこうなるという見せしめにしよう、という。そうすることで、織田に恐れをなして、戦わずして勝つことができるかもしれない、と。

A:見せしめということですね。前週も触れましたが、籠城していた面々を磔にしたことは、秀吉自らが近江長浜城を守る家臣に書状で伝えたものです。そのエピソードがアレンジされたということになります。秀吉自身は籠城した民を殺戮していないということにしたかったのだと思います。では、秀吉によるこのエピソードも「ホワイト化現象」かといわれると、そうかもしれないと思いつつ、「いや、籠城した面々が全員自害するというのは、精神的にも肉体的にもそうとう追い詰められてのこと。むしろこちらのほうが残酷なのかも」と思ったりもします。

I:半兵衛が「それこそが今の播磨。皆半信半疑のまま、それでもどちらかにつかねばならぬと、我らを選んだ者がほとんど……その者たちの気が変わらぬうちに、一刻も早く毛利を倒さねばなりませぬ」「厄介なのは明らかな敵ではなく、腹の底が見えぬ国衆でござる」といっていました。

A:もともと別所一族は早くから織田信長(演・小栗旬)に帰順していた一族。なぜ、急に毛利に寝返ったのか? 気になっている視聴者も多いのではないでしょうか。別所一族のことについては次週深掘りしたいと思います。さて、秀吉が上月城にいれた尼子勝久です。大河ドラマで尼子氏といえば、1997年の『毛利元就』が思い出されます。三代目中村橋之助(現・八代目中村芝翫)演じる毛利元就の好敵手だったのが、緒形拳さん演じる尼子経久。毛利氏と尼子氏の戦いは経久の孫尼子晴久(演・髙嶋政宏)の代まで続きます。『豊臣兄弟!』で「尼子再興」を掲げて戦っていた尼子勝久(演・渡邉蒼)は、経久の次男国久の孫になります。

I:『毛利元就』では、尼子晴久が新宮党と称された尼子国久(演・清水綋治)一党を粛清したことをきっかけに、尼子氏が没落していく様が描かれました。

A:安芸の国人領主からのし上がった毛利元就の魑魅魍魎の生涯をエンターテインメントに仕立てた内館牧子先生の功績が思い出されます。さて、最盛期には11か国の領土を維持していた尼子氏ですが、新進勢力の毛利輝元に敗れ滅亡します。『豊臣兄弟!』では、信長陣営からの目線で「播磨平定」の戦いで、毛利方から奪ったばかりの上月城が尼子勝久に与えられます。

I:劇中では、「尼子再興」を目指す尼子勝久と秀吉の「絆」が強調されました。そうした関係を築いていたにもかかわらず、三木城攻略を優先するために「見殺し」にせざるを得なくなります。上月城を救えなかったことで秀吉が悪夢にうなされて毎晩あまり眠れない。ついには尼子勝久と山中幸盛(鹿介/演・廣瀬友祐)の「亡霊」が夢に現れます。それにしても転倒して記憶をなくすとは! これはいったい出典はどの史料になるのでしょうか?

A:読者の方から「可能な限り、出典を教えてほしい」というリクエストがありましたので、実験的に言及しますが、これは『豊臣兄弟!』作者の創作かと思われます。小一郎や蜂須賀小六(演・高橋努)、宮部継潤(演・ドンペイ)との思い出エピソードで記憶を呼び戻そうとしたり、生母のなか(演・坂井真紀)までやってきました。

I:寧々(演・浜辺美波)じゃないんだ、と思いました。

A:確かに。寧々といえば、『黄金の日日』では十朱幸代さんが比叡山延暦寺を攻めている秀吉陣中を訪れ、『おんな太閤記』では佐久間良子さんが墨俣一夜城にかけつけました。『信長 KING OF ZIPANGU』では中山美穂さん演じるねねが秀吉が守る横山城に甲冑姿で陣中見舞いに訪れるなど、秀吉の陣中を訪れる姿は定番でした。

