五十路の坂に差しかかる頃、ふと立ち止まって、これまでの歩みを振り返ることが増えてきます。そんなとき、自分の半生を言い表す「短い言葉」を探してみるのも一興です。先人の名言やことわざの中に、「まさにこれだ」と腑に落ちる一文が見つかるかもしれません。

名前も知らなかった人物の言葉が、不思議と自分の経験に重なる… そんな「偶然の一致」が、背中を押してくれることもあります。今日の言葉は、いまのあなたに何を示してくれるでしょうか。

さて、今回の座右の銘にしたい言葉は「八面玲瓏」(はちめんれいろう)です。

「八面玲瓏」の意味

「八面玲瓏」について、『⼩学館デジタル⼤辞泉』では、「心が清らかで、何のわだかまりもないこと。また、そのさま」とあります。「八面」は、あらゆる方向・どの面から見ても、という意味。「玲瓏」は、玉が澄み切って輝く様子、あるいは澄んだ美しい音を表す言葉です。

つまり「八面玲瓏」とは、誰に対しても分け隔てなく、明るく、誠実に接することができる人の姿を映し出した言葉といえるでしょう。

ただし、注意したいのは「八方美人」との違いです。「八方美人」は、誰にでも調子を合わせ、自分の意見を持たないというネガティブなニュアンスがある言葉。一方「八面玲瓏」は、内側に芯や澄んだ心を持ちながら、外に対して柔らかく開かれているという、より深みのある言葉です。

「八面玲瓏」の由来

八面玲瓏は中国宋の馬煕(ばき)の詩、「開窓看雨」(窓を開きて雨を看る)の一節「八面玲瓏多得月」(八面玲瓏として月を得ること多し)に由来するといわれています。部屋の八方から月の光が見えること、つまり周りを見渡せることを指します。そこから、人柄や才覚について、曇りがなく、明朗で、物事によく通じているさまを表すようになったと考えられています。

この言葉の魅力は、表面的な器用さだけではなく、内面の明晰さまで含んでいるところにあります。

人に合わせることは簡単なようでいて、実は自分の心が濁っているとできません。利害や感情にとらわれすぎると、どうしても言葉や態度に曇りが出るものです。有名な羽生善治棋士が「八面玲瓏な気持ちで対局戦に臨むことが大切」と語ったことでも知られています。

「八面玲瓏」を座右の銘としてスピーチするなら

この言葉を座右の銘としてスピーチする際に気をつけたいのは「自慢話や説教じみた印象を与えないこと」です。「私は誰とでもうまくやれる人間です」と自己評価として語ってしまうと、せっかくの美しい言葉が台無しになってしまいます。スピーチで取り上げる際は、「自分はすでにそういう人間である」と誇るのではなく、「これからの人生で、そういう心持ちでありたい」という謙虚な姿勢で語るといいでしょう。

以下に「八面玲瓏」を取り入れたスピーチの例をあげます。

人生後半戦を生きる指針としてのスピーチ例

私の座右の銘は、「八面玲瓏」という四字熟語です。

意味をひとことで言うと、「どの方向から見ても澄み切っていて、曇りがない」ということです。磨き上げられた宝石が、どの角度から光を当てても輝いているように、人もどの方面に対しても明るく、誠実であり続けたい… そんな願いを込めた言葉です。

私がこの言葉を意識するようになったのは、ちょうど50代を過ぎたころのことです。長く仕事を続けてきた中で、気がつけば肩書きや立場に守られた人間関係が多くなっていました。定年が近づき、会社という後ろ盾がなくなったとき、「素の自分」で人と向き合う力が、自分にあるだろうかと、ふと不安になったのです。

そのとき出会ったのが、この「八面玲瓏」という言葉でした。

肩書きがなくても、役職がなくても、どこから見ても澄んでいる人間でありたい。誰に対しても分け隔てなく、柔らかく、でも芯は曲げずに生きたい。そう思ったとき、この言葉が自分の中にすっと入ってきました。

よく似た言葉に「八方美人」がありますが、私はこの二つは似て非なるものだと思っています。八方美人は、風に揺れる草のように、周りに流されてしまう。でも、八面玲瓏は、磨かれた玉のように、内側に揺るぎない美しさを持ちながら、外にも光を放つ。そこに、大きな違いがあると感じています。人生の後半を歩む今、私はこの言葉を胸に、どこから見ても恥ずかしくない人間でありたいと、日々自分に言い聞かせています。

最後に

「八面玲瓏」は、ただ愛想よく振る舞うことではなく、内面を磨き、心を澄み渡らせることで自然と周囲との調和が生まれるという、非常に奥深い言葉です。人生経験を重ね、酸いも甘いも噛み分けてきた方々だからこそ、この言葉の真の響きを体現できるのだと思います。心静かに自分自身と向き合う時。ぜひこの「八面玲瓏」という言葉を思い出し、透き通るような美しい人生の後半戦を描いてみてください。

●執筆/武田さゆり

武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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