松前廣年(演・ひょうろく)の腕にはロシア産の琥珀が光る。(C)NHK

ライターI(以下I):『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(以下『べらぼう』)では、松前道廣(演・えなりかずき)の登場で、大河ドラマ史上初めて「松前氏」の存在に光があてられた感がします。劇中では、蝦夷と取引しているのは近江商人が多いそうですという田沼意知(演・宮沢氷魚)の発言があるなど、知られざる北方の大名に注目が集まっています。

編集者A(以下A):もともと松前藩の「松前氏」は「蠣崎(かきざき)」を名乗っていて、そのルーツは、現在の青森県五所川原市にある十三湊(とさみなと)を拠点にしていた安藤一族です。鎌倉幕府滅亡の遠因ともなった「津軽大乱」(鎌倉幕府の長崎高資が対立する双方から賄賂を受け取っていたといわれる)は安藤一族内の争いのことですし、その歴史は長く、室町時代には、「奥州十三湊日之本将軍」の称号を名乗っていたともいわれる大豪族です。当地青森県五所川原市の市浦歴史民俗資料館に地図が掲示されているのですが、北はカムチャッカ半島・アムール川流域などとも交易していたことが知られています。この安藤一族が蝦夷地の南部に「道南十二館」という拠点をもうけていました。

I:たしか「続百名城」に選定されている志苔(しのり)城(函館市)が「道南十二館」で、同じく「続百名城」の上ノ国勝山館(上ノ国町)は松前氏の祖である武田信広が築城したんですよね。

A:はい。どちらの城も以前、取材で訪れたことがありますが、勝山館は巨大な城郭跡であり、中世都市。築城したという武田信広は、真偽は不明ですが、若狭の武田氏の一族だというのです。

I:武田というと信玄で知られる甲斐の武田氏が有名ですが、安芸や若狭、房総半島など各地に一族が広まっているのが凄いんですよね。

A:武田ネットワークですよね。武田信広はそのうち若狭武田家の一族を名乗っているのですが、「武田」を名乗ることで箔付けしたのだと思ったりします。そして武田信広は、蠣崎の養子に入り、松前氏の祖になるわけです。

I:なるほど。信広の「広」の字が松前氏の通字なのは、そのためですね。(ドラマでは廣の字を採用)

A:そして、面白いのは「蠣崎→松前」の本家といえる安藤氏は戦国時代に「秋田氏」に改姓し、一本桜で有名な福島県の三春藩に移り、維新を迎えます。海を奔った「水軍」が海とは無縁の領地に移されたわけです。そうした例は、ほかにもあります。志摩半島を拠点にした九鬼水軍は、家督争いの影響で、海のない丹波と摂津の領地に移封させられます。瀬戸内海を牛耳っていた村上水軍も大名として続いた来島村上氏は海のない豊後森藩に移され、水軍力はほぼ無くなります(飛び地にわずかながら海があった)。能島村上氏、因島村上氏などは毛利家家臣となって存続します。

I:「水軍力持つ大名の力を削ぐ」という幕府の政策ですよね。

A:はい。『べらぼう』に登場する松前道廣の背景には壮大な「北方の前史」があるのです。そして、松前といえば、さくら祭り。『べらぼう』第21回で松前藩主松前道廣が、満開の桜の木に括りつけられた家臣の妻を的にした場面がありましたが、あの桜をみて、「松前さくらまつり」を想起した人もいたのではないでしょうか。松前城を主会場として、250種1万本もの桜が時期を微妙にずらしながら咲き誇る圧巻のさくらまつりです。

I:松前のさくらまつり行ったことがあるのですか?

A:はい。まだ北海道新幹線開通前に「百名城スタンプラリー」のために息子と訪れたことがあります。地域に根差した雰囲気にちょっと感動しました。海産物など「え? この値段で?」というリーズナブルな価格で楽しめました。松前城からほど近い「松前藩屋敷」は、奉行所、武家屋敷、旅籠、廻船問屋など14棟の藩政時代の建物が再現されたテーマパークです。本格的な甲冑着付け体験ができて、甲冑姿でパーク内を闊歩することができます。

I:話が尽きませんね。

「江差の五月は江戸にもない」

A:雑誌『サライ』の取材で幾度か北海道の松前や江差に行きましたが、『べらぼう』時代の前後の時代、江差は近江商人が最大勢力で、多くの店が軒を連ねていたそうです。北前船交易ですね。下北半島などにも近江商人の系譜をひく方々が大勢商いをしていたそうです。

I:近江商人がたくさん出入りしていたということは、儲かっていたんですね。江差の繁栄ぶりは俗に「江差の五月は江戸にもない」といわれて5月の江差の賑わいは江戸をしのぐほどだったといわれています。

A:松前藩の封地には、見どころが山ほどあるのですよ。

松前藩と2027年『逆賊の幕臣』をつなぐエピソード。次ページに続きます

1 2

 

関連記事

ランキング

サライ最新号
2025年
6月号

サライ最新号

人気のキーワード

新着記事

ピックアップ

サライプレミアム倶楽部

最新記事のお知らせ、イベント、読者企画、豪華プレゼントなどへの応募情報をお届けします。

公式SNS

サライ公式SNSで最新情報を配信中!

  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
  • LINE

小学館百貨店Online Store

通販別冊
通販別冊

心に響き長く愛せるモノだけを厳選した通販メディア

花人日和(かじんびより)

和田秀樹 最新刊

75歳からの生き方ノート

おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店
おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店