I:『豊臣兄弟!』でも寧々の登場を期待していた人もいたかもしれませんが、生母のなかでした。寧々だったら、小一郎正室の慶(演・吉岡里帆)もってことになりますからね(笑)。さすがに「それはないか」ということになって、生母なかの登場ということになったのではないでしょうか。

記憶喪失になった秀吉(中)を救うために、母なか(右/演・坂井真紀)が長浜からやってきた。
(C)NHK

圓教寺の落書きの真相

小一郎(演・仲野太賀)が圓教寺の柱に名前を刻む。(C)NHK

A:ドラマの中で描かれた秀吉の記憶喪失という珍事の舞台となったのは、書寫山圓教寺です。

I:圓教寺は現在の兵庫県姫路市にある古刹で、映画『ラストサムライ』のロケが行われたことでも知られています。大河ドラマでは2014年の『軍師官兵衛』のロケでも使われています。

A:宮部継潤が、「先ほど住職が言うておった。あの柱に己の名を書きながら願掛けすれば、どんな願いも叶うと……この寺の開山の頃よりの言い伝えがあるらしい」といって、兄秀吉を助けたい一心の小一郎が、自分が不幸になってもいいからといって、願掛けしながら自分の名前を柱に刻み付けていました。実は圓教寺の食堂には今も、「小一郎秀長内 高井丁助」という文字が刻まれているそうです。高井丁助というのは「小一郎秀長内」とあるように、小一郎の配下だった者で、実際には高井丁助が落書きしたということのようです。

I:宮部継潤の台詞は400年以上前のことですから、現代の私たちは絶対にやってはいけません。その代わりに圓教寺では仏さまの名前を唱えながら1日1000回、3日間連続で3000回の五体投地を行う三千仏礼拝行があるので、本気で願掛けするなら、三千仏礼拝行を拝観して、自分でも五体投地をするとかしたほうがいいのではないですかね。

A:圓教寺と秀吉といえば、秀吉の中国攻めの際の寺領没収など、けっこうな被害を被っているんですよね。さらに同寺から本尊の如意輪観音像や薬師如来、阿弥陀三尊像などを長浜に持ち帰ったことが知られています。このうち、如意輪観音像は戻されたそうですが、薬師如来と阿弥陀三尊像は今も長浜市内の寺院に安置されているそうです。

I:圓教寺の「X」公式アカウントで発信されていましたね。

村重謀反の衝撃!

信長(左/演・小栗旬)に持参した饅頭を食べさせられる荒木村重(右/演・トータス松本)。
(C)NHK

I:安土城が完成目前の状況の中で、荒木村重(演・トータス松本)に謀反の疑いがありということで、信長のもとを訪れて「釈明」します。村重家臣が毛利と内通していたという疑いです。村重が持参した「手土産」の饅頭を自分で食ってみろと信長にいわれ、村重が饅頭をすべて平らげるという場面が描かれました。このエピソードの出典はなんでしょうか。

A:安土に伺候した荒木村重が持参した饅頭をすべて平らげたという文献は見当たりませんので、これも作者の創作かと思われます。無茶な食べ方をしていたので、武田信玄(演・高嶋政伸)が餅をのどに詰まらせて亡くなったことを思い出し、もしや村重が饅頭をのどに詰まらせて亡くなるのか? と思いましたが、そこまでの「演出」はありませんでした。いやしかし、結果的に荒木村重が謀反ということになるのですが、タイミング的に秀吉が上月城に執着していたら、織田軍はにっちもさっちもいかない状況に陥っていたのではないかと思わされました。

I:ギリギリセーフでしたね。

A:さらに劇中では、竹中半兵衛が倒れる事態に陥りました。

I:菅田さんの半兵衛、かなりお気に入りだったので、お別れが悲しいです……。もっともっとその活躍が見たかったのに……。

倒れた半兵衛(演・菅田将暉)。(C)NHK

●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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