文・写真/小川聖市(海外書き人クラブ/台湾在住ライター)

「山田摩衣」
日本人なら「やまだ まい(Yamada Mai)」と読み、日本人女性を想像するだろう。台湾人は中国語で「サンティエン モーイー」と読むが、本人を全く知らない人なら、まず日本人だと思う名前だ。

今年に入ってからfacebookのタイムラインで名前を知ったのがきっかけで、少し調べてみたら、11月26日に行われた新北市議会議員選挙の民主進歩党(以下、民進党)の公認候補だと分かり、興味を持ち、選挙活動の様子を7月下旬から可能な限り見てきた。

「父は日本人、母は台湾人だが、私は台湾生まれ台湾育ちの台湾人」

市政座談会でオリジナルマスクをつけて演説(2022年8月26日撮影)

「山田摩衣」は1990年1月10日生まれの32歳。

本人曰く「父は日本人、母は台湾人だが、私は台湾生まれ台湾育ちの台湾人」。

公約を記したリーフレットだけでなく、演説の度に何度も繰り返し、強調しているフレーズだが、日本人の姓と名前の彼女が、なぜ台湾の選挙に立候補できたのか、気になる人も多いのではないだろうか。

そのキーワードは「新住民」という言葉にある。

「新住民」とは、以前は中国人か東南アジアの国の人が、台湾人との結婚や仕事などの理由で台湾に住み、台湾籍(中華民國籍)を取得して身分証が発行され、公民権がある人たちを指す言葉だった。時代が変わり、多様化が進み、今は「中国人か東南アジアの国の人」が「外国人」に変わってきている(https://www.immigration.gov.tw/5385/7344/70395/143257/)。参考までに、筆者の場合、現在、永久居留証を取得して台湾に住んでいるが、台湾籍は取得しておらず、「新住民」ではないので、公民権はない。

この定義から、「山田摩衣」は名前こそ日本人だが、台湾籍を持つ「新住民」として公民権があり、立候補できたと言える。

賴清德副総統(手前スーツ姿の男性)の紹介後、旗を握った右手を挙げる(2022年9月29日撮影)

では、立候補に至るまで、どのような経歴をたどっていったのだろうか。

小学生時代にキッズモデルから子役俳優まで経験

日本語で「浪花節だよ人生は」を歌う(2022年10月30日撮影)

山田摩衣(以下『摩衣』)は、小学校進学前にキッズモデルとしてデビュー。この時、台北市内のデパートの広告、雑誌やカタログのモデルを務めた(https://youtu.be/yZfC7hVzrcM)。そこからテレビCMのモデル、ドラマ出演(そのうちの1つ:https://www.facebook.com/watch/?v=182633373852157)、2015年9月に引退した歌手で「台語天后(台湾語歌謡の女王)」と呼ばれる江蕙(ジャン フイ)のミュージックビデオ(https://youtu.be/5YMObLGYTRs)に出演するなど、芸歴を積み重ねたが、中学進学後に学業に専念するため、芸能活動を少しずつ減らし、最終的に休止した。

選挙区内の市場で支持を呼びかける(手前右の黄緑のマスク姿 2022年10月6日撮影)

その後、進学した中國文化大學文學院英國語文學系の授業や課外活動などで新聞学に触れたことがきっかけで、卒業後の進路を政治の世界に定め、大学4年時に立法院(国会に相当)のインターンになった。

大学卒業後は立法委員の事務所などで経験を積む

対策本部の事務所開きの集会で来場者にハイタッチであいさつ(2022年11月5日撮影)

立法院のインターンを終え、民進党の立法委員(国会議員に相当)の事務所に入り、副主任を務めた。そこから、民進党の全国党員代表大会の代表、民進党新北市支部の部門長を経て、現立法院院長(国会の議長に相当)の游錫堃(ヨウ シークン)事務所で秘書を務めるなど、主に国政方面で経験を積むだけでなく、並行して政治大學國際事務學院の修士課程に在学し、学位も取得した。

前出の集会で来場者に演説を行う(2022年11月5日撮影)

約10年の実務経験で、相手から様々な形で感謝を伝えられた喜びにやりがいを感じ、昨年、新北市議会議員選挙への立候補を決意。ところが、摩衣が小学4年生時に父が他界してから、一人で育ててきた母は猛反対した。報道などで自分たちのプライバシーの境界線がなくなってしまうこと、選挙活動を機にあらゆる個人攻撃にさらされることなどを嫌い、「今日も立候補の話をするなら出ていきなさい!」と口にするほどだった。だが、摩衣が日々努力する姿と熱意を目の当たりにしてからは理解を示し、立候補を容認するしかなかった。

昨年11月30日に立候補を表明した摩衣だが、民進党の公認候補となるためには、もうひと山乗り越える必要があった。

公認候補として立候補し、選挙活動へ

選挙区内の集会で賴清德副総統から紹介される(2022年10月30日撮影)

民進党は、調査会社に委託して電話による支持率調査を行い(参考イメージ:https://www.facebook.com/yamada.banqiao/videos/360326172738168)、その結果をもとに地方議員選挙の公認候補者の選考を行っている。

摩衣が立候補を予定している新北市第5選挙区(板橋區)の電話調査は、5月5日の18〜22時に行われ、選考には摩衣と現職2人を含む6人が臨んだ。上位5人(うち1人は女性)が公認候補者となるが、摩衣は全体2位のポイント(https://news.ltn.com.tw/news/politics/breakingnews/3917365)で、民進党の公認候補に選ばれた。

選挙活動中に配布していたうちわ(2022年7月21日撮影)

公認候補となってからは、街頭での個々面接、朝立ち、市政座談会、対策本部の事務所開きの集会などの選挙活動に追われた。だが、同時に新北市長選挙に立候補した林佳龍候補の活動や他の選挙区の応援などにも対応しなければならず、多忙を極めた。それに加え、疲労とプレッシャーからか、時が経つにつれ、マスク越しでも分かるくらい、頬が少しずつこけていった。

投票日当日の様子

陳建仁前副総統(右)とだるまの目入れ(2022年11月5日撮影)

新北市第5選挙区は、定員9人(うち女性枠2人)だが、今回は21人が立候補する混戦模様の選挙区となった。結果は19,740票、得票率7.7%で全体5位、民進党の公認候補者で2番目の数値で当選を勝ち取った。

選挙対策本部に集まった支持者たちの前であいさつを行う(2022年11月26日撮影)

当選の報を受け、摩衣は支持者たちの前で、落ち着いた表情と口調で、感謝の言葉と議員としての抱負を述べ、3週間前に当選の祈りを込め陳建仁前副総統と目入れしただるまに、自分で目入れを行い、大願成就の喜びに浸った。記念撮影では、常に選挙活動に同行し、一歩引いたところから摩衣を静かに見守った母とも行い、抱き合って互いの心労をねぎらったが、この時の母は今にもこぼれ落ちそうな涙を止めるように目頭を押さえたのだった。

だるまの目入れを行なう(2022年11月26日撮影)

現在、放送中の朝ドラ「舞いあがれ!」では、主人公・岩倉舞が航空学校でパイロットを目指す姿が描写されているが、新人議員の山田摩衣は新北市議会という舞台で「摩衣あがれ!」となるだろうか。

【参考】
寶島聯播網(寶島全世界)YouTube:https://youtu.be/zdVmsiGpW3k
寶島聯播網(寶島好銘聲)YouTube:https://youtu.be/Ds9yvE7LyGY
486會客室YouTube:https://youtu.be/bsOF64emHZY
朝日新聞:https://www.asahi.com/articles/DA3S15473206.html?fbclid=IwAR0fTgJoL8RDd7gkW3MVHvtIln8da-ItKa6pHPQ7A36sANrXJAbVYaBZeOI
山田摩衣facebook:https://www.facebook.com/yamada.banqiao
山田摩衣web名刺:https://linkby.tw/yamada_banqiao
山田摩衣instagram:https://www.instagram.com/yamada_banqiao/
山田摩衣 紹介ホームページ:https://vote2022.tw/yamada_banqiao?fbclid=IwAR1BSF-LYnG81BGR88k6ln5AxJupq6TpbDdUbSvsVQIDD37dlS4JoWN6AGQ

文・写真/小川聖市(台湾在住ライター)
台湾の野球を中心に取材、テレビ中継の情報提供、チャイニーズタイペイ代表の戦力分析の執筆などを経験。台湾在住歴12年。現在は、教育、学生スポーツなど取材範囲を徐々に広げている。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員(https://www.kaigaikakibito.com)。

 

